chapter2 ライブハウスの花子さん
スタートする前の方が、会場に勢いを感じたような・・・。
そんな盛り上がりにかけた先行バンドのライブが終了した。
「何か対バンって言うよりも前座って感じだよね〜」
「え〜?ペーター。それって酷くない?」
「いやー?ホントそんな感じ。エリゴンは見てないから判らないんだよ。」
「ゴッドになってから全然違うってか、悪いけどギルドなんて本気で前座だよね」
「判る判る!何かゴッドになってからスゴイよね!もう、ワンマンの域って感じ!」
「だよね!だから、うちら全部着いて行こうかって考えてて!」
「マジで!?北海道とかも!?ってか、キイちゃんグラビはどうするの!?」
「ゴメン!エリゴン。私行けないや。」
「え~!?シゲ君から、もうチケット買っちゃったんだよ!?」
「じゃあ、チケット代は出すからさ。本当にゴメン!マジでそんなの行ってる場合じゃないの!」
「誰かに売れば良いじゃん。俺も全部は行く気なかったけど、ハイジと一緒に行くからさ。」
「ハイジとペーターもなの!?ブラスターはどうするの!?」
「うち等ブラスターは卒業して、ゴッド一本にするの。もう、行けない日が出たらマジ気が狂うよ!」
「もうイベントじゃない限り、他のバンドには行かないね。
ってかさ、今回のツアー着いて行かないと、みんな絶対に後悔するよ!?」
ペーターの熱の篭った呷りに、みんなが夢中になっている。
その話に私も興味がなかった訳じゃない。
それよりも今の私にとって大切な事。
盛り上がる輪の中に入らず、次に立つ位置を探していた。
ここに居たらYUIちゃんから見えてしまう。
先行のライブの間ずっと確認してた。
エリゴン達の頭の影。
ペーターの肩越しに隠れて見てたけど、途中で一瞬ドラムの人と目が合った気がする。
ここに居たら、きっとYUIちゃんから私が見えてしまう。
もっと後ろに。
私からだけが見える場所に行きたい。
そう、場所を探している時、私の視界から何かが消えた。
ステージからは死角になる入り口近くの壁際。
誰かが私に気が付かれる前に隠れた気がした。
「ユウナンどうしたの?」
「アソコに誰かが隠れた気がして」
「アソコって角の所?」
「うん。フッって消えちゃったんだけど」
「マジで!?」
「それって、アレを見ちゃったんじゃない?」
「アレって?」
「もしかして見たのって?髪の長い女の子じゃなかった!?」
誰かは判らない。
一瞬の事で、どんな子だったか何て判別付かない。
でも、きっとただの偶然を勘違いしただけ。
いや。エリゴン達の話しに、思い違いであって欲しい。
「ユウナン見ちゃったんだよ!」
「違うって!私の勘違いだったんだよ!」
「でも、見ちゃった可能性の方が高くない?」
「ココってそんな話あるの?詳細きぼんぬ!」
「本当にあった話らしいんだけど」
そう前置きして語り始めたハイジ。
今から約15年前。
このライブハウスが、まだ別の名で経営されていた時
1人の女の子がトイレの中で自殺をした。
「ライブの最中に手首切ったらしくって」
「マジ!?あのトイレ!?」
「う〜ん。でも、本当かどうか判らないよ?うちらも聞いただけだし」
「私は追っかけしてた子が病気で死んじゃって、それからたまに出るって聞いたよ?」
「え?手首切った方がリアルっぽくない?って言うか、何で切ったの?」
「もうヤメテよ~!トイレ行けなくなっちゃうから!」
「ユウナン、トイレ行きたかったの?今行かないと始っちゃうよ!?」
「大丈夫!絶対誰かはトイレの前にいるからさ。」
「え?ホント・・・?」
「ギルドしか見ない子は、鏡見て化粧直してるよ」
「そうだよ!そんなノンビリしてる場合じゃないって!早く行っておいで!」
そう促されて進んだ人の隙間。
誰かが消えたアノ角にも沢山の人がいた。
でも、私が見たような影に重なる子は居ない。
(オバケなんて怖くないんだから!私に寄ってきたって成仏なんてさせられないんだからね!)
ここさえ無事に通過できれば、トイレの前に誰かが居る。
そう信じながら重い扉を開けてトイレに向ったのに。
誰もいない暗いトイレ。
店員は気が付いてないのか、1本の青白い蛍光灯が点滅している。
その光に照らされた水色のタイルが余計に不気味に感じ
個室に入って鍵を閉めると余計に強く念じた。
ご先祖様が見守ってくれてるおかげか無事に用を足す事も終え、鏡に映った自分の顔も上出来。
自分以外の何かが見える前に足早にトイレを出ると大歓声と共にギターかベース。
どちらかのうねる様な音が聞こえた。