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disappear  作者: 黒土 計
71/71

chapter2 待ちわびて

残り2曲。


「俺達に付いて来いよ!頂点見せてやるからよ!」


REIさんの差し伸べた手に群がった隙間から、初めてYUIちゃんの顔が見えた。


その瞬間、大音量で駆け巡る振動も。


腕を振り上げて飛び跳ねる女の子達の熱気も何もかも消えて


ただYUIちゃんだけをスローモーションに感じた。


初めて見た金髪のYUIちゃんに、携帯から聞こえた声が蘇ってくる。


(俺だって会いたいよ)


(本当にお前は、しょうがねえヤツだな!)


声が重なっていく。


(また電話すっからよ)


(今度は最後までHしような!)


思い出すたびに感じる違和感。


泣きたいぐらい会いたかったYUIちゃんのはずなのに、何故か別人に見えたのはどうしてだろう。


黒髪の頃の面影がない。


送ってくれた写真の中のYUIちゃんとも違う。


もう一度、確認したいけど人の波で頭しか見えない。


さっきまで何度か見えたのに振り上げる腕達に邪魔されて見えない。


少し横に移動してみるけど、誰かの頭で。


REIさんの体で見えない。


曲の最中にされたメンバー紹介もYUIちゃんの姿は見えなかった。


最後の曲も残り僅か。


すぐそばにいるのに。


こんなに近くにいるのに。


頭と心がモヤモヤで爆発しそう。


後で会えると自分自身に何度も言い聞かせるけど募る思い。


何も解決しないままでライブは終了した。



初めてYUIちゃんと出会った思い出の場所。


夏美と智子。麻紀と座ったこの場所に、エリゴン達に囲まれながら腰を下した。


去り際に篤君は指を差しながら。


浅見君は最後に1枚だけ無差別にピックを投げたけど


YUIちゃんは何もせずに去って行った。


「今日のピックもゲット~!」


篤君が投げまくった1枚を高らかにあげてエリゴンが飛び跳ねている。


その横で鬼のような形相のハイジ。


「私なんて超最悪だよ!ちゃんと受け取ったのにさ!」


「え?ハイジの事を篤君呼んでたよね?」


「違うの!後ろにいた女が飛びついて来て、私取ったのに手から奪い取られてさ!」


「私見てたよ!ギルドのファンの子でしょ!マジ最悪!」


「え?顔見てた!?」


「みんな判る子だよ!ほら!横浜の時に1番最初に並んでた!」


「2人いたじゃん!どっちの子?後で文句言おうよ!」


「まとめて2人共言ってやろうよ!ゴッドには2度と来れない様に思い知らせないとね!」


「そうだよ!絶対に許しちゃダメダヨ!」


「まあ。それは後で解決するとしてさ。どうでも良いけどメンバー出てくるの遅くな~い?」


「ギルドは機材とっくに撤収したんでしょ?」


「ローディーも出てこないし、何かあったのかな」


「てかさ。あれって、まさかゴッド待ち?アイツ等もギルドでしょ!?」


「あの子ってソリッドのファンじゃない?」


「あ!本当だ!何でゴッドに来てんの!?マジで超人多すぎ!ウザインだけど!」


機材搬入口の扉の前に群がる女の子1人1人を確認しながら怒り心頭なエリゴン達。


今にも喧嘩が起こりそうな緊張感漂う空気の中、突然扉が開き篤君が現れた。


「おー皆の衆!待たせたな!」


さっきまでの心配は一瞬で何処へ行ってしまったのやら。


誰も彼もがありったけの笑顔で、篤君に群がり色付いた声を上げている。


「分かった分かった!俺様の体は一つなんだから、そう焦るなって!」


サインをねだる声。


写真をせがむ声。


「時間がねえからよ。まあ、貢ぎ物があるやつが優先だな。

手紙とか写真くれるやつ以外だぞ!って!居ねえのか!?タバコぐれえ用意してから来いよ!!」


笑いが起こる中で、我先にと輪を離れ走していく女の子。


「お前は気が利くって思ったけど、金券は金券でもよ!使いにくいんだよな~。

せめてQUOカードとかよ~!まあ、持って来たんだからって初めて見る顔だな。お前名前は?」


女の思惑と嫉妬が見え隠れする中、その群れの後ろにある扉に私の気持ちは全身系を集中していた。


REIさんがローディーらしき見覚えのある男の子と出て来て閉まった扉。


続いて浅見君。


その後に出て来たのは受付にいたライブハウスの店員。


篤君が出て来てから約20分。


浅見が出て来てから10分近く経つのに。


何度も人が出入りするけど、YUIちゃんだけ出て来ない。


メールも電話も未だに来ない。


待ちわびて扉が開くたびに胸がドキドキがする。


8月下旬の夜ってこんなに肌寒いものだったのか。


最近夜遊びしない私の肌に立った鳥肌。


擦って温めているのに、気にすればするほど広がっていく。


もう少ししたらYUIちゃんが出てくるかもしれないのに!


焦れば焦るほど胸のドキドキまで加速する。


頭の中までブツブツして来たような不快感。


(寒いのか?寒いのかって)


聞こえるはずのない小声が駆け巡る。


(寒いんだろ?)


その声がどんどん大きくなってYUIちゃんの声に聞こえてくる。


(なあ。おい。聞こえてねえのか?)


携帯から伝わる優しい声。


(なあ!優奈って!)


幻聴でもいい。


(こっち見ろって!左!優奈!左だって!)


その声に従って横を向いた時


それは幻聴ではなく機材車の影に隠れてたYUIちゃん本人だと気が付いて思わず声を上げそうになった。


「大きな声出すなよ?驚いたか?」


「いつから居たの!?」


「馬鹿!声がデケえって!」


誰にも気付かれないように小声の会話。


「正面見たままで聞けって!俺がココに居るのがバレルだろが」


YUIちゃんからだけ私が見えて。


私の目に映るのは篤君と取り巻く女の子達。


最初は、それでも良いと思った。


目が合うのが恥ずかしくて。


自分に自信が持てなくて。


俯く事しか出来なくて、それで良いと思ってたけど


「やっぱりお前可愛いな。そうやって髪の毛上げってんのも良いじゃん」


「見ないで下さい」


「擦ってあげたいね~。色んな所をさ!」


「変態!本当に最低!もう喋んない!」


話してるうちにツンデレ化。


思ったより声が大きかったのか。


本当は、俯きながらチラ見してたのがイケナカッタのか。


「悪かった!で・・・・あのさ。今日の事なんだけど」


一瞬の無言の後、躊躇いがちに話し始めたYUIちゃんから1番聞きたかったその続きは


「YUIちゃん見~つけた!!」


長い黒髪の女の子に中断された。


「ずっと待ってたのに!何処から出て来たの~?」


細い足首にアンクレット。


抜群のスタイルを惜しげもなくアピールするミニのワンピ。


クネクネ揺れ動くお尻がYUIちゃんに話しかけてる。


その現況を黙って見てる事しか許されないのにもイラつくけど


ボン!キュッ!ボーンってのが、また気に障る。


今日の予定さえ聞ければまだしも。


途中で邪魔に入ったコノ女に言いようがない怒りを覚えた瞬間


「テメエ!気持ち悪りいんだよ!」


YUIちゃんから腹蹴りをクラって


目の前に転がって来たミニワンピの彼女が誰だかという事に気が付いた。


初めてYUIちゃんに出会った時に見た南海キャンディーズ山ちゃん似の彼女。


前と同じ光景に引きを感じながら早く彼女が去る事を期待してた。


「俺の視界に入ってくるなって言ってんだろが!忘れたのか!?」


「やだっ!眼鏡にヒビが入っちゃった!」


「知るか!テメエが寄って来るからだろが!早く散れや!」


彼女さえ居なくなればと思ってた。


前と同じように彼女さえいなくなれば。


でも、気が付けばアノ子もこの子もYUIちゃん待ち。


ソワソワしながら待ってる感じが可愛く見えて腹ただしい。


私より目が大きくて可愛い子。


私と違ってボーイッシュで格好良いショートヘアの綺麗な子。


もしかしたら、私なんかよりYUIちゃんが気に入ってしまうかもしれない。


「俺は忙しいんだ!お前等も気安く話しかけてくんじゃねえぞ!!さあ分かったら、とっとと帰れ!」


そんな不安を一括で吹き飛ばしたYUIちゃんの暴言。


怖い人と聞いたレッテルどおりファンへの酷い対応。


でも何故か私の心に安心と安堵をくれる。


みんな去って行かなければ予定が聞けない。


1人。一気に4人。


「じゃ!お疲れ様でしたー!」


いつもの事と分かってるらしき子達は笑顔で去って行くけど


知ってか知らずか、負けない子達が写真をねだる。


「あ~!マジうるせえ~!全員早く帰れって言ってんだろが!」


あと6人。


この子達さえ居なくなれば。


居なくなれば予定が聞ける。


絶対にそうなる筈だと思ってた。


「聞いてるのか!?お前も早く帰れよ!」


そう言い放ったYUIちゃんの指先。


自分に向けられたのだと認識したのは


「風邪引くぞ」


立ち去り際に頭を軽く叩かれてからだった。

色々と時間がなくて更新が大変遅くなってしまいましたが、第一章となる本作品は完結致します。続きは「disappear 2」として連載します。またまた長~いお話になりますが、1から読まなくてもある程度判って頂ける内容となります。拙くて読みにくい文章ですが、どうぞ宜しくお願いいたします。読んで頂きましてアリガトウゴザイマシタm(__)m

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