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disappear  作者: 黒土 計
58/71

chapter2 田島さんからの電話

初めて会った日と変わらず丁寧な言葉で聞こえる田島さんの声。


「お元気でした?」


「待ってました!」


「え?何をでスカ?」


「電話が来るのを」


「本当ですか!?いや〜!スイマセン遅くなって」


高めの声がさらに高くなったり。


ゆっくり話す表情豊かな声に私のトーンも上がる。


「女子高生に電話するのって初めてなんで」


「高校の時は」


「ありましたけど!同級生でもないし、もう卒業して4年経つし」


「おじさんみたい」


「まだ22ですけど、ものすごく興奮してます!」


バカが付くほど正直な田島さんの言葉。


私の笑いが落ち着いたのを受話器越しで確認してたかのように切り出された言葉。


「今日お電話したのには理由があるんです」


「そうなんですか?」


「スイマセンが、疑問とか感じても何も言わないで下さい」


「私・・・何か怒られるんですか?」


「いえ!そういう事じゃないんです。お願い事と言いますか」


「お願い?」


「優奈さんにしか頼めない事がありまして」


言いづらそうな内容なのを間で察し


かかって来た電話に笑ったりしてた自分が恥ずかしくなった。


きっと田島さんが言いたい事は相葉さんとの事。


笑いながらも田島さんの視線の奥に、すごく奥さんに気を使ってたのをファミレスで感じた。


【会わないで下さい】


きっと、そういう話。


「でも、その前に少し試させてください」


「何をですか?」


「大丈夫です。勝手に僕が判断するだけですから」


構えて待つ私に気遣いながらも念を押し続けるだけの田島さん。


「まずは目を閉じて心を落ち着かせてください」


「はい」


「深呼吸を3回したら教えてください」


「しました」


「落ち着きました?」


「まあ・・・」


「これって、いつも先輩が商談前に僕にさせてた事なんですけどね?」


「深呼吸を?」


「はい。まあ、そんな事はさて置いてですね」


「はあ・・・」


「では、最後まで聞くだけにして下さいね?」


「はい」


「約束ですよ。先輩にとって優奈さんは大事な存在だと僕は思ってます」


「そんな事は・・」


「最後まで聞くだけの約束ですよ?」


「スイマセン」


「ココからは聞くだけにして下さい」




【長くなりますが】


そう前置きをして話し始めたのは


田島さんが相葉さんに就いて初めての日の事。


「僕が最初に出会って先輩から言われた言葉は、

俺は嘘が嫌いなんだよ でした」


結果が嘘に繋がるなら、それも嘘。


見栄も格好も付けないで思った事。


相葉さんの前でなら、感じた事を全部口にする事。


「僕のお母さんの育て方の良さからか

言われなくても僕はそういうタイプだったんですが、

でも、その場の空気とか相手を見てとか難しくて」


相葉さんと同じ会社に新卒者として入社したのは4月。


「僕、結構自信があったんです。

学校でも成績も良かったし、人を言い包めるのも得意で。

だから最初は本当に苦痛でした」


大学を卒業して大手企業に就職。


有名幼稚園のお受験を勝ち抜いてから


全てにおいて常に勝ち組と言われた田島さんにとって


社会という現実は想像よりも厳しかった。


仕事の責任という重さ。


自分の発言や行動で評価が決る世界に戸惑い


結局、相葉さんと2人の時にしか言葉が出なくなった。



商談中にサポートする事もできず、ただ横で座ってるだけ。


相手から見たら何をしに態々来てるか判らない、その場にいなくても良い存在。


「その視線が痛いんですよ!だから何か言おうと思うんですけど」


自分の存在をバカにされてる気がして話の中に付け込める場所を探す。


「で、ある日先輩が言ったんですよ。

今から行く所には相手の後ろに鏡があるから、

商談中に考え事する時は自分の顔を見ろって。そうしたらですね?」


鏡に写る自分の顔は、思っていたよりも頼りがなく。


相手のカマ賭けに異常なほどに反応し、会社内部の機密も先輩の会話全てが台無し。


「相手によくされたんですけど。

僕の顔を見て鼻で笑われてた意味が良くわかりました」


その夜から欠かさず見ていたお笑い番組を見るのも忘れ、鏡を見て自分の顔を研究する日々。


「意識し過ぎで、逆に失敗しまして」


相手の目を離さずに真剣に見る。


それが人の話を聞くという姿勢だと思い込んで挑んだある日。


「睨み付けてるのか?失礼じゃないか!」


ただでさえ、気が難しいと言われてた相手に付け込まれた。



入社して、初めて受けるクレームにどうして良いか何も判らずに


ただオドオドと翻弄するだけの田島さんをよそに


「私が先生の仕事だけではなく

人間性の高さを話したからでしょう。

滲み溢れる極めた男としての高さを、僕は目指してますから。

先生の悪評は有名ですけど僕が魅入られたように。

若輩な彼も、どこかに見つけてしまったようです。」


そう前置きをし相手の前に土下座をし謝罪をした。


その行動のおかげで結果的には


「君に全てを頼むよ」


4分の1でも難しいと言われていた商談を一社専属と言う大契約を取り付けた。


「今でも思い出す度に、体がブルブルって震えるんです!」


自分の未熟さで相手サイドを怒らせた失態は元より


その場に同席出来た事を光栄に感じる反面、感じた疑問。



「僕は土下座しないといけない状況って苦渋を強いられて

もっと激しくて壮絶な物だと思ってたんですけど。そのおかげで治まったんですけどね」


淡々と謝ると言うよりは自ずから。


「何か宗教的って言うのかな。

教祖にひれ伏す?僕にはそう見えたんですけど。どう思います?」


「・・・・」


「あの・・・聞いてます?」


「・・・・」


「優奈さん?」


「へ?」


「聞いてました?」


「黙ってって言ってたので」


「もう大丈夫です。どう思います?」


「どうって」


「土下座したんだと思いますか?それとも」


田島さんの未熟さを受け止めて。


全て相手の考えの先の先を読んでの行動。


【でも、きっと違う】


相手の先を読んだんじゃない。


誰もが悪いと言うこの人の中に、相葉さんは何か良い所と


自分にない羨ましいほどの魅力を知ってた。


きっと土下座ではない。


ただ自分の率直に感じた相手の人格への敬意。


相手も土下座としては受け止めてない。


田島さんが会う前から築いて来た何かが信頼関係に変わった瞬間。


だから、相手は相葉さんの気持ちを受け入れた。


私は相葉さんが、どういう人か知ってる。


仁美さんよりも


奥さんよりも。


相葉さん自身が私をそう認めてた事を田島さんに認識させたい。


その思いに気が付いて欲しくて良い見解だけを述べた。



「先輩は、そう思ったからですか?」


「多分・・・」


「僕もそう思います!やっぱり思ってた通りです!」


「そうですか?」


「先輩にとって優奈さんは大切な人です」


私の思惑どおり田島さんは私の存在を認めてくれた。


「いつも言ってました」


言わなくても自分を判ってる人は判ってくれる。


見てなくても誰かに嘘を吹き込まれようが惑わされず。


その人は、判ってくれる。


「だから、自信を持って生きていけるって」


「その人の名前は?」


「名前は言ってませんでしたが」


「違う方かと」


「いえ!絶対にそうです。と、言うよりも」


「言うよりも?」


「その中の1人です」


「その中?」


「はい。他にも僕が思うのは」


仕事後も無理やり引っ付いて歩いた田島さん。


いつしかではなく相葉さんも田島さんを常に連れていた。


いつか2人で行った料理屋の女将さん。


初めて接したオカマの雅恵ママ。


「ご連絡はしますが、仁美さんは違うかなと」


「違うって何がでスカ?」


「先輩にとって大切な一人でしょうが、結婚を決意された方の気持ちもゴザイマスし」


「はぁ・・・」


「優奈さんにお願いがありまして」


「私にですか?」


「これは僕の一存じゃなく、雅恵ママからの推薦です」


「推薦って」


「その前にお話をしなければいけません。」


「何ですか?」


「上手く話せないかも知れないので、もう1度最後まで聞いてください」


2度目の忠告。


黙って欲しいと言われなくても聞く準備は整っていたけれど。


想像も出来なかった内容に言葉は消え


自分の意識さえも消えた。

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