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disappear  作者: 黒土 計
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chapter2 黒と赤の群れ

未だ来ないYUIちゃんからのメール。


タイミングを考え過ぎて返信できなかった最後のメールに、電車の中から送信した。


『駅に着いたよ。ライブ頑張ってね。ライブ終ったら、どうすれば良いの?』


もっと色々と打ったけれど、夜の事ばかり考えてると思われたくなくて


電車の中で簡潔にしたメール。


打上げ前までには、きっと返信が来る。


そう信じて改札を出た。



駅前の時計は5時55分。


対バンの最初に出るのは、クリムゾンの時と同じバンド。


開場は6時30分。


開演は7時。


ライブハウスまで歩いて約10分。


先に出るバンドも見るとして、7時前に行けば丁度良い。


それまでの時間潰しにと、駅前探索へ歩き出した時


前から手を振ってくる女の子が気になった。


私の後ろに居るのは、中年のサラリーマンただ1人。


お世辞でも可愛いとは言えない小太りの目的は、100%私。


予想通り、彼女は私に向って話しかけてきた。


「優奈ちゃんでしょ!?」


私私と言われてもピントも来ない。


「クリムゾンの打ち上げの時に近くに居たんだけど!」


「う〜ん・・・ゴメン。憶えてない」


「優奈ちゃんが居た所から2つ奥のテーブル覚えてない?」


「ゴメンね。憶えてないの」


「じゃあ、絶対コレで思い出すよ!!その前に!優奈ちゃんって1人で来たの?」


「そうだけど・・・」


「誰かと待ち合わせしてるとかじゃなくて?」


「うん」


「じゃあ〜。そろそろ歩きながら話さない?メンバー外に出てくるかもしれないからさ!」


そう言って歩き出した彼女と、ただ何となく一緒に向ったライブハウス。


あの誰もが顔なじみの中、1人だけでも顔見知りがいてくれれば良いとは思っていたけれど


日焼けしたドス黒い肌に沢山のニキビ。


歯もガタガタで、女の私から見てもブサイクな女の子。


今日だけツルムにしても正直気が引ける。


そんな風に思われてるなんて何も知らないで一生懸命話かけてくる彼女の笑顔を見てると


自分の中に潜んでいた性格の悪さに罪悪感まで感じてくる。



「私って、そんなに印象ないのかな〜」


「本当に、本当にゴメンネ!」


「ううん!大丈夫!だから気にしないで!でも」


「でも?」


「これからは、ちゃんと憶えておいてね!」


色々と話してくれたけど、結局憶えてなかった彼女の名前は江梨子ちゃん。


「江梨子ちゃんね」


「エリゴンで良いよ!その方が私らしいし、すぐ仲良くなれるし!」


「らしい?」


「声もガラガラだし、エリゴーンって感じでしょ!」


名前の由来は篤君の命名。


「お前、怪獣系だよな〜。口はデカイし、何て言うの?こう縦にグシャッテ潰されたような体系だしよってさ〜!」


背が低くて150cmない4頭身。


「初対面でだよ!?ブサイクなのは自覚してたけどさ」


「でも、イヤじゃない?」


「最初はイヤだったけど、そのおかげで私のキャラも確定出来たし」


「確定?」


「そう!デブでブスで、からかい甲斐のある憎めないヤツ!」


「そんな事ないよ!?篤君ってヒドイよ!」


「あ〜イイの!イイの!結構自分でも気に入ってるんだから!」


ヒドイとは言ったものの、篤君の発言どおりなキャラクター。


でも、一緒に居るだけで元気になれそうなほどのパワーの持ち主。


欠点とも言うべき部分を全面に押し出し、逆にそれが長所に感じるほどの明るいエリゴン。


出会って数分しか経ってないのに


クラスに1人は居て欲しいムードメーカー的彼女の魅力に私も打ち解けていった。



約5ヶ月ぶりのライブハウスは、向う道は同じなのに


草木が生い茂ってるせいか、クリムゾンで来た3月とは違う風景に見える。


「あれ?ここじゃなかった?」


「もう1本先。?」


「うん。久しぶりだから忘れちゃった」


まだ日が高く明るい町並み。


角を曲がった所で遠目でもライブハウス前にいる沢山の人だかりが気になる。


ボーイッシュな格好の子。


残暑厳しいのに、長袖に季節感の違う子。


ゴスロリとかV系とか言うらしき子達。


黒と赤を基調にした女の子達が溢れかえっている。


「みんなゴッドのファンじゃないよね」


「大半はゴッドだよ。夏休みだから、東京組とか来てるんじゃない」


「東京組?」


「ゴッドって東京が拠点だから」


「みんな追っかけて来たって事?」


「そうだよ?結構みんな追っかけしてるよ?今回全部付いてく子も居るんじゃない?」


「全部って北海道とかも?」


「行く子は行くんじゃない?私は半分しか行かないけど、友達で行く子もいるし」


「え?エリゴンも!?学校とか大丈夫なの?ホテル代とか」


「学校と親は無視!ホテルはお金ないし泊まれないよ」


「じゃあ、どうしてるの?」


「うち等は野宿とかあ〜」


「野宿?」


「臭くなったらマン喫探でシャワー浴びて。後は晴れてたら野宿ですよ!じゃあ、みんなに紹介するね!」


そう言いながらエリゴンが、ライブハウス前に居る誰かに向って大きく手を振り出した。



「キャー!久しぶり〜!」


次から次へと女の子達と抱き合うエリゴン。


スキップしながら駆け寄ってくる子。


ライブハウス前にいる女の子は誰もがエリゴンと友達。


そう思った時、エリゴンと抱き合ったグループが話しかけてきた。


「クリムゾンの時、打上げにいたよね?」


「え?私?」


「篤君の隣に座ってたでしょ?」


「あ・・うん。座ってたけど」


「うわ〜!久しぶり!元気だった!?」


突然の事にキョドッテルのを押さえるだけで精一杯。


全く覚えのない女の子達に次々と抱きしめられた。


誰かと勘違いされてる。


その事を判ってもらう為には、どうしたら良いのか。


考える間もなく、また女の子達が話しかけてくる。


「もしかして驚いてる?ゴメンネ!」


「うち等いつもこうやって抱き合うのが挨拶代わりなの!」


「エリゴンの友達?で、名前は?」


「友達じゃないです。名前は・・・優奈」


「優奈ちゃん?じゃあ、今日からユウナン!」


「江梨子ちゃんとは、さっき駅で話かけられただけで」


「江梨子なんて久しぶりに聞いた!本名忘れてたよ!」


「エリゴンはエリゴンで良いよ!」


「うちらも、みんなライブか打上げで一緒だっただけだし!」


「友達って言っても、本名とか知らない子の方が多いしね〜!」


「ライブ友達なんて、そんなもんだよ?ね〜!」


「ね〜!」


「じゃあ、今日からユウナンって呼ぶね!」


何も知らない誰もが初対面状態。


1度会ったらライブ友達。


そんな不思議な世界に引き込まれながらも、もう1つの世界。


鋭い視線に威圧感を向けてる存在達に気が付いた。



エリゴンが話しかけられてるけど、他の子達にはしてなかった無表情な顔。


笑顔も何もない。


ただ言葉を交わしてるだけ。


その様子を周りの女の子達も怪訝な顔をして見てる。


その人達に背を向けた途端、


戻ってくるエリゴンの顔がリアクション王のように変顔を連発してるのを


彼女たちは気付いてないのか。気付いてるのか。


3人の女達は、また違うグループの中へ消えていった。


「あいつ等も、ココまで来たの?超〜ムカツク!」


「何?あの態度。で、何話してたの?」


「あー・・・・あー・・・って、相変わらず意味不明」


「え?本当に?そうやって話すの?」


「ユウナン知らないんだ!例えばだよ!例え!」


ファンの女の子達とは一線違う雰囲気。


服装も髪型も。


持ち物も疎い私でも判るブランド品。


どことなく誰かに似た印象を感じた時


YUIちゃんの彼女だと勘違いしたアノ女を思い出した。


「メンのお気に入り気取ってるヤツラでさ」


「ゴッドは、うち等が仕切ってるんだよって顔しやがってムカツクよね」


他の女の子達から疎まれ、仕切ってる顔してるのも似てる。


年は22とか3とかぐらい。


居酒屋で見たアノ時の泣きっ面。


色々な感情が蘇って来る中、隣の女の子が指を刺して話しかけてきた。


「あの右の女が、カオナシ」


その言葉に突然意味不明なキャラクターが私の頭を横切った。


「カオナシってジブリのさ」


「目なんか離れてるし、そっくりじゃない?」


「で!それに合わせて真ん中が千尋で、その隣が千!」


ブスではないけど、能面顔にピッタリ過ぎるネーミング。


オデコを広く出し真ん中で分けた長い髪もツボに嵌って抜け出せない。


残りの2人は当て嵌めただけにしろ、3人揃ってる所がまた可笑しい。


声を出さないように笑いを抑えてたら


涙も出てきて目を開ける事すら出来ない。


「ほら。ユウナン見てごらん?あー・・・・あー・・・って言ってるみたいじゃない?」


「呼んでいる〜何タラの〜何とかの〜って聞こえてくるでしょ!」


誰かの歌声に合わせてヒクヒクと動き出すお腹の筋肉。


痛みさえ感じ、息を吸うのも吐く事すら制御不可能。


「やべ!聞こえたんじゃない!?コッチ見てるよ!」


「来そうじゃない!?早く逃げよって!」


「ユウナンも!逃げるよ!ほら〜!いつまでも笑ってないで!」


出遅れた私の手を引っ張ってエリゴンが走り出す。


引っ張られる腕も痛いけれど、堪え過ぎでお腹が痛い。



「ユウナン!遅いって!」


慣れないサンダルで早歩きに近い状態でしか進めない。


「ほら〜!早くスキップ!スキップ!」


「何で、スキップなのよ!」


「大きく深呼吸して〜!ほら!ユウナンもだよ!」


誰かの声にエリゴンが私の手を引いたままスキップをする。


そのステップに合わせて、アノ映画の歌を歌いだす。


「タラ・ラン・ラン・ランラ〜」


「ユウナンもだよ!そう!ララララ・ラン」


言われるがまま大合唱に合わせてエリゴンとスキップ。


手を繋いだまま笑い合って。


「うちらも仲間に入れて!」


大きく深呼吸をして腕を振り足を上げていくと、どんどん体が軽くなって行く。


声を出して歌えば歌うほど。


高く飛べば飛ぶほど、手を繋いだ人が多くなっていくほど。


名前すら判らない同士。


何にも変えられない何かが深くなっていく気がした時


智子と一緒に飛んだアノ日の事を思い出した。


携帯を変えてから忘れていた智子と麻紀。


そして夏美の事。


(こんな風に本気で笑えたのは、いつ以来だっけ)


エリゴン達の笑顔に、戻りたいと願った夏美達と笑えた時間が重なって行く。


「ちょっと〜!こんな大声で歌ってたら逃げた意味までバレバレじゃん!」


「いいじゃん!どうせ嫌われてる事ぐらい自分でも判ってるっしょ!」


「そうだよ。楽しいんだし良いじゃん」


「だよね!言われたら言われた時だよ。」


「そうだ!みんなで手を繋いで戻らない?」


「そうしよ!会場始るし、そのまま入って行ったら、みんな超〜ウケルよ!」


私とエリゴンを入れて横1列に並んだ6人。


「せーの!・・・・で行くからね?もう1回言うけど」


「ちょっと〜!そう言うのやめてよ!もう判ったから」


本名を知ってるのはエリゴンだけ。


あとはニックネームを知ってる子と、まだ知らない子。


【もしも】


ライブハウスに到着するまでに誰の手も離れなかったら・・・・。


きっと私の新しい親友になってくれる。


そう賭けて一気にスタートした私の願い。


カオナシの前を通過して、ゴールまで到着。


「ライブ前から汗ダーダーだよ!」


「良いじゃん!どうせダーダーになんだからさ!」


きっと願いが叶うと安堵した6時30分。


対バンが先攻、後攻にゴッドレスパイクのライブは、時間通りに開場を迎えた。

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