chapter2 ハルガクル
愛子チンの友達の家に行く途中。
自転車で2人乗りをしてたら田んぼに落ちた。
「そうなんですよ!もう恥ずかしくって!」
【人様に言えない】
と、言いながら店員に大声で喋るお母さん。
「豆腐の角に頭ぶつけて死ぬのと同じ事でしょ!?
田んぼに落ちて死んだなんてなってたら、も〜う恥ずかしくて外歩けないですよ!」
本当は、愛子じゃなくて同級生と2人。
レイプされかけたと言う
【事実と虚偽】
嘘だとバレナければ全て良し。
罰が悪い事も手伝って聞き流すのが、それほど苦にはならなかった。
「基盤自体が汚れているので」
結局、携帯電話が治る事はなかった。
データは全て飛んでしまったけれど、YUIちゃんのメルアドと番号だけは憶えてる。
コレさえあれば、後は必要がないに近い。
愛子は、家に行けば良いだけの事。
クラスメートは学校に行けば会える。
返信してこない田島さんも。
用がなくなった千春ちゃんの元実家も。
2度とかけられない夏美達も判らなくなってしまったけれど、
【自分では消せなかったモノ】
私の意識の中で消せなかったアドレス達と共に嫌な思い出も、きっと消える。
「お母さんは、こっちの方が」
「私のなんだから良いでしょ!?こっちって言ったら、こっち!」
「もう!強情な子ね!親の言う事ぐらいちゃんと聞きなさい!」
全てに終止符を打って、新しい人生のスタートを切る。
強引なお母さんに負けずに選んだ
ホワイトの新しい携帯電話。
「この番号で宜しいですか?」
「こっちの方が憶えやすいんじゃない?」
「だから!私のなんだし良いでしょ!?」
090−××××ー8696
8696(ハルガクル)。
「語呂合わせで、春が来るってね!」
下4桁が気に入った番号なのに。
弟の裕貴を先頭に、お父さんまでも。
「野朗に苦労するってにも読めるよ?」
「もう少し縁起の良い番号を選べば良いじゃないか」
「だから、お母さんが言った番号の方が良かったじゃない」
心機一転。
良い事が訪れますように。
そう願った新しい携帯は、不幸の始まりのように言われ。
(可愛そうな携帯電話さん)
私だけが、この携帯の本当の力を知っている。
(誰もが驚くような奇跡を起こすスゴイ携帯電話なんだ!
今に見ていろ!
絶対に膝まついて謝らせてやろうじゃないか!)
そんな妄想に涙した夜に打ったメールに、今日で3日目。
未遂で終ったあの日から4日目。
YUIちゃんから未だに返信も電話も来ない。
(まさか・・・メルアド間違ってる!?
本当に不幸の始まりかも!!)
居ても立ってもいられなくて眠れなかった4日間は、
【憶えてますか?】
遠まわしな文面を祈るような気持ちで再送したメールで無事に解決。
「来てねえぞ?」
「文面変えて再送したんだよ?」
「じゃ、合ってるか。何でだろうな」
「何でだろうね」
「てかさ、この番号さ」
「何?」
「春が来るとも読めるけど、野朗に苦労するとも読めるよな」
含み笑いと共に弟の裕貴と同じ事を言われ。
「野朗って俺の事になるのかな。俺に苦労させられるってか!」
ただの語呂合わせ。
そこから不幸な方向へ向かう
YUIちゃん特有の例え話しに本気でムキになったり動揺したり。
「マジ冗談!絶対に、そんな事しねえからよ」
涙声で終了した茶化しに、携帯を変えた本当の理由を話す事もなく。
【絶対に東京に来いよ】
最終的には、恋焦がされて切った電話に千春ちゃんに繋がらなかった電話も。
1通目のメールが届いてないという事も。
何の疑いを感じないまま幸せな気持ちで眠りに就いた夜。
【本当に夢・・・?】
流れる冷や汗。
大きく鼓膜に響き渡る鼓動。
心臓をワシ掴みされたような悪夢に飛び起きた。