chapter1 初恋
ネオンに明かりが灯り
オフィス街は夜の世界に変わっていた。
家路に急ぐ人や忘年会か何かの待ち合わせをしてる人達。
同じようなスーツを着ているけど顔を見ただけで目的って言う物が判る。
この街の中で私は何をしている風に見えたのかな。
生まれて初めてサラリーマンと言われる男性にナンパされた。
「ねえ彼女達。オレ達と食事でも行かない?」
「ゴメンネ〜今日は友達と待ち合わせなの〜!
でも残念〜!お兄さん達カッコイイし〜!」
社交辞令的な断り口調とは思えない。
本当に夏美が残念そうに見える。
隣の駅にある外資系の製薬会社に勤めていて、年は2人共28歳の同期。
1人は県内で1位2位に頭が良いと言われてる大学出身。
背が高い方の中学校は私の学区の隣。
全ての会話を夏美が返す。
どうすれば良いのか判らず
夏美の横でただつっ立ってるだけの私にも話しかけてきた。
「ねえ彼女?オレ達怪しいヤツラじゃないからさ!」
言葉は何も返せなかったけど、自然に「男」に反応して笑顔を返した自分がいる。
携帯で赤外線受信しだした夏美と背が高い方に気が付いて
もう1人の男も携帯を出した。
「あ!私の方を教えておくよ。この子奥手だからさ〜。」
駅に向かって歩く私達に、流れる人の合い間から2人が手を振っている。
「絶対連絡してよ〜!約束だからね!バイバ〜イ!」
夏美は大きな声で手を振り替えした。
その隣で私は頭をペコッと下げたけど、
きっと前を通りすがったおじさん達で見えなかったかもしれない。
「今、背の高いほうの事考えてたでしょ!」
「何で判るの!?」
「だって優奈が保護してる画像のヤツに似てない?」
私が卒業した中学の
隣の学区の卒業生で今は1人で住んでるって言ってた。
背が高くて顔も雰囲気もどことなく私が好きで堪らなかった初恋の男に似てる。
「ほら、やっぱ似てるじゃん!親戚とかじゃないの?」
絶対に違う。
近くに親戚がいるなんて聞いた事がない。
私が一目惚れをした転校生。
背が高くて細身の体。
そう・・・・間瀬に
【似てるだけ】
中学3年の7月。
一目惚れしてから10分後には
「こういう女って」
【俺は嫌い】
その言葉に砕け散った初恋は
怒りと悲しみを抑える事ができなくて。
初対面でイキナリ
頬を引っ叩いたうえに
股間に蹴りまで食らわして。
出会いは本当に最悪だった。
その2日後
「付き合ってほしい」
想像もしていなかった間瀬から電話での告白をきっかけに
「友達以下から頑張りますわ」
素直になれなかった私と
間瀬との誰にも秘密の仲が始まった。
学校ではお互いの存在を確認し合うだけ。
いつかかってきても良い様に
学校から帰ると急いで支度をして
電話の前でずっと待って。
咳払いに発声練習。
受話器から間瀬の声が聞こえる度に
泣きそうなぐらい嬉しかった。
同じ時間を繋がってると思うだけで
本当に幸せだった。
「はぁ〜信じてくれないか」
天邪鬼な事ばかり言って
ツンデレと言うには程遠くて
間瀬は気付いていなかったかもしれないけど
本当に本当に大好きだった。
好きになればなるほど
受話器から聞こえる溜め息を
リアルに耳元に感じたくて。
間瀬の体温。
間瀬の指。
間瀬の匂い。
素直じゃない自分が本気でイヤになって。
何度告白しなおそうか考えたクリスマス前。
電話だけじゃ、物足りなさに限界を感じた正月明け。
正直に秘密にしていた関係全てを友達に話して
祝福と声援を受け勇気を持ったバレンタインデー前。
でも私から行動を起す時には何かが変わっていて。
間瀬は否定してたけど
「付き合ってるんだよね!」
間瀬と同じクラスの女の告白に
素直になれなかった私と間瀬との関係は
【友情という名の】
手加減を知らない友達が起こした行動により
間瀬の体に大きな傷を残すという結果で幕を閉じた。
忘れたくても忘れられない
最悪の結末で終った私の初恋。
退院後、離婚した父親方の家に
1人だけ引っ越したらしいけど本当の事は判らない。
ただ判っているのは
いつも電話をかけて来てくれたアノ部屋にはもういない事。
謝る事も、何もかもすべを失った私に出来たのは
【もしかしたら】
愚痴や文句の1つでも言う為でも良い。
そんな思いで電話の前で待ち続ける事だけ。
学校が終って真っ直ぐ帰って
何をするにも電話に縛られ悲しみで涙が溢れる日々。
自分でも諦めた方がイイって判ってた。
そんな日々に終止符を打ちたくて、忘れる為に同じ苗字の男と付き合った。
でも、忘れられなかった。
そんな間瀬に見た目も雰囲気も似てる男。
間瀬に似てるなら誰でもいい。
このまま、あの男と何処かに消えたい。
「って優奈!?何泣いてるの!?」
間瀬に似た男の誘いを断って
電車に乗り込んだ事を本気で後悔した。