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disappear  作者: 黒土 計
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chapter2 闇夜の中で

夏休み最初の週末。


田島さんに会う予定をしていた夜。


「ちょと!それ私が入れた曲だよ!」


「私の方が先だって!」


「私もって事は3曲続いてるんじゃないの!?」


私はクラスメートの家の近くにあるカラオケ店にいた。



お母さんへのアリバイに名前を貸してくれた愛子は


最初から、彼氏の家に行く日。


用が無くなって


新しくお母さんに言い訳を考えるのが面倒だった穴埋め。


「優奈の家って煩いんじゃなかったの?」


「そうだよ。優奈から誘ってくれるなんてね!」


「どうでもイイジャン!次私コレ歌うよ!」


誘ったのは私の方。


夏美が退学してから仲良くなったうちの3人。


「2組の田中君から付き合おうって!」


「マジで!?」


「嘘でしょ!?」


「だったら良いな〜って!言うだけタダでしょ?」


大きな笑い声に、落ちも何もないツマラナイ話ばかり。


正直、話を合わせるのにも疲れてた。


「優奈の私服ってイケテルじゃん!」


「すっごい大人っぽいよね!」


「そうかな・・・」


「化粧すると色っぽいっていうの?イメージ変わるね!」


田島さんに会う為に態々買い揃えた洋服。


本当は、違う服に心惹かれたけど


子供っぽいと思われるのが嫌で靴もバッグも洋服に合わせ口紅まで買ったのに。


予定していた着る機会は無くなり無駄な出費をした事にムカついていた。


「もしかして、優奈ツマラナイ?」


「何か元気ないしさ」


「ううん?何歌うか決らなくて」


「じゃあ!私先に入れよっと!」


「ちょっと〜!それ私の十八番ジャン!」


彼女達の察しの通りツマラナイというのもあったけど隠しようのない憂鬱さの原因。


第一の理由は田島さんの事。


私が出れない授業中を狙って田島さんは、かけてたのかも知れない。


「本当にスイマセン。また、こちらから連絡します」


そう締めくくられた携帯に残されていた伝言。


「先輩の部屋を片付ける話は忘れて下さい。」


何度かけても繋がらず、折り返しもない。


理由が判らず苛立ちさえ感じたけど、それは笑えない理由じゃない。



【悪い事は続く】


笑えない理由は


昨日のYUIちゃんからの電話。


「お前、ペラペラ俺の事話してるんだって?」


「千春ちゃんが勝手に!」


「前も言ったけど、そんな女知らねえって!」


不安さえ感じて何度も止めた千春ちゃんの言動は何故か私のせいに思われ。


「どう考えても、お前しかいないだろ」


「私は言ってないもん!」


「じゃあ、何で俺とお前しか知らねえ事とか知ってるんだよ」


メンバーからの信用の深いファンの女の子から


YUIちゃんの自称彼女と言う女が他のバンドマンやファンの子達に喋り捲ってる


そうYUIちゃんに忠告してきたらしい。


唯一の相談相手だった千春ちゃんにしか話してない事が何もかも筒抜けで広がっている。


「終わった事はしょうがねえし。もう泣くなって」


信じるとは言ってくれたけれど何処かギクシャクしたままで切れた電話。


YUIちゃんに疑われた事よりも何よりも怒りを感じた言葉。


【自称彼女】


私が勝手にYUIちゃんの彼女だと思いこんでる。


そうとしか聞こえない悪意にも挑戦的にも感じる言葉。


苛立ちの矛先は真っ直ぐ千春ちゃんへ向いた。



新しく携帯を買ったら連絡すると言っていたのに未だに来ない電話。


アドレス帳を開いて千春ちゃんの実家の番号を発信した。


1回。


2回。


3回。


コール音がする度に膨れて行く怒り。


「はい。もしもし」


6回目のコールで出た相手は母親らしき女性。


夜11時を過ぎて突然の電話。


礼儀を重んじて自分の名前から言って、苗字を伺った所で


「はあ?違いますけど」


低く怒りを含んだ声に爆裂しそうな思いは急降下し、スイマセンと一言謝って電話を切った。


リダイアルを押してみたけれど表示された名前は


【千春ちゃんの実家】


確かに、これは千春ちゃんの実家の番号。


何度もこの番号で通じたのに。


もしかしたら、おばあちゃんか親戚なのか?


何か事情があって、様方扱いなのかもしれない。


連絡が取れる唯一残された番号。


「もしもし?またアンタ?かける相手を間違ってるわよ!」


声を出した途端に怒りをぶつけられ、引きそうになったけど


何が何でも千春ちゃんと連絡を取らなければいけない。


「はあ?千春?」


「そうです。千春ちゃんの友達で」


「知らないねえ。そんな女」


「いえ!何度もこの番号で繋がったんですけど」


「あ〜あの。ろくでなしか」


「ろくでなし?」


「で、何。」


携帯番号を連絡するって言ったまま連絡が取れなくなって。お母さんですか?


「アンタさあ。お金でも貸したの?」


「いえ。友達なんですけど」


「へえ〜」


以前、千春ちゃんに繋がった時に出た女性とは別人なのか。


温和で物腰の柔らかな感じとは違って声までしゃがれて全く別人のよう。


「そんな女知らないねえ」


「電話番号が変わったのかな」


「騙されてるんだよ」


「え?」


「アンタもあの女に騙されてるんだよ!」


「は?」


「2度とかけて来るんじゃないよ!」


黒電話なのか。


【死んじまえ!】


その言葉と共に凄まじい音を立てて撲り切られたような音が耳に響いた。



かけなおさなきゃ良かった。


後悔と共に襲ってきた呪いを掛けられたような悪寒。


明らかに、千春ちゃんの家の人じゃない。


何度も声を聞いた母親らしき人とは違う。


連絡をしない間に実家の電話番号が変わったって可笑しい話ではない。


(どうしてこうなるの!?)


怒りの矛先を失くした私の気持ち。


頭の中が困惑し、ぶつけ所のない思いが悔し涙に変わり


(今日は、憂さ晴らししてやる!)


急遽誘ったのに、集まってくれた3人。


「何があったか知らないけどさ!」


「優奈も、お酒でも飲んで忘れちゃえば?」


「あ〜私!カシスソーダ追加ね!」


家にいたってお母さんにイラつくだけ。


クラスメートに話したってバンドマンの彼女でもないし話したって無意味。


アドバイスも何も期待できないから話してもしょうがないけれど


「乗ってきたんじゃない?もしかして酒乱?」


「優奈!それさっき私が入れた曲だよ!」


「ねえ優奈!一緒にコレ歌おうよ」


飲めば飲むほど


大声で歌えば歌うほど。


「この歌聴くと、田中君の事が浮かんじゃって!」


「何泣いてるのよ!可笑しいよ〜!」


「そうだよ!これって別れの歌だよ?付き合っても無いくせに!」


ツマラナかったはずの話に馬鹿笑いして。


「ティッシュなんか持ってないよ?」


「泣き過ぎて鼻水が〜」


「もう口まで垂れてるジャン!」


お酒の力も手伝って、どうでも良い事さえ面白くて。


一緒に大騒ぎしているだけでYUIちゃんの事はともかく


千春ちゃんの事も


田島さんの事も。


昨日いやな目に遭った変なオバサンの事もどうでも良くなって。


最高の憂さ晴らしになる予定だった夜。



「優奈って結構歌上手いって!」


「そうかな〜」


「最後に歌ったやつ!超〜良い感じだったよ!」


「にしてもさ〜。夜中なのに、こんなに暑いって異常だよ〜!」


深夜を回ったと言うのに茹だるような夜風。


「優奈は私の後ろに乗りなよ」


「大丈夫だよ!パトカーも走ってないからさ!」


「そうだよ!アキちゃんの学区はドが付く田舎だもんね!」


一本商店街を出た途端に広がる田園。


電灯が所々にしかなく真っ暗な直線道路。


未成年が深夜にお酒を飲んで2人乗り。


法律じゃイケナイ事をして、ちょっと悪い事をした感に上がるテンション。


リズムの合わないカエルと虫達の大合唱を伴奏に


静まり返る田舎道を大声で歌いながら走る3台の自転車。


人通り所か車も通らない我道。


電灯も。民家の明りも、影形も見えない。


唯一の明かりは沢山の星だけ。


「銀河鉄道の夜?」


「そう!知ってる?」


「カンパネルラ〜でしょ?」


生温い夜風さえ心地良くロマンティックな気持ちは


すれ違った白い車に、恐怖へと変わった。


「え?本当に?ヤバイかな」


運転席・助手席と見えただけで3人の若い男。


明らかに私達を見て指をさした。


「大丈夫だよ。もう行っちゃったよ?」


「取り合えず急ごうよ!」


立ち漕ぎで急ぐけれど、私を乗せてる分アキちゃんの自転車が1番遅い。


「ちょっと酷くない!?置いてかないでよ!」


どんどん距離が離れて2人の声が聞こえない。


アキちゃんにも疲れが出始めスピードがどんどん落ちていく。


後ろから点にしか見えなかった車のヘッドライトが近づいて来る。


「マジでヤバイ気がするんだけど!」


その光が大きくなるに連れ早くなっていく鼓動。




【ヤラレル】


地元でもレイプ事件があったけど


他人事としか思えなかった事が今、自分の事になる。


ただ夜遊びして憂さ晴らししたかっただけなのに。


このまま友達の家に行って


朝まで下らない事を話したりして楽しかった日で終るはずだったのに。


「マジでヤバイよ!」


テレビの特番で聞いた言葉が頭をよぎる。


抵抗をして殺されてしまうケース。


ビデオに納められ脅迫されるケース。


私は、どんなケースに入れられるのだろう。


女性コメンテーターが言ってた言葉。


「相手を逆上させない事です」


なすがままにされ耐え続ける。


「同じ被害者が出ない為にも、早く犯人が見つかりますからね」


冷静になって、相手の特徴を観察する。


男性司会者の言葉。


「最近では、すぐに殺人ですからね。

自分がどうしたら生きて帰れるか。

言葉は悪いですが、万が一被害に遭ったら・・・」


【まずは冷静に】


人の言葉なんて本当に適当である。


被害に遭った事がないのに憶測で物事を考える。


どうしたら被害に遭わないのか。


「判っているようで、してないんですよ」


その通りかもしれない。


でも、それはただ被害に遭ってないから言えるだけ。


「自宅で襲われる事もあるんですよ!?

玄関の一歩手前で殺される事だってあるじゃないですか!

アナタは一々自分の家の中で殺されるんじゃないかって気を付けてるんですか!?」


閉めに入りだした特番の中で1人


空気の読めない女性評論家がいたけれど


彼女の言ってる事が1番正しかったのかもしれない。


叫んでも気が付いてくれる人はいない。


田んぼの中の直線道路。


アキちゃんを1人置き去りにして走って逃げても隠れる場所もない。


結局捕まるなら大人しくアキちゃんと共に堕ちる方が良いのかもしれない。


抵抗して殺されるぐらいなら。


無駄に撲られて、被害に遭ったとお母さんに知られるぐらいなら。


みんなに知れ渡ってしまうぐらいなら。


【誰か助けて!】


その願いも虚しく白い車は速度を落とし横付けして来た。

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