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disappear  作者: 黒土 計
53/71

chapter2 新しい友達

ライブ当日の昼。


「そんな気分じゃない」


彼氏とケンカして


愛子 突然のドタキャン。


万が一お母さんから電話がかかって来ても、お風呂に入ってる事にしてくれるし


始発で泊まりに行くから、お母さんへのアリバイは大丈夫だけれど。


今更誰も付き合ってくれる訳なく。


打ち上げがなかったら・・・


カラオケボックスで朝を待つか。


ファミレスで明かすか。


女1人 何処で過せば良いのか不安を胸に結局1人で行く羽目になってしまった。



会場の前には知らない女の子達ばかり。


単なる通行人を装って


浅見君達の車の到着を待ち


何する当てもなく


駅とライブハウスを3往復した所で


「久しぶりじゃねえか!」


やっと篤君に会い


指定された時間に


ローディーさんに差し入れを渡す事を約束をし


「おう。元気そうじゃん」


浅見君と挨拶を交わした所で会話は続かず。


ファンの子達とメンバーの会話を聞いているのも不自然。


ライブの時間まで何処で何をして1人過せば良いのか。


誰もが顔見知り状態の中


「もしかして優奈ちゃん?」


1人の女の子が話しかけてきた。


(これは天の助け!?)


救世主にも見えた彼女。


NFの打上げで一緒だったらしいけれど


「酔っ払ってたから憶えてないでしょ」


「ごめんね」


「ううん!大丈夫」


「何処に座ってた?」


「隣で間接キッスした仲なんだけどな〜」



小悪魔的な笑みを浮かべ


自分も1人だから一緒にいようと言ってくれた彼女の名前は


「吉岡千春。千春ちはるって呼んでね!」


私より5つ年上の22歳。


大きな瞳で、しぐさが女の子らしくって。


服装もOL風。


他のファンの子達と少し違う感じで


「優奈ちゃん1人なんだって」


「お前1人で来たのか?」


「私が一緒にいるから安心して!」


浅見君とは顔見知り以上。


「ねえ!あの話ってどうなった?」


「あ〜。今判らねえから」


親しげな話のやり取りから浅見君の電話番号を知ってるのを感じた。


機材を搬入し終え、メンバーがライブハウスに入るのを見送った後


「時間までお茶しに行かない?」


誘われるままに入った駅前のカフェ。



テーブルに座ってイキナリ切り出された会話は


「YUIちゃんの事で知ってる事は」


誰にも聞けない


知らないから教えてもらえないYUIちゃんの話。


「隠さなくても大丈夫」


YUIちゃんと私の関係をどう答えて良いのか話してしまっても良いのか。


不安な気持ちを解き解すように


「私誰にも言わないから」


バンド音痴な私には判らないけれど


有名なバンドのメンバーと付き合ってた話から始まり


「私には相談できる相手もいなかったし」


いつも1人で


誰にも言えず


相談する事もできず


「信じてくれなくて」


誰かの嘘や噂で振られる。


何人ものメンバーと付き合ってた経歴を順々に話してくれた。


「今は付き合ってるメンバーはいないけど」


元彼をきっかけに、他のバンドとも交流がある。


「彼女同士じゃないと判らない事もあるし」


バンド関係に留まらず恋愛にも世間の常識にも疎く


話を聞いていてバンドマンの彼女と言うのに難しさを感じた私には必要な存在。


「力になってあげたいの。私は惚気たかったし、不安もあったし」


「判ります。」


「本当に?」


他の人だったら言わなかった。


浅見君と繋がってる。


その事が1番彼女に心を許した理由。


「信用してくれるの?本当に嬉しいよ」


学校では教えてくれないクラスメートでは話にならない。


バンドマンという男との付き合い方に頼りになる人に出会えた運命に喜びまで感じた。


「YUIちゃんって今まで女の噂って1つもないんだよ」


「本当に?」


「本当だって!優奈ちゃんが初めてだよ」


千春ちゃんから出てくる言葉は、嬉しい内容ばかりで幸せ度が増して行く。


「メルアドと番号交換しようよ」


楽しい時間が過ぎるのは早く、あっという間に開場の時間。


「優奈ちゃんの事応援してるから!」


「本当?」


「私と浅見君の事も応援してくれる?」


「もちろん!」


「本当に?嬉しい!お互い頑張ろうね!」


千春ちゃんが浅見君の彼女になれるよう応援しなくても、私が男なら好きになる。


きっと浅見君も千春ちゃんの事を好きになるって思った。




親友になる約束を交わしながら戻ったライブハウス。


初めて見るクリムゾンバインのライブがどうだの音楽がどうだのサッパリ判らないけれど。


3回目となる打上げは、いつもの居酒屋。


ファンとして来てる他の女の子達と私は違う存在。


「何飲まれますか?」


「後で大丈夫です」


「いや。それだとYUIさんに怒られるんで」


NFの時に会ったローディー君の手厚い扱いに、何とも言えない優越感を感じたのもつかの間


「お前ちょっとコッチ来いよ!」


メンバーだけが集うテーブルに呼ばれて、強制的に篤君の隣に座らされた。


「こいつYUIのさ」


「え?そうなの?」


小声で他のメンバーに紹介する篤君。


「な!という事で、アイツも素人童貞卒業したんだよ。あ〜めでてえな〜!」


続いて出た大声に恥ずかしがってる間もなく


「でよお前さ。アイツの何処がいいの?乳首に毛が生えてる所か?」


YUIちゃんに対しての私の気持ちを甚振ってるとしか思えない質問攻めに遭い


「その辺で勘弁してやらねえと」


「何だよ浅見!」


「チクられたら例の件」


「それは非常に不味い!」


内容は判らないけれど


別のテーブルに去って行った浅見君の一言に救われ解放されたのも一瞬の事。


「じゃあ、アイツの素晴らしさをだな。公園の水あるだろ?」


「シャンプー持ってよ。みんな結構行くよな」


嘘か真か単なるネタなのか。


YUIちゃんに関する定かではない話は公共のものから


「雑草をラーメンの具にしてよ」


「茶も作るよな」


自然の恵に感謝しないとイケナイ食料ネタまでサバイバルな貧乏話のオンパレードで。


「マジだって!じゃあアイツに聞いてみろよ!」


篤君達の話に涙が出るほど笑い転げ、酒の肴にされ続けた約2時間が終了した。




「またな!」


次の場所へ向けてメンバーを乗せた機材車が走り出したのは、もう始発の時間。


「今度電話するね!」


打ち上げ中は、全く話せなかった千春ちゃんはコインパーキングに止めてあった車で帰宅。


「今、打ち上げ終わったよ」


駅のホームでベンチに1人メールを送信した直後


「長くねえ?」


YUIちゃんから電話が鳴った。


「起きてたよ」


「心配で?」


「いや?結構この時間は起きてる」


「起きたんじゃなくって?」


「年寄りじゃねえっつうの」


今日のライブの事。


差し入れを持って行った事。


篤君から聞いた話の真意。


「帰ってきたら殺す」


「浅見君じゃないよ?」


「篤だろ?」


一緒に住んでた女の人に愛想を付かされ、浅見君が言ってた例の件と言うのが


YUIちゃんと浅見君の家に篤君が転がり込むという事を聞きながら乗り込んだ電車。


近すぎず、遠からず座った打ち上げに来ていた見覚えのある女の子達。


きっと彼女達は気が付いてる。


私が誰かの女だと言う事を。


チラ見されるその視線に話しかけられたらどうしよう。


何を言われるのか悩み損で着いた乗り換えの駅。


緊張から解放されて


【アナタ達とは違う】


私は単なるファンじゃない。


メンバーの女という不思議な優越感が満ちて肌寒さも心地良く感じた。


篤君も浅見君も心の底からバカ笑いして私も何度も笑い泣きして。


YUIちゃんの女として不安も疑問も何もない


楽しくて幸せしか感じなかった最後の打上げ。


「もしもし?千春だよ〜」


何でも話せる新しい友達に


【いつか】


思い出してくれれば良い。


そう誰かが教えてくれた


自分が本当に幸せになりたいって思うのならという事を思い出す事もなく終了した春休み。


昨日のドラマ。


芸能人のネタ。


特別取り得もない彼氏の話。


「すっごい面白いでしょ!?」


リアリティーも


落ちも何もない


中途半端にも笑えないクラスメートの会話につまらなさを感じ


聞いてる事さえ倦怠感を感じ出した新学期が始った。

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