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銀の娘  作者: _:(´ཀ`」∠):_
3/20

再会を喜ぶ私

 私自身がすっかり忘れ去っていた約束を果たす、使者が訪れたは、私の17歳の誕生日のことである。

 もう霞みつつある記憶の中でもまだ鮮明な、公爵家の紋章。

 その紋章をあしらった馬車は、間違いなく公爵家のものだった。

 アランバード公爵家からその人は私に会いに来た。

 それはかつて私を孤児院に預けた執事ではなく、若い女だった。

 彼女は優雅に一礼して、私に言った。

「お迎えにあがりました」

 それが全ての免罪符にでもなると思っているのか、彼女は私を馬車に連れ込み、そのまま御者にどこかへ向かうよう指示を出した。

 混乱する私にも、それがアランバード公爵邸へ向かっているのではないことは理解出来た。

 私は馬車に揺られながら、孤児院のことを考えていた。

 何も言えず、挨拶の時間すらなかった。

 人攫いにでもあったと思われていないだろうか。

 心配性のサリーが、泣いていないだろうか。

 ぐるぐると不安が渦を巻く。

 私を馬車に連れ込んだ女は、馬車に同乗しているが、何も言わない。

 私には何がなんだか訳の分からないまま、馬車は走りつづけた。

 沈黙と居心地の悪さから長い時間がかかったようにも思えたが、実際には、日の傾きから判断するにそれ程時間のたたぬ内に馬車は止まった。

 まず御者が車内に声をかけ、それに女が応える。

 それから御者が扉を開き、まずは女が馬車を降りた。

 それから、私にも下車を促し、馬車に籠城するわけにもゆかず、馬車を降りた。

 辺りを見回すと、そこが整えられた庭であることがわかった。

 おぼろげな記憶の中にあるアランバード公爵邸より小さいが、貴族の邸宅なのだろう。

「アンファー!」

 キョロキョロと辺りを見回す私に、明るい声がかかる。

 緩くウェーブした栗色の髪の、美しい少女。

 少女を見たとき、私の目から突然涙が零れ落ちた。

 おぼろげだった記憶を塗り替えるように、全てが鮮明になっていく。

 それは孤児院で何度も何度も繰り返し思い出していた、義妹の成長した姿だと、私にはすぐに理解出来た。

「アドリアンヌ? 本当に……?」

 駆け寄ってきた少女の頬を両手で包み、私はその懐かしさの残る顔をじっくりと見つめた。

「本当よ、アンファー……また、会えて嬉しいわ」

 少女、アドリアンヌもまた、美しい翡翠色の瞳から涙を零していた。

 暫く二人して泣きながら抱きしめあい、再会を喜んだ。

 それから私を迎えに来た女に促されて、小さな邸宅に入った。

 応接間には二人の男性が待っていた。

「アンファー、こちらは宰相であるフィリップフラウ公爵様よ、その隣にいらっしゃるのが私の婚約者のフロルド・フィリップフラウ様」

 義妹の紹介に、二人の男性が優雅に礼をする。

 着席を促されて、お尻が沈み込むほど柔らかなクッションのソファーに腰掛けた。

 アンファーの隣には、アドリアンヌが寄り添うように座る。

「君がアンファー・アランバードか」

 フィリップフラウ公爵は私を品定めするように見やった。

 その視線に少しの不快感を感じながらも、私はフィリップフラウ公爵を真っ直ぐに見つめた。

「今はただのアンファーです」

「失礼、今回は故アランバード公爵の遺言の為、君の力を借りたいのだ。 その為に呼んだ」

 フィリップフラウ公爵はそう言って、私に一枚の羊皮紙を見せた。

 それは亡き父の遺言状だった。

 そこには、ただ一文だけが記されていた。


――我が子アンファーの夫となる者をアランバード公爵とする。


 私は驚いた。

 一度も会いに来ることなくこの世を去り、その葬儀にも呼ばれることのなかった私を父が覚えていたことに、少しの困惑と多大な喜びを感じていた。

 しかし、疑問も感じた。

 私には腹違いの兄がいた。

「エルレウス義兄様にいさまとは半分とはいえ、血が繋がっているのだからこの遺言状は無効ではないのですか?」

 当然、公爵家は義兄が継ぐものと思っていたのだが、これは一体どういうことなのか。

「そのことについても、お話があるのです」

 アドリアンヌのあまりに真剣な瞳に気圧されて、私は知らず息を呑んだ。

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