第14話 作戦会議
「ゴーシさんも戦力に加わったことで、これからのことを考えますよ」
俺たちは小屋の中で話し合っていた。
俺はあまりのショックで小屋全体が吹き飛んでしまったように見えていたが、実際は屋根と壁の一部が吹き飛ばされただけだった。
……それでも、むかつくけどな。
今は、アルトが主導しての作戦会議中だ。
「まずは、ローレ・ツンイストがどこにいるのかを探ることです。まあ、これはすぐにわかります」
『うんうん』
アルトの言葉に、俺とフィーが頷く。
俺はこの世界出身じゃないから分からないけど、領主というえらい立場の人間ならそれなりに大きな家に住んでいるだろう。
それに、領民たちもどこに領主がいるかを知っているだろうし、聞けば一発だ。
「ローレの居場所を探るとともに、騎士たちの兵舎も確認しておきます。彼らが異変に気づいて駆け付けてくるまでの時間で、終わらせる必要があります」
『うんうん』
なるほどと、俺とフィーは頷く。
フィーとアルトがいればそこらへんの騎士たちにも負けることはないだろうが、戦えば必ず体力を消耗する。
なるべく戦わずしてローレとかいう領主をやっつける方が良いだろう。
それに、俺はこいつらみたく戦闘力が高いわけでもないし。
俺が高いのは、攻撃力だけである。
アルトの魔法支援がなかったら、また傷だらけで戦わなければならない。
もう、それはごめんである。
「フィー様のために一応言っておきますが、私たちは人間と全面戦争をするわけではなく、完全にフィー様個人の問題の仕返しです。ですので、兵舎にいる騎士たちを皆殺し……などという案は却下です」
「うっ……」
アルトが全てを見透かしているように言うと、フィーがビクッと身体を震わせる。
そして、俺も身体を震わせる。
なんて恐ろしいことを考えているんだ、この戦闘狂は。
しかし、領主をブッ飛ばしておいて全面戦争にならないのだろうか?
……まあ、そこらへんはわからない。
最悪、ダークエルフとエルフの『二人』が領主さまをやっつけたと噂を流せばいい。
俺、無関係。
「助っ人とか呼ばねえの?アルトみたいに、フィーを大切に思っているエルフなら手伝ってくれるんじゃないか?」
味方を増やして自分を目立たなくさせる作戦である。
しかし、その考えはアルトが首に振る。
「いえ、確かにフィー様を慕うエルフは多いですが、その者たちが皆集まって領主に襲い掛かれば、それこそ戦争になります」
……ちっ、ダメか。
まあ、戦争はない方がいいのだから、その案は取り下げるとしよう。
「それに、あまり他のエルフに頼ることはできませんから……」
アルトはボソリと呟いたため、俺の耳に入ることはなかった……なんてことはなかった。
しっかりと聞いていた。
どういうことだ?どこか、不穏な空気を漂わせる言葉だ。
フィーのことを慕うエルフもいれば、嫌うエルフもいるということだろうか?
どれくらい嫌われているか知らないけど、邪魔するんだったら来てほしくないよね。
しかし、フィーと少しの間とはいえ一緒にいた俺からすると、とてもじゃないが性格で嫌われるようなエルフではない。
むしろ、友人が多いほどだろう。
「あと、ゴーシさんはそのままでも構いませんが、私とフィー様は変装をする必要があります」
「えー、面倒くせえからいいだろ」
「ダメです。イナンセル王国にはほとんど亜人がいないのですから」
アルトの言葉に、フィーは顔を歪める。
戦闘狂には、ちまちました印象のある変装なんてお気に召さないのだろう。
確かに、街に下りてエルフやらの亜人は見たことがない。
もともと亜人なんていない世界で生きてきたため、それが普通だと思っていた。
そんな人間だらけの中、耳が尖がって容姿が整ったエルフ種が二人もいれば、目立って仕方ないだろう。
「とにかく、耳です。これを何とかします」
「でも、耳なんてどうしようもねえじゃん。フードつきのマントとか持ってねえし」
チラリと見てくるフィーに、首を横に振る。
そんなファンタジー万歳の衣服は持っていない。
「そうですね。ですので、私の隠匿魔法でどうにかごまかします」
そう言って胸を張るアルト。
おお、流石はサポートの魔法なら何でも使えると豪語しただけのことはある。
隠匿魔法というのは知らないが、何だかとっても便利そう。
「それと、フィー様の衣服ですね」
「え?それって必要?」
「必要です」
思わず俺はアルトに聞いてしまうが、即答で返されてしまう。
フィーの衣服は、簡素で頭からすっぽりと被るようなものである。
……まあ、確かに美少女がするような恰好ではないけれども。
でも、これはこれで目の保養になったりするのである。
「いいって。俺、これで十分だし!」
「ダメです」
フィーも面倒くさそうに言うが、アルトは引かない。
俺は正直どっちでもいい派である。
今の服装のフィーも可愛いし、着飾ったフィーも可愛いと思うからだ。
「でも、お金持ってねえじゃん」
「…………」
フィーの言葉に沈黙するアルト。
……え?お金持ってないの?
……黙っていよう。
「あれ?そういえば……」
何かを思い出したように呟くと、フィーは立ち上がった。
……おい。
「ちょっと待って、フィーくん。どこに行こうとしているんだね?」
「確かこのあたりに……」
俺の制止をものともせず、フィーは魔法攻撃で被害がなかったとある場所をごそごそと探り出す。
やめろぉっ!そこには、そこにはぁっ!!
「待ったぁっ!!」
「うぉっと」
「ぶふっ!」
俺はジャンピングをしてフィーに掴みかかるが、そもそも戦闘力が俺よりも素早さが高そうなフィーがあっさり捕まるわけもなく。
ひらりと簡単に躱されて、俺は地面に激突することになったのであった。
は、鼻を打った……っ!
「あ、やっぱりあった!」
その激痛にのた打ち回っていると、フィーの歓声が聞こえてくる。
ちくしょう!遅かったか!
俺が顔を上げると、フィーが重そうなものが入った袋を持っていた。
その中身を、アルトがいるテーブルにばらまくのであった。