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銀の娘  作者: _:(´ཀ`」∠):_
8/20

初めてエスコートされる私

 にこにこと私以上に嬉しそうな笑顔のメイドに送り出されて、私とエルレウスは馬車に乗り込んだ。

 馬車の中では再会した日以降の暮らしぶり等を聞かれて、私は訥々と今日までのことを話した。

 取り敢えず教師たちにお墨付きを貰ったこと、着替えの度にメイドに玩具にされたような気分だったこと、ダンスが壊滅的に上達しなかったこと。

 エルレウスは相槌を打ったり、時折言葉を挟みながら私の話を聞いてくれた。

 心配の種だったダンスについても、エルレウスが得意であること、自分がリードするから任せてくれていいと私を慰めた。

 そして目的地に到着して、エルレウスの手を借りて馬車を降りた。

 エルレウスの先導で会場へ向かい、エントランスホールに入ったところで、私はそのきらびやかな人の群れに圧倒された。

 美しく着飾った人たちは皆、自分の美に対する自信に満ち溢れて見えて、それは途端に私に自分が場違いな人間だと思わせた。

 エルレウスと組んだ腕に力がこもる。

 足も震えていた。

「大丈夫、私が傍にいる」

 私の恐怖心を宥めるように、エルレウスが耳元で囁いた。

 隣を見上げれば、エルレウスは私の目を見て、柔らかく微笑む。

 その微笑みは本当に不思議で、魔法のように私の心を平らに均していった。

 エルレウスに大丈夫だと言われると、不思議とそのように思えた。

 実質会って話すのは二度目だと言うのに、他に頼れる人がいないからか、私は知らない間にエルレウスを随分と信頼していたらしい。

 エルレウスにぎこちないながらも笑みを返して、私はもう一度前を向いた。

 視界に入る人々を見ても、もう足が震えることはなかった。

 エルレウスに連れられて、まず主催に挨拶をする。

 授業で習った通りの対応しか出来ない私だったが、エルレウスが積極的にフォローしてくれたお陰で事なきを得た。

 それからアランバード公爵家やグレムリン伯爵家と関係のある貴族に簡単に挨拶をした。

 この時もエルレウスが会話を巧みに誘導して、私は殆どエルレウスの横でにこりと笑っているだけで良かった。

 実際私がしたのは、エルレウスが婚約者として紹介してくれた後に相手に微笑んで名前を名乗ることくらいだった。

 せめて一曲は踊ろうかと手を引かれて、内心断りたい思いだった所に、鈴の鳴るような声がエルレウスを呼び止めた。

 足を止めて振り返れば、そこにはワインレッドの背中が大きく開いたドレスを着た女性が立っていた。

 朧気な記憶の中に見た顔だった。

 それはエルレウスの呟きで確信に変わる。

 同い年の義妹、アンネロゼだった。

「エルレウス様もいらしてたのね、お会い出来て嬉しいわ」

 その声は喜びに溢れていた。

 そしてエルレウスの真横にいる私のことは全く視界に入っていないらしい。

 アンネロゼは熱い視線をエルレウスだけに送っていた。

「ええ、フィリップフラウ公爵令嬢もいらしていたのですね」

 エルレウスがフィリップフラウ公爵令嬢と呼ぶと、アンネロゼは僅か一瞬だけ眉根を寄せて、しかしすぐに愛らしい笑顔を浮かべ直した。

「何時ものようにアンネロゼと呼んでくださらないのですか?」

 甘えるような声でアンネロゼが求めれば、エルレウスは微笑みを浮かべたままなんと答えるか迷っているようだった。

 なんとかしてエルレウスを助けなければと考え、私は思い切って二人の会話に割って入った。

「あの、エルレウス様のご友人でしょうか?」

 あからさまに私を無視してエルレウスと会話を続けようとしていたアンネロゼの邪魔をするように割り入れば、アンネロゼの方から鋭い視線が飛んできた。

 しかしそれも一瞬のことで、アンネロゼは私に向けて何処か勝ち誇ったような笑みを見せた。

「私はアンネロゼ・フィリップフラウと申します。 ところで貴女はどちらのご令嬢ですの? 会話のマナーもなっていないんじゃなくて?」

 あからさまに私を無視して話し続けようとしたのはアンネロゼだと言うのに、彼女は会話に割って入った私を堂々と批難した。

 どう答えて良いものかわからず、縋るようにエルレウスを見れば、彼は私を安心させるように笑ってくれた。

「彼女はアンファー・グレムリン、グレムリン伯爵家の令嬢だ。 幼い頃から病気がちでね、今年漸く社交界に出られるようになったんだ、余り責めないでやってくれ」

 エルレウスは私を背に隠して庇うように一歩前に出た。

 彼の背に隠れるようにして、アンネロゼの様子を伺えば、彼女は私をきつく睨めつけた。

「まあそうでしたの? グレムリン伯爵家はアランバード公爵領にお住まいの方だったかしら、それでわざわざエルレウス様がエスコートしてらっしゃるのね」

 アンネロゼの口撃に私はだんだん目眩がしてきた。

 彼女はグレムリン伯爵がアランバード公爵領内の貴族であることから、エルレウスが不慣れなアンファーをわざわざエスコートしていると捉えたらしい。

「そうだね、グレムリン伯爵家は我が領に住んでいて、我が公爵家とも長く交友のある家だ。 何より彼女は私の婚約者なので、これから両家の繋がりはより強いものになるだろうね」

 笑顔ではっきりと自分の婚約者だと告げたエルレウスに、アンネロゼの笑みが凍りついた。

 憎しみのこもった視線が突き刺さる気がして、私はエルレウスの背に隠れる。

 すると周囲の温度が下がったような、背筋が冷えるような感覚を覚えて戸惑ってしまう。

 もうアンネロゼと話をしたくない。

 そう思って、私はエルレウスのジャケットの裾を掴んで少しだけ引っ張った。

「すまない、彼女は随分と人見知りなんだ。 それに初めての夜会で少し疲れていてね」

 私を背に隠したまま、エルレウスが言った。

「そう、それは大変だわ。 名残惜しいですけれど、今日はこれで失礼します」

 今日はを強調して言ったアンネロゼは、わざわざ立ちすくむ私の真横を通って立ち去った。

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