chapter1 【赤】の男
何人ぐらいいるのだろう?
夏美達が向かった先に物凄い人数の女の子達が集まってる。
通行車のクラクションに、人だかりは私がいる歩道に場所を移し
REIと呼ばれる男を取り囲む女の子の中から夏美達が出てきた。
「まじカッコ良いんだけど〜!知らなかった〜!今日出るって」
「何かシークレットって言うかセッションじゃなくって新バンド結成らしいよ?」
麻紀・智子・私・夏美の順で座り込み
3人が大興奮している中
私の【もしも】ごっこは
次の車が【白】だったら
その人と自然消滅はしないという問いの結果を待っていた。
「よぉ!何クッチャべってんだよ」
「や!篤君まで何でいるの!?」
「何でってREIとさ、新しいバンド組んで。浅見とYUIもいるぜ?」
近寄ってきた態度のデカイ男の口から
浅見って夏美から何度も聞いた名前に反応したけれど
車が気になって向き返す。
「浅見?そう言えばいねえな。クソじゃねえ?そっかお前は浅見狙いだもんな!なあ浅見知らねえ?YUI〜」
「YUIちゃん久しぶり〜」
1人だけ黒髪のこの人に一目見て私は何かを感じた。
これがYUIちゃんとの出会いだった。
「おう久しぶり〜。で、お前はさっきから何処を見てるの?」
もしもの結果は【白】
「え?あ・・・車の色当てを・・・」
「何で?」
もしもごっこの
【赤】はきっとこの人
意味はないけどそう思って
「お前らの連れか!?俺なんか幽体離脱でもしてるのかと思ってたぜ!」
篤君の言葉に大爆笑の渦の原因になってる事よりも
【赤】の運命を感じた男と目が合うのが恥ずかしくってうつむいた。
「よ〜し!お前ら篤様の機材だ。持ってけ!」
重そうな機材やバッグを夏美達が運んでいった中
また放置された私は、1人黙々と機材を出すYUIちゃんを見てた。
身長は夏美より結構大きかった。
180センチぐらいあるのかな?
ミリタリー系のフェイク付フードコートを来た彼の背中に何か話す内容を探してる最中、
幸運にも現れた1人の女の人がYUIちゃんに話しかけた。
何かきっかけが見つかるかもしれない!
そう思って、2人の会話に耳を大きくしてみた。
「YUIちゃん 運ぶの手伝おうか?」
「うるせえって」
「YUIちゃ〜ん 何かつれな〜い!」
「うるせえって言ってんだろ!」
お世辞でもキレイとは言えない女の人にYUIちゃんの飛び蹴りが見事に決った。
「いいか!俺の20メートル範囲以内に入るな!視界から消えろ!ブス」
「酷っ〜い!でも、そんな冷たいYUIちゃんもス・テ・キ」
負けない女ってある意味見習いたい。
さらにグーで顔面を撲られたのに、大〜好き!と叫んで笑顔が去って行った。
そばに残っているのは私だけ。
鋭い目に近づくな!オーラがバリバリ出まくって雰囲気悪いし
男なのに女を蹴るなんて最悪。
話しかけなくて本当に良かった。
人生の中で会った男の中で1番最低な男!
あの篤君という人も態度はデカイし一体何者!?
【最低な男】
YUIちゃんを、そう位置づけ
一瞬でも運命だって勘違いした自分にも、がっかりした時、
「おい。お前また幽体離脱でもしてるのか?
おい!そこの天然!」
YUIちゃんと視線が合った。
夏美達は他のメンバーと喋ってる。
他の誰かを呼んでると願って周りを見渡すけど・・・
YUIちゃんの指は私を指してる。
え・・・・?私?
「こっち来いよ」
「あっ!はい・・・・!」
言われるがままに近寄る。
こんな最低男に、大きな声ではっきり返事なんかして。
男の人に慣れていないのがバレタ気がして恥ずかしい。
「お前名前なんていうの?」
白い大きな車から黒い大きな箱を何個も取り出しながらYUIちゃんが聞いてきた。
「そっか。優奈これ持ってて」
初対面で下の名前をイキナリ呼び捨て!?
「何?きょとんとして」
「いや・・・何でも」
「なあ・・・」
短い沈黙の中、
(あ〜。次は何を持たされるのか)
そう思い違いをして、
「また車の色当てしてたの?ってかそれって何か意味あるの?」
予想もしていなかった質問に思わず赤面した。
【もしもごっこ】をしてるなんて恥ずかしくって決して言えない!
言い訳を探す間もなくYUIちゃんが手を止め、荷台に腰をかけて続けた。
「あれじゃねえ?
もしも〜車が白だったら幸せになれるとかさ」
「え?何で判ったの?同じ事するんですか!?」
「しねえよ・・・・そんなイタイ事」
変な沈黙・・・
完全に寒い子だとバレタ。
何か喋らないと・・
何でも良いから余計にイタイ。
「名前 何て言うんですか?」
知っていたけどコレしか出てこない。
この場の空気を変えれるなら十分。
「俺?YUI。」
ベタ過ぎるけれどご褒美を上げたいほど自分を誉めたかった。
イタイ空気は、思ってたより簡単に立ち去ったのか。
それほどYUIちゃんがイタイと思ってなかったのか。
何事も感じてないように会話が続いた。
「お前見た事ないけど夏美の友達だろ?」
「今日初めて来て。夏美の高校のクラスメイトで」
「あいつ。学校全然行ってないだろ」
「先週久しぶりに来て、いつも突然で」
「だろうな。ちょっと、そこどいて」
車から1番大きな箱が出された。
「これは、バスドラ」
「バスドラって・・・」
「簡単に言うとドラムの」
「ドラムって。あぁ!太鼓ね!」
「太鼓だあ!?って、マジでお前って本当に何にも知らないんだな!」
腹を抱えYUIちゃんが車の荷台で悶絶しながら笑い始めた。
「太鼓だって おかしいよ」
「おかしくないよ!」
「お前本気で祭りじゃないんだから 太鼓ってヒィ・・マジ苦しい」
「おかしくないよ!
YUIちゃんのそのヒィ〜って笑い方の方がおかしいです!」
そう言わなきゃ良かった。
後悔は先に立たず
「うるせえよ」
急に低い声で言ったと同時に立ち上がったYUIちゃんに思わず目を閉じた。
きっと、あの女みたいに蹴られる!
瞬時に覚悟して、目も口もギュッと瞑った。
「何!?どうした!?」
まだ蹴られてない。
変わりに聞こえるのはかすかな笑い。
勇気を出して目を開けると、困った顔をしたYUIちゃんが見えた。
「あ〜。さっきの・・・。見てたか」
ただ頷いただけの私に
どこかバツの悪そうな顔をした。
無言の時間に耐え切れなくなったのか
通りすがりに叩いたと言うよりは、私の頭を手で撫でて
「お前にはしないから安心しな」
そう言い残し、YUIちゃんはメンバーの所へ歩いていった。
一瞬だけだったのに、触れられた部分だけが温かい。
「お〜!準備は終ったか?」
篤君の言葉に、YUIちゃんの周りに女の子達が群がり
写真を撮られたりサインをしてライブハウスの中に消えていった。
「優奈〜ごめんね!ほったらかしにしておいて」
「え?YUIちゃんが?珍しい事もあるもんだ」
あまり女の子と話さない人らしく
「お前にはしないから」と
言われた事は夏美達には言わなかった。
と言うよりも何故か隠したくなった。
「何か良い事あったの?顔が明るいって言うかノッテ来たんじゃない?」
「そう?別に何にもないよ」
意味はないけど
【もしも】ごっこの
【赤】の結果はきっとこの男。
そして【白】
自然消滅はしない。
目には見えないけれど、もし目に見えるのなら
私の指とYUIちゃんの指は赤い糸で繋がってる何故かそんな気がした。