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disappear  作者: 黒土 計
6/71

chapter1 恥じらい笑顔

「これで眉毛はOK。じゃ、顔洗っておいで」


部屋の照明が暗いせいか洗面所の電気がヤケに眩しく感じる。


眉毛の形がキレイにはなったけど


別に格段と何も変わらなくて、正直がっかりした。


「元々太くて濃かったしね〜。

優奈の顔は、あんまり変わらない系だから逆にさあ、大人顔よりチョイエロ系がイイかな」


「変わりたかったのにな・・・」


「大丈夫!さあ!ココからが夏美先生の腕の見せ所だよ!」


どうせ何したって私の顔は変わらない。


そう落胆してた気持ちは夏美の手により瞬時に変わった。


いつもファンデーションをイキナリ塗っただけだった私。


生まれて初めて下地という物を塗ってコレだけで何かキレイになった気がした。


「ちょっと目つぶって!」


薄目を開けると、楽しそうな顔をして化粧を施す夏美が鏡に映ってる。


「ねえ夏美さあ。」


「何?」


「将来こういう仕事向いてるんじゃない?」


「将来?」


「うん。卒業したら」


夏美の手が止まって私も目を開けた。


「そう?」


「何か似合いそうな気がする」


「判る〜!?」


夏美の夢はヘアーメイク。


そんな夢を持ってるって初めて聞いた。




「本当にね。ついこの間思いついたの!

ほら色々と地方とかまでバンド追っかけてるじゃない?

スッピンとか大した事がなくたって化粧1つで本当にカッコよく見えるんだ〜♪」


「女の子のバンドなの?」


「違うよ!全員男だよ。ほら!」


カバンの中から取り出された小さなアルバム。


「あ〜はいはい!こういうの雑誌で見た事ある。」


「ねえ!この人!超〜カッコ良くない?

スッピンもほら〜!もう溜んな〜い!!」


女ではない事は判るけれど怪しいほどの美しさは興味がない私にも判る。


何枚もの美しい男の人達の隣には全部夏美が写っていた。


「じゃ、時間ないから仕上げちゃお。先に髪をセットするね」


夏美みたいに縦巻きロールじゃなく艶を出して後ろに流し肩先の毛先を遊ばせる。


「フェミニンな感じでしょ〜?」


少しづつだけど変わっていく。


鏡に映る私は、誰が見ても私だって判るだろうけど、


もしバッタリ会ったらきっと良い意味で


「変わった!」って言われる気がする。



「この人キレイだね」


「あ〜でもスッピンは超ブッサイクだよ。ほらこれスッピンのとき」


化粧1つで男もこんなに変わる。


今からアイシャドー塗ってアイライン引いて別人のように変われるのかな。


男の方が美しく変われるって何か女として惨めだ。


「女ってさ。ただ生きてるだけじゃキレイになんかなれないんだよ」


職人のように手を動かしながら聞こえる夏美の言葉。


手入れだけでもなれない。


笑ったり、怒ったり、泣いたり、色々な自分の顔を鏡で見て研究して


キレイはなるのではなく、作る物だと知った。


「鏡を見てニコってしてくれる?

で、自分で可愛いと思う顔の所で止まって」


聞いた事を総合して自分なりに作ってみるけれど


(私ってこんな顔で笑ってるんだ・・・最悪)


ちょっと微笑んでみても変。


歯を見せたらもっと変。


何か自然消滅されるのも納得してきた。



「違うよ。まず姿勢が悪い!」


背筋を伸ばして真っ直ぐ正面を見る。


あごを少し引いてちょっと上目ずかいぐらい。


「ここを上げる感じでさあ」


口角って言うらしい。


ここに力を入れて頬を上げる。


目はそのままで!?


何か今ちょっとだけ自分が可愛い気がした。


もう少し上げたいけど口角に力が入らない。


「こうやって笑う練習をすれば、自然に笑顔が可愛くなっていくからさ。

よし!完成。どうですか?」


鏡に映った私の顔は


そんなには変わらないけど


自分の顔なのに何か引きつるって言うか


どんな顔して良いのか判らない。


鏡から目が離せない。


こういうの恥らい笑顔って言うのかな。


そんな言葉は存在しないかな。


少し艶っぽく見える化粧をした私の顔が可愛く見える位置を勝手に捜してる。



「私ピアスしかないからさコレが良いかな〜。


貸してあげるよ。あとは、ちょっと寒いけど中の服脱いでね」


「もしかしてダイヤ?」


「千円のダイヤです」


お洒落とは我慢という言葉を聞いた事があるけれど。


小さな偽ダイヤのネックレスをした自分の姿に


寒さなんて我慢させて下さい!と懇願したくなった。


「優奈。絶対に可愛いって言われるよ」


「え?誰に?友達?」


「ううん。誰だろうね」


鏡と睨めっこする私を満足そうに見ながら


天井に向かってタバコの煙を吐いた夏美。


生まれ変わったような自分の顔と髪型に浮かれてた私は、


この時まだ何の為に呼び出され


何の為にココに泊まるのか判っていなかった。

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