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disappear  作者: 黒土 計
59/71

chapter2 相葉さんの死

偶然再会した日の翌朝。


仮眠をとっていた会社のソファーで


相葉さんが死亡しているのが発見された。



原因は、仲間と同じ交通事故ではなく喘息による発作。


私を駅まで送った後、


田島さんを連れて取引先を回り全ての仕事を終え会社に戻る際


番号を変えた事を知らない奥さんの母親から緊急連絡があったと


相葉さんの携帯に会社から電話が鳴った。


病院に駆けつけたのは午後10時過ぎ。


先生から個室に呼ばれたのは日付けが変わる前。


麻酔から覚めない奥さんの病室を後にしたのは午前3時。


「朝7時に行かなくちゃ行けない所があって」


病院を出て、向かった先は自宅マンションではなく会社。


「疲れたから、少し寝るって」


病院に着いてから何も話さなかった相葉さん。


「最近疲れ気味だとは思ってたんです。酷く顔色が悪かったんで、ちゃんと体を横に。

応接室のソファーの方が良いかな?と思って」


ビルの警備員に電話を入れ、下の階にある応接室に到着した途端


「田島」


「はい」


倒れるように横になった相葉さんの最後の言葉。


「後は頼む」


「大丈夫ですよ。安心して下さい!じゃあですね」


午前6時には起こしに来る。


そう告げた声が届いたかは判らない。


速攻で寝息を立てた相葉さんを確認し


寝冷えしないよう気使って冷房の温度設定を少し上げ


電気を消してデスクに戻ったのは午前4時前。


準備を整えて、少し仮眠をとり携帯のアラームで目覚めたのは午前5時50分。


「車に乗ってからでも良かったんですけど、

僕って何でも過剰に反応するじゃないですか。だから怖いって」


どんな時も自分で運転した相葉さん。


この日も田島さんが運転する車には絶対に乗る訳がない。


「もう少し寝かせてあげようと思ったんです」


1分でも多く寝かせてあげたい。


20分に出れば間に合うから


6時10分まで。


応接室の扉の前で携帯の時計を見ながら時間を合わし


10になったのを確認して扉を開けた。


電気では眩しいかもしれない。


気を使って応接室のカーテンを開けながら声をかけたけれど無反応。


「顔を見るまで判りませんでした」


最後のカーテンを開けて照らされた相葉さんの変色した顔に田島さんは息を呑んだ。


「人間って咳き込むと自然に体勢って変わるんですけどね」


ソファーに倒れ込んだ時と変わらぬままの姿勢。


「発作でと言うよりも、呼吸をめた様に見えました」


警備員に連絡をして救急車が到着したのは午前6時30分頃。


「一応僕も医療関係ですから、本当は判ってました」


死後硬直が始ってた相葉さんの体。


救急隊員も死亡を確認するだけで何をする事もなく去って行った。


「病院の先生なら何か出来るんじゃないかと思って」


相葉さんの遺体を前に何もする事が出来ない自分。


「何かしてあげられないかって」


警備員からの連絡に集まってきた相葉さんの同僚。


支部長に役職幹部。


「本当に寝てるだけにしか思えなくて」


誰彼構わずに助けを求めた田島さんが正気に戻ったのは夜になってから。


今日の仕事は他の先輩方が連絡を入れて回り


翌日から詰まっていた商談は手分けされ


「僕に残された仕事は、先輩のお葬式でした」


相葉さんのご両親の希望で社葬という形でしめやかに執り行われた葬儀。


相葉家親族と奥さんの親族。


病院関係者と会社関係。


「通夜から受付に立ってたんですけど、涙が止まらなくて」


何度も先輩達に渇を入れられながら必死に我慢したけれど


「本当に僕ってダメですよね」


泣き過ぎて足がふらつき


その場に倒れ込んだ田島さんを見かねて他の社員が受付に立った。


「支部長の心意気だったのに」


勤務中はともかく。


休日も朝から勝手に押しかけて予定を作っては相葉さんの側にいた田島さん。


受付を命じた役職を含め全ての人達が判っていた田島さんの相葉さんへの思い。


その厚意にも添えず自己嫌悪になりながら頭をよぎった事。



「休んでたら、気がつきましてね?」


冷静な人だったけれど、いつも周囲のバカ騒ぎに笑顔を溢してた相葉さん。


「雅恵ママ達にも来て欲しいって思ってるに違いないと思ったんです」


相葉さんを理解してくれる人。


きっと先輩は会いたがってる。


僕なら会いたい。


きっと先輩は喜んでくれる。


「その一心だったんですけれど」


お店に電話をかけ話した途端その思いは相葉さんの気持ちではなく


「アンタは本当に馬鹿ね!

良い?よ〜く聞きなさい。私達はオカマよ?」


田島さん自身の気持ちだという事を思い知らされた。



いくら親族とは言え家族とも殆んど接触がなく


趣味も思考も何も知らないと言って過言ではない。


会社の人達や、同僚だって全てのプライベートを知ってる訳じゃない。


「私達の事を、誰もが良い風に思ってくれる訳じゃないの!」


見る人によっては興味本位。


勝手に話を作り色を塗る。


「公ちゃんは、そういうのが1番嫌いなの!」


面白おかしく妄想で手が生えた例え話は噂話として足も付き


いつしか事実と言う名で1人歩きする。


【死人に口無し】


面白みもない実際の出来事よりネタとして広がるうちに人々の笑いや悪意が付け加えられた


虚偽の事実はなしの方が会った事のない人の心まで引き付ける。


「本当に公ちゃんの事思うなら、

最後まで勝手な事言わせるような種を蒔くんじゃないわよ!」


死んだ人間は戻らない。


オカマが行こうが誰が行ったとしても


【生き返らない】


オカマの自分達ができる事は最後をキレイに送ってあげる事。


「心の中で天国に行ける様に祈ってるから」


納骨が済めばお墓参りに行ける。


肉体は無くなっても相葉さんと過した時間。


語り合った時間は忘れない。


「私達だって見送りたいのよ」


自分の気持ちを率先せず


一緒に酒を飲み


本音で語り合い


心の底から笑い合った


【親友として】


今できる事は、この頼りのない男に全てを託す事。


「今、アンタがしなくちゃいけない事は、確り最後まで見送る事!」


相葉さんの好きだった人達に電話をする事じゃない。


思い出に浸り自分の事を攻める事でもない。


相葉さんの最後を見送る事が出来ない人達の気持ちも背負って。


「公ちゃんを見送りに来た人達に失礼のないように!」


先輩の死を悼んでる場合じゃない。


最後まで確りと勤め上げ他の社員に任せず、気持ちを切り替えて望む事。


店中のオカマの思いは、田島さんを奮い起こした。



「納骨済んだら、お墓まで案内してね」


「判りました!ありがとうございます!」


「気合入れていけ!あ〜!!そうそう!」


【最後に】


閉め終えて思い出した会話。


「誰に電話したのって聞かれてですね」


切っていたらかけ直して来たかもしれない。


田島と言う舵を取ってる雅恵ママにとって大切な事。


「他には誰かに電話したの?」


「してません。最初に雅恵ママに」


「じゃあ、誰にもするんじゃないわよ」


雅恵ママが相葉さんの行きつけの店の人達には伝えてくれる。


でも女性関係までは把握できない。


「肉体関係があった女って、何するか判らないからね」


「納骨が済んでからの方が良いんですね?」


「いっそ永遠に教えない方が良いわ」


「え?何でですか?」


「遺骨を持ってく女って多いみたいよ」


「そうなんですか!?」


「今も連絡取ってたのは、仁美ちゃんぐらいかしら」


「いえ・・・もう1人」


話の流れで自分の事だと判った。


最後まで聞くだけだった話も終わり言葉を発するのを許される事も。



「雅恵ママに相談したら、優奈さんが良いって」


「雅恵ママが?」


「そうです。お願いというのはですね」


相葉さんのマンションを引き払う事が決定した。


早急にするのは、奥さんが退院する前に済ませてしまいたいと言う


相葉さんのお父さん嘗ての希望。


「期限は来週の月曜日。出来れば早い方が良いんですけど」


「私は何を」


「一緒に来て欲しいんです」


「私が?」


「雅恵ママのご指名です」


「指名?」


「先輩のマンションに歓迎された唯一の女性として」


私があの日感じた空気。


去り際に雅恵ママも同じように感じてた。



あの部屋を自分の手で


【無に返す】


それが私の役目。


「ありがとうございます!僕1人じゃ重荷過ぎて」


「私で良いんですか?」


「先輩が生きてたら、きっと誉めてくれます!良い選択だって」


【生きてたら】


相葉さんは誉めてはくれなかったと思う。


生きてたら、こんな時間は必要ないはず。


「親御さんが煩いと聞いてますので、日にちも時間もお任せします」


「週末でも」


「大丈夫ですよ。僕も今月までと言うか・・・・また!会った時にお話します。では」


今問う事を拒否するかのように意味深な言葉を残し切れた電話。


【先輩がお亡くなりになりました】


何度も頭を駆け巡る田島さんの声はきっと真実。


でも、信じられない。


あまりに唐突な話に嘘を付かれてる事を願ってる自分。


どうして急いで部屋を片付けなければいけないのか。


何故、私なのか。


時間を追う事に生まれる疑問で頭が混乱し


=今なら電話して来ても良いぞよ=


YUIちゃんからのメールを初めて無視した。

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