表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の娘  作者: _:(´ཀ`」∠):_
9/20

再会を喜べない私

「親も親なら子も子なのね、卑怯者」

 去り際に言われた一言に、私は背筋が凍るような思いだった。

 確かに私の母は愛人だ。

 アンネロゼにとっては、きっと貴族の妻から夫を奪った女という認識なのだろう。

 そして、それは私にも当てはまることなのだと、彼女は信じているようだ。

「アンファー?」

 その場で固まってしまった私に、エルレウスが不思議そうな視線を寄越す。

 エルレウスに聞こえないように囁かれた毒は、こんなに近くにいたのに届かなかったようだ。

 それを確信していただろうアンネロゼを、私は初めて恐ろしく思った。

 それまでの私にとって、アンネロゼは幼い少女のままで。

 幼かった頃のアンネロゼは、徹底的に私を無視していた。

 他の義妹が私にも母にも優しかったから、アンネロゼの存在はアランバード公爵邸でもとても目立っていた。

 私は、アンネロゼが苦手だった。

 嫌われていると解っていたから、私は私を嫌っている人と仲良くなれなくて、彼女を忌避していた。

 それは多分、今も変わらない。

「なんでもないです、ごめんなさい」

 数度頭を振って、気を取り直す。

 今はアンネロゼばかりを意識していられない。

 私は私に与えられた役目を果たさなければならない。

 エルレウスに微笑みかければ、彼は少し難しい顔をして、私の手を取った。

 そのまま手を引いて、人気のない方へと進んでいく。

 私はただ彼に引っ張られて付いて行くだけだった。

 人混みを上手く避けてホールから出て、通りかかった使用人を捕まえてそのまま控室に案内してもらう。

 使用人に案内された控室で、壁際に置かれた椅子に座るよう促される。

 椅子に深く腰掛けて、漸く一息つくことが出来た。

「君がこういった場は初めてだということを失念していた、それにアンネロゼのあれも……疲れただろう?」

 椅子に腰掛けた私の前に跪いて、エルレウスは気遣いの言葉をかけてくれる。

 心配そうに見つめられて、申し訳なくなる。

 きっとアンネロゼなら、こんな風にエルレウスに心配をかけることもないのだろう。

 屋敷を出てからずっと、エルレウスは私を庇うよう動いてくれていた。

 それは少なからず彼の負担になった筈で、そしてアンネロゼならば、きっと彼にこんな負担を強いることはなかった筈だ。

 そう思うと、自分の不甲斐なさに心が沈む。

「上手く出来なくてごめんなさい」

 何を言っていいかもわからなくなって、口から出たのはありきたりな謝罪だった。

 私がもっと、上手くやれていれば。

 私がもっと、アンネロゼのように美しい令嬢であったなら。

 私がもっと、アンネロゼのようなちゃんとした貴族の娘だったなら。

 エルレウスに迷惑をかけることもなかっただろうに。

 ぐるぐると渦巻く思考は、私を暗い底へと引きずり込んでいった。

「君は何も悪くない、君の変調に気づけなかった私の落ち度だ。 エスコート役として失格だな」

 膝の上で固く握り締められた手を包むように、エルレウスの大きな手が重ねられる。

 私より少し体温の低い手の平は、ひんやりとして気持ちいい。

「ここで無理をする必要もないさ、もう少し落ち着いたら主催に断って帰ろうか」

 私への気遣いと慰めに、目頭が熱くなった。

 それでも何とか涙は押し込めて、エルレウスの言葉に頷いた。

 エルレウスは優しい。

 短い間でも、私にはそれが良く分かった。

 きっと、エルレウスが他の誰かを愛していても、アンネロゼを愛していても、彼は父の遺言に従って私を優先してくれるんだろう。

 それが父への恩義から来るものでも、彼はきっと、私を立ててくれる筈だ。

 それが少しばかり嬉しくもあり、そしてどうしようもなく悲しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ