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disappear  作者: 黒土 計
51/71

chapter2 第2ボタン

晴天の卒業式。


「全部あげちゃったんだって!」


2年間憧れ続けた先輩。


「最後の恩返しってところ」


モテナイ部活の先輩に花を飾ってあげる為


クラスメート達が様々な思いで手に入れた第2ボタン。


人気の先輩は制服まで奪われてた。



「優奈は貰わないの?」


「好きじゃなくても良いんだって!」


わざわざ貰ったのに


青春の1ページとして。


今日だけのネタ。


いや1秒だけのかもしれない。


「あれ〜?失くしちゃった!」


誰のなんて構わない。


失くした事も思い出。


「どっちが佐竹先輩のだっけ」


「多分こっちじゃない?」


大切な人のボタン。


そうじゃない人のボタン。


「あ〜どうでも良くなってきた」


両方とも空に向かって投げて


「何かスッキリした〜!」


叶わなかった恋に終わりを告げるのも思い出。


「貰わないからだよ」


思い出とは出来る物ではなく、作る物なのかもしれない。


私には今日の日に何も思いでは出来なかった。


お母さんにも思い出があるのに。



「先輩から私にってくれたのよ」


「第2ボタン?」


「好きだったから貰って欲しいって!」


今では想像もつかないけれど


きっとお母さんにも、モテ期と言う物があったのか。


「でも、その時付き合ってる子がいたから」


一応貰った第2ボタン。


彼にも言えず。


誰にも言えず。


机の中に閉まったまま


「今でもあるかしら」


何処かに忘れられた思い出。


「捨てた記憶がないのよね」


第2ボタンの行方を、もっと聞きたいと思ったけれど


「姉ちゃんは貰ったの?」


裕貴の言葉をきっかけに


「アンタはモテナイから」


小バカにされ始め


本腰になる前に部屋に撤収してYUIちゃんに電話をかけた。



「第2ボタン?」


「YUIちゃんはあげた?」


「聞いてどうする」


YUIちゃんの学生時代。


別に何気もなく聞いただけなのに


「ご想像に任せます」


教えてくれないから、余計に気になって。


「しつこい!」


「何で隠すの!?」


「もう判った!」


半切れ状態でボタンをあげた事を答えてくれたけど


「前言っただろ」


会社を辞めるまで付き合ってた彼女が高校の同級生で


人生の中で唯一、第2ボタンをあげたひとだと知って急に息苦しくなった。


聞きたい事は他にもあったはずなのに、言葉にならない。


「これで宜しいですか」


よそよそしい言い方に


はい。と返事をするのが精一杯で


「他には聞きたい事は?」


溜め息の後に沈黙を破ったのはYUIちゃんの方。


「昔の事だ気にするな」


「気にする」


「だから言いたくなかったの」


自分の中でも判ってる。


【昔の事】


今の事じゃなくって私が出会う前の話。


終ってしまった思い出であって別に悩む事でもない。


でも、何故か心が締め付けられるように痛い。


「一々気にし過ぎ」


何か答える度に過去の事に


単なる思い出にまでヤキモチを焼いたりして


【メンドクサイ女】


そんな事は判ってる。


別に他の男には出ない自分。


イケナイって判っていても、嫌われるって思ってもYUIちゃんの前では出てしまう。


それはきっと


【私の事を判ってくれてる】


どうして欲しいのか気が付いてくれる。


そう心の何処かで安心してるから。


「じゃあ、今度お前にやるよ」


「第2ボタン?」


「学生じゃあるまいし」


「じゃあ何?」


「ボタンじゃなくって」


「なくって?」


「陰毛をやろう!」


いつも笑って苦しく感じた原因を嫉妬している事、切なくなった時。


他のだれかがYUIちゃんとした事よりも、それ以上の別の事を考えてくれるから。


「おまじないとか好きだろ」


「そんな所の毛なんて要らないよ!」


「お守りにでもしてくれ」


どんな時だって声を失くした私から次の言葉が出るまで話しかけてくれる。


ちゃかす時もあれば、真剣に答えてくれたり。


「何で第2ボタンかって?」


「うん」


「そんな事も知らねえの?」


「知ってるの?」


「胸に1番近いだろ?」


「だから?」


「ハートちゅうの?心に1番近いかららしいぜ」


世の中の常識からトリビアまで。


世間知らずな私でも理解できるようにたくさんの事を優しく教えてくれる。


そして随所に私の事を好きだって思ってくれてるのを感じる。


「で、お前は貰ったのか?」


「何を」


「話の流れで判るだろ」


「貰ってないよ?」


「1度も?」


「うん」


「じゃあ第2ボタンの思い出は一生ないな」


「どうして?」


「何?来年誰かに貰う気か!?」


「思い出がないのは淋しいでしょ?」


「だからってよ」


「じゃあYUIちゃんが下さい」


「陰毛なら何本でもやるぞ」


人の事を茶化して笑ってる声が好き。


茶化されてツンデレになる自分が好き。


女の子に生まれた事の幸せ


【ありがとう】


言葉には出せないけれど


お嫁に行く前に花嫁が両親に挨拶する際に言う言葉


【私を産んでくれてありがとう】


YUIちゃんと過ごす時間は、お父さんとお母さんに感謝する気持ちと


自分がこの世に生まれた事までも喜びに感じる。


「自分の卒業式によ」


「絶対ないよ」


「その前に留年だったりして」


卒業して上京する。


きっと私の第2ボタンの思い出は貰わなかったで一生を終る。


それでも構わないと言うよりも当然の事。


だって、私はYUIちゃんの彼女。


「羊を数えろって?」


「眠れないもん!」


「羊が1匹」


好きでもない男の第2ボタンなんて欲しくない。


YUIちゃんは学生じゃないしボタン何て要らない。


「陰毛が14本」


「眠れないよ!」


「陰毛が15本」


思い出は今から2人で作るモノ。


あと1年は電話でしか繋がれないけれど


「いつでもかけて来いよ」


「うん」


「繋がんなかったらメールして」


「うん」


「裸の画像も添付してくれたら嬉しいな」


「絶対にしない!」


「何処の毛でしょうクイズとかよ」


YUIちゃんと話した全てが、どんな内容でも私にとって掛替えのない思い出。


形なき心の記憶にしか残らない今日の日の電話が


私の心の第2ボタンの思い出として深く刻まれた。

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