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disappear  作者: 黒土 計
49/71

chapter2 夏美の退学

登校してイキナリ感じた違和感の原因が何なのか。


気付くまでにそう時間はかからなかった。


「夏美退学なんだって?」


窓際の1番後ろに追いやられた机が消えていた。


夏美とは、あの日以来連絡を取り合っていないけど


クラスメートは、まだ私に聞けば何でも知ってると思ってる。


【理由を聞かれる】


イコール絶交された事もバレル。


親友がいない事は寂しい事。


何て言おうか思いつかなくて悩んだ時間は


「親友って勝手に言われてただけでしょ」


「優奈も迷惑だよね」


撤回する時間ももらえないまま即終了し


今まで親友という事で伝わる事がなかった夏美の噂話へと移動した。


「クラブのトイレでヤッテたらしいよ?」


「この前男と歩いてるのを見たけど、援交ぽかったよね」


絶え間なく出てくる目撃情報。


冬休み前なら絶対に信じなかったけど、夏美ならありえるかもしれない。


実際にそういう事をしてると本人から聞いた事はないけれど


おっかけする為にバイトもしてないのに夏美がそんな大金を持っている理由。


りえちゃんのようにオヤジではないかもしれないけれど


そうやってお金を作ってたのかもしれないと考えてる合間に


噂話はエスカレートして私まで疑われてた事に気が付いた。


「何か変わったよね」


「優奈もさ・・・」


私は違うと撤回する為にも意を決して


「か?」


「彼氏・・」


「え〜彼氏出来たの!?どこの男?」


「遠距離恋愛ってまた悲しい恋だね〜」


去年自然消滅したあの男以来、彼氏が出来た事をクラスメートに告白した。


私の変化とYUIちゃんとの出会いのきっかけを作ってくれたのは夏美という事を伏せ


「東京に行くの!?」


「すごい!うちらも東京に知り合いが出来るって事だよ!」


卒業したら上京する。


YUIちゃんから誘われた事に盛り上がるクラスメートの言葉に私の気持ちも浮かれた。


今まで会話の主役になる事がなかったけれど悪い気分じゃない。


「お前等席に着けよ」


先生の声で中断されたけれど


「後で聞かせてよ」


放課中には、またYUIちゃんの話を聞いてくれる。


口から出れば出るほど幸せな気分。


でも、待ち遠しかった放課は


「川嶋ちょっと来てくれ」


担任の先生から職員室に呼ばれた事で後回しになった。



呼ばれた理由は夏美の退学の事。


「お母さんから電話が来てな」


「電話?」


「電話じゃ受理できないって言ったんだけど」


教科書に体操着。


夏美の荷物が先生の机の下にまとめられている。


「川嶋のお母さんに承諾を得るから一緒に来てくれないか?」


「私が?」


「取りに来てくれって電話しても行けないの一点張りなんだ」


その会話を最後にいつ電話をかけても留守番電話。


私が痴漢に遭った際に助けてくれた津山先生と月曜日に夏美の家に行ったけれど


「中にはいるみたいなんだが」


声をかけても出て来ない。


荷物を置いて帰るにも手渡さなければ、後で置き引きされたと訴えられても始末が悪い。


「一か八か」


その言葉を言いながら夏美の家に電話をかけ


「頼むぞ」


「え?私が?」


無言で頷き受話器を渡されたけれど、出たのは留守番電話。


名前を言えと口パクで指示された通り


「川嶋ですけど」


名前だけ言ってみた。


その続きは何を話せば良いのか先生の指示をもらおうとした時


最初から居留守を使ってる事を先生は知っていたのかもしれない。


「もしもし!?優奈ちゃん!?」


「おばさん?あの・・・こんにちわ」


「元気?今何処にいるの?」


「学校ですけど」


「夏美ちゃん今何処にいるか知らない?」


「知らないですけど」


「お願いだから正直に教えて!」


おばさんの様子に私が何か不穏な空気を感じてる事を知ってかしら知らずか。


先生は小声で指示を出し続けてくる。


「あの・・・私今日行っても良いですか?」


「おばさんの家に来てくれるの?」


「先生が夏美の荷物を渡したいって」


「優奈ちゃんだけで来て」


「先生も」


「お願いだから!!」


号泣するおばさんに1人で行く事に恐怖を感じて私が信頼を寄せている


体育と生活指導を兼任している女の津山先生と2人で行く事を了承して電話を切った。


「俺は行かない方が良いみたいですね」


「先生?」


「どうした?」


「お母さんには連絡しないで下さい」


「それは学校側としてはマズイだろ」


「じゃあ行かない」


「生徒1人に物を頼むんだから保護者の同意ってのは」


「先生良いじゃないですか」


「津山先生まで」


「あのお母さんに何て説明するんですか?」


渋々了解をした所を見ると先生もお母さんに参ってたみたい。


痴漢に遭った時の災難をたった数日前の事を忘れるなんて。


【男って本当にバカ】


「約束するわ。じゃあ後でね」


バツの悪そうな担任を無視して誰が見ても気が付くように


わざと津山先生だけに向かって一礼をして職員室を出た。


2時間目の授業も始って誰もいない静かな廊下。


教室に向って歩いていると突然雨が音を立てて降り始めた。


一体夏美に何があったのだろう。


どうしてオバサンは先生達に会いたくないのか。


外も見えないほど激しく降り始めた雨を見ながら、おばさんの悲痛な声の意味を探した。



「どうやって帰ろうかな」


「降るって言ってたっけ!?」


天気予報では1日中晴れの予報だったのに。


帰る頃になっても土砂降りの雨だった。


「優奈も一緒にカラオケ行かない?」


「今日は用事があるから」


「じゃあ明日うちにおいでよ」


1本の傘を数人で共用し合う。


何の役に立ってない状態で


「これじゃあ駅まで行けないよ!」


「今更遅いよ!」


数歩歩いただけで滝つぼに落されたようにずぶ濡れになりながら


「バイバ〜イ!」


大騒ぎで手を振り去っていくクラスメート達。


もしかしたら今まで夏美の親友という事で距離を置かれていたのかもしれない。


単なるクラスメートから友達に。


今まで以上に感じた親近感に今から何を目にするのかも考えないで。


「じゃあ行きましょうか」


明日からの学校生活を想像しながら1人浮かれていた。



「こんなに降るなんてビックリね」


津山先生の車はシルバーの国産車。


相葉さんの外車とは違って窮屈に感じた。


「買ってきて欲しい物があるみたいだから」


「誰がですか?」


「夏美さんのお母さんよ」


理由があって出れないと先生が予想し


授業中に私と同行する事を留守電に話したら夏美のお母さんが電話に出たらしい。


「でも男ってバカだと思わない?」


「バカ?」


「それだけの理由があるって事よ」


家まで行っても出て来ない夏美のお母さん。


この時点で先生は何もかも判っていたのかもしれない。


「川嶋さんはぶっちゃけどういう関係だったの」


退学した以上、先生には関係のない事。


ただ荷物を渡す。


それだけが義務。


「誰にも言わないから教えてくれない?」


今からしなければイケナイのは自分の学校の生徒


私に何か影響が及ばない用にする事。


「親友?って自信ないの?」


「この前絶交されちゃって」


「理由は?」


喉まで言葉が出たけれど口から出ない。


言ったと知られたら今以上に夏美に嫌われる気がして俯いた。


「あの子ねえ。援助交際とかしてるでしょ」


「知らないです」


「親友なのに?」


「本当に聞いた事もないし」


「じゃあどういう事して遊んでたの?」


「ライブハウスに12月に行きました」


「ライブハウスね・・・」


そう呟いた先生がハンドルを左に切って入った場所は小さなデパートの駐車場。


「ちょっと打ち合わせもしましょうか」


先生のおごりだからと車から降りた。




「心の準備をしないとね」


今から何を見ようが


何を知ろうが


何を聞かれようが


「多分じゃダメ」


本当に目にして一緒に行動した事だけ。


「先生が付いているから」


知らない事


判らない事


曖昧な事は言ってはいけない。


「私の隣に必ず座ってね」


ただ先生に付いて荷物を渡しに行くだけ。


そこで夏美のお母さんに少し話を聞かれる。


私は本当に今何処に夏美がいるのか判らないし


【絶交された】


知らないと言えばそれで終る。


それだけの事だと軽く考えてた。


「知ってる事全部教えて」


「例えば」


「ライブハウスの事でも良いわ」


「どうしてですか?」


「言わなくて良い事は言わせない為よ」


おばさんに聞かれた事全てを素直に正直に答える事が良い事ではない。


【知らなくて済む事】


言ったが為に恨まれる。


標的にされる。


全部説明が終る前に自分でも理由が判った。


良いと思って話した事が相手を傷つける。


「性病の事は絶対に言わない事」


言っても良い事は絶交された事。


ライブハウスに一緒に行った事だけ。


「あとは知らないの方が良いわ」


夏美のお母さんに頼まれたらしきペットボトルの飲料とお菓子には何も感じなかったけれど


人に頼んで買ってきてもらう物ではないような女性物の下着と洋服と帽子に


「どうかした?行きましょうか」


車が進むに連れて安易に引き受けて


ちょっと興味本位もあって着いて来た自分に気が付いた。


「15分だけ我慢してね」


今から何を見るのか。


自分は何を聞かれるのか。


タダならぬ事が起こった事を玄関脇に止められた


割れた車のフロントガラスが来た事を後悔させた。


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