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第12話 奮起

 








 フィーの仕返しをする相手が、ローレ・ツンイストと聞いて俺は付いて行かないことを脳内議会で採択した。

 いくら、面白いことが好きと言っても、貴族相手に喧嘩を売るつもりはない。


「そっか、じゃあお前ら頑張れよ。応援しているから」


 俺はそう言って、笑顔を浮かべる。

 良かったぁ、付いていくとか言わなくて。


 安易に口にしなくて本当によかった。褒めてあげたい。

 しかし、フィーはおかしなものを見るように俺を見た。なんだ。


「え、ゴーシも付いてきてくれるんだろ?」

「そんなわけねえだろ、馬鹿」

「はあ?戦いは最高じゃねえか。お前も強いんだから、戦いたいだろ?」

「そんなわけねえだろ、ボケ」


 何だろう……この戦闘狂の思考回路は……。

 強い者イコール戦闘好きみたいな方程式が、フィーの中ではできているのだろうか?


 そもそも、俺が強いのは攻撃力だけである。

 防御とかにはチートがないので、戦闘は全然好きではない。


 俺が好きなことは、勝つことである。

 俺の返事を聞いたフィーは、ぼそぼそとアルトに耳打ちした。


「こいつ、めちゃくちゃ強いんだ。絶対に役に立つって」

「本当ですか?」


 ……聞こえているんですけど。

 というか、他人の復讐に参加するつもりはないのだ。


 さっきはまああったけどね?それは、面白そうだからだ。

 しかし、正式な貴族が相手の復讐なんて、絶対に参加したくない。

 ほぼ間違いなく失敗するだろうし、成功してもお尋ね者である。


「ゴーシさん、力を貸していただけないでしょうか?」

「嫌だって言ってんだろ。聞けよ、貧乳」

「ちょ、ちょっとはあります!!」


 顔をカァッと真っ赤にして言うアルト。

 ご丁寧に、胸を腕で隠している。

 ば、馬鹿な……この俺が貧乳を可愛いと思うなんて……。


「とにかく、俺は付いて行かねえぞ。どう考えても、デメリットの方が大きい」

「俺のおっぱい触ったくせに!」

「だから、触ってねえし!」


 フィーのやつ、いつまでこれを引っ張る気だ!

 俺は感触を楽しんだだけだ!まだ、手で堪能したわけではない!


「…………」

「見ろ!お前が変なことを言うから、アルトが凄い目でこっちを見てくるだろうが!」


 アルトの目が、恐ろしいまでに冷たく凍り付いている。

 怖い!怖いよ!

 違うんです!俺、まだ何もしていません!


「……はあ、フィー様。無理強いはダメです。ゴーシさんにも生活があるんです。無理やり、フィー様の仕返しに参加させてはいけません」

「えー……」


 アルトがまだごねる様子のフィーを諭した。

 おお!貧乳エルフが役に立った!


 ありがとう、本当にありがとう。

 頑固なフィーは、多分俺が頷くまでごね続けていただろうからな。


 彼女を巧く操作できるアルトがいてくれてよかった。

 ただ、ここまで求められるというのは嬉しいものだ。

 たとえ、戦力的な意味だとしてもな。


「せっかく面白い玩具を見つけたのに……」


 求めていたのは、玩具としてかい。

 フィーがボソリと呟いた言葉に、心の中で突っ込む。


 ふう……まあ、こいつと一緒にいて楽しかったのは事実だ。

 もし、捕まってしまったら、顔ばれをしないように脱獄の手助けくらいはしてやるつもりだ。


「―――――アルト!」

「……っ!はいっ!」


 とか、ほのぼのと考えていたら、急にフィーが大きな声でアルトを呼ぶ。

 アルトも、数瞬遅れて何かに気づいた様子だった。

 え?なに?


「ぐぇっ!」


 はわわわわっと慌てていると、フィーが俺の首根っこを掴んで引っ張ってきた。

 し、死ぬ……!首を絞められたら死ぬ……!


 フィーはそのまま窓を割り、俺を掴んだまま飛び出した。

 アルトも続いて飛び出してくる。


 おい!何してくれてんだ!俺の家だぞ!

 そう、文句を言おうとした時だった。

 俺の、転移してきてずっと世話になっていた小屋が、爆発したのであった。


「……は?」












 ◆



 芸術は爆発であると、昔の芸術家が言っていた。

 だが、俺は小屋が爆発したのを見て、どうしても芸術的だとは思えなかった。


「…………」


 ……え?何が起きたの?

 訳のわからないうちにフィーに掴まれて外に飛び出して、少ししたら小屋がバーン。


 むちゃくちゃじゃないですか……。

 俺の小屋は……転移してきてからずっとお世話になった小屋は……。


「ちっ、うまく逃げられたか」


 呆然としている俺の耳に、聞きなれない男の声が聞こえてきた。

 フィーとアルトの可愛かったり綺麗だったりする声を聞いていたため、野太い男の声がやけに気に障る。


 俺がそちらを見ると、何人かの男たちが立っていた。

 今、喋ったのはローブをまとったいかにも魔法使いですといった風貌の男である。

 他の男たちは、皆騎士甲冑を身に着けていた。


「いきなり舐めた真似をしてくれるじゃねえか。あ?一応聞いておくけど、テメエら誰だよ」


 そう言って、凄まじい眼光で彼らを睨みつけるフィー。

 酷くお怒りのようだ。

 分かる。俺も怒っているから。


「わ、我々はツンイスト領の領主、ローレ・ツンイスト様にお仕えする騎士団だ。命令により、貴様らを攻撃させてもらった」


 フィーの睨みと圧に、魔法使いはどもりながらも答える。

 ツンイスト……?

 フィーを攫おうとした奴だな……。


「命令とは、フィー様を連れ去ることですか?」

「その通り。ダークエルフには、我々と付いてきてもらう」


 今度はアルトが聞くと、不遜にも言ってくる魔法使い。

 ……というか、いきなり攻撃しておいて付いてきてとかふざけているの?


 しかも、お前らが攻撃したのって俺の小屋なんですけど。

 転移してからずっと住み着いているから愛着も凄くあったんですけど。


「さあ、来てもらおうか。そこの人間、大人しくしていれば危害は加えない」

「眼鏡のエルフの女は来てもらう。美しい見た目をしているから、ローレ様に献上すれば喜ばれるだろう」


 魔法使いと騎士がそんなことを言ってくる。

 危害を加えない……?


 俺の家は爆発で吹っ飛んでいるんだぞ?

 そんなことを俺が考えている間に、騎士が近づいてくる。


「ゴーシ、ちょっと離れてろ。お前まで敵判定されたら困るだろ?」


 フィーはボソリと俺に呟いた。

 彼女もアルトも静かだが、絶対に大人しく捕まる気はないだろう。


 フィーはいつの間にかこっそりと召喚した刀を後ろ手に持っているし、アルトも魔力をみなぎらせていることが分かる。

 普段の俺なら、ここで見て見ぬふりをする。


 魔法使いたちは領主の命令で来ているし、それに反発するということは領主に反発するということになる。

 面倒なことが嫌いな俺が、他人のために領主に喧嘩を売るはずがない。


 その他人が、いくら面白かったとしても。

 だが、それは『自分のため』なら例外である。


「お、おい……?」

「なんだ、貴様!どけ!」


 俺は騎士とフィーの間に割り込む。

 フィーはなにをしているのかわからないといった様子で俺を見ているし、邪魔された騎士なんて俺を睨みつけている。


 おいおい、フィーはもともと俺を巻き込む気だったんだろう?うろたえてどうするよ。

 それで、騎士さん……。


「ふざけるな!!」


 俺は怒声を上げて、騎士に拳を叩き込んだ。

 頑丈な鉄でできた甲冑が容易く砕け、騎士は俺のパンチで遠くまで吹き飛ばされた。

 騎士が悲鳴を上げる暇もないほどの、一撃である。


「…………っ!?」


 皆が、俺を唖然とした様子で見ている。

 後ろに立っているフィーもポカンと口を開けて俺を見上げているし。


 俺が危ないと思ったのか、アルトはほとんど魔法を発動させていた。今はフィーと同じような顔をしているが。

 魔法使いや騎士たちも、唖然として俺を見ている。

 そんな彼らを、俺は睨みつけて怒鳴る。


「いきなり人様の家を爆破しておいて、大人しくしとけとか喧嘩売ってんのかボケェッ!」

「き、貴様!我々に逆らうことがどういうことか分かっているのか!?領主さまに……ローレ様に逆らうということだぞ!」


 上等だ!

 領主とかそんなこと関係ねえ!


「知るか!先に仕掛けてきたのはそっちだろうが!徹底的にやってやる!」


 俺は魔法使いや騎士たちを睨みつけて、そう宣言した。

 小屋を吹き飛ばされてちょっとテンションがおかしくなっているような気もするが、今は感情に任せて全部言ってやる!

 俺の攻撃力特化チートが伊達じゃないってことを見せてやる!





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