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disappear  作者: 黒土 計
47/71

chapter2 不安

春1番が過ぎ去り


外はもう春の日差し。


静電気のせいで髪型がまとまらない。


「何時までやってるの!誰も見てないわよ」


朝から煩いお母さんの言葉がさらに憂鬱にさせる。


陽気な朝。


いつもと変わらない駅前の風景。


意味もなく走る小学生達。


スズメの囀りも


何もかもが嫌になる。


車窓から差し込む朝日が


私の肌を直撃し暖め


苛立ちを倍増させる。



理由はYUIちゃんからの連絡がない事。


私が愛子達とライブに行った


土曜日に送信したメールにも返信が来ない。


この日YUIちゃんは横浜でライブ。


打ち上げもしただろうし


メンバーの前で電話しにくいだろうけど今日は火曜日。


昨日送ったメールにも返信がなく4日間も連絡がない。


もしかしたら土曜日りえちゃんみたいに可愛い女の子が


YUIちゃんに近づいてきて・・・。考えただけで心臓が破裂しそう。



倒れそうな私をさらに別路線の信号故障が襲う。


復旧の目処が立たず電車が遅れ


連結の駅で会社や学校に急ぐ乗客が一気に乗り込んできた。


周囲に押し固められ身動きも取れない。


おじさんの体臭に誰かの香水の匂い。


色々な臭いが入り混じり不快感が増すに比例して


煽られるようにYUIちゃんへの私の妄想がさらに加速した。



【悪い方へしか】


考えられない理由はただ1つ。


ライブの次の日愛子にかかってきた りえちゃんからの電話は


「ヴィジュアル系だしね」


愛子の声のトーンで幸せな時間じゃなかった事ぐらい判った。


言われたとおりに部屋で待っているとボーカルさんが帰ってきた。


そこから、どんな会話をしてどれだけ時間を要したのかは判らない。


【長い爪】


ボーカルさんの爪に美しく施されたネイルアート。


折れたりする可能性がある事を理由に


「確かに無理だよね」


りえちゃんに自慰を要求した。


キスをする事も


ボーカルさんの唇と手が、りえちゃんの体を触れる事はなく


口で準備をさせた後は後ろから挿入して終了。


「その後は良かったんだ」


事が終えた後は、少し話して一緒にベッドで眠り


チェックアウト後に誰にも見つからないように非常階段から1人帰ってきた。


「がっかりだったね」


どうして冷静に聞いていられるのか。


愛子の隣で胸が苦しくなってきた。


「ハメ撮りされたの?」


挿入画像だけじゃなく


自慰行為も撮られて


これじゃあ、まるでオモチャ。


単なる生きた性処理機。


一瞬でも好きだと思った男と


【私なら】


自分の心も体も惨めになるであろう行為。


「いつもそうなんだって?」


他にも女がいる。


ボーカルの人の中では、自分の意のままに動く可愛い女の子が1人増えただけ。


「別の男に行ったら?」


私なら消し去りたい行為。


着信履歴に残ってる番号も消す。


2度と顔も見たくない。


その前に、自慰を強いられた時に逃げ出す。


「本命になりたいんでしょ?」


りえちゃんが望むのは、きっと自分だけを愛してくれる存在。


【そう勘違いしてた】


「自分が良いなら良いんじゃない?」


りえちゃんの答えは


【それでもイイ】


次に会う日の約束を交わしてた。


「またお金かかるね」


会うのは1週間後の隣の県。


「じゃあ、また遊ぼうよ」


一連の報告を聞いて愛子が電話を切った。



溜め息をついたのは私の方。


「優奈の事じゃないジャン」


「だけど」


「優奈なら止める?」


笑いながら聞く愛子の事を少し軽蔑した。


酷い扱いを受けた上に淫行画像まで撮られて。


りえちゃんの友達なら


【私なら止める】


そんなの恋じゃない。


絶対に後悔するだけ。


遊ばれてるのを判ってても付き合うなんてありえない。


「りえと?友達だよ」


「じゃあ何で止めないの?」


「止めた方がイイ?」


「ハメ撮りまでされて」


「させたんだよ」


ボーカルに気に入られる為に、りえちゃんが納得して撮らせた事であって


ボーカルが強要した事じゃなく、りえちゃんが自分で選んだ事。


「でもじゃない」


「望んでないよ」


「りえも予想外だったかもね」


「りえちゃんの事を本当に好きだったら」


「本当に好きにはなってないんじゃない?」


「どうして!?」


「本当って何?」


会ってすぐに本当に好きなんて言わない。


見た目がタイプ。


好きじゃなくって


【好きなタイプ】


「性格も何にも知らないんだよ?」


「だけど」


「りえだって、相手の性格なんて知らないよ」


ただお互いの好みが合っただけ。


遠い存在に近づく為のきっかけ。


それで本当に恋に発展できたら


「結果が良ければ全て良しじゃない?」


「良くないよ」


「ハルさんを超えられそうにはないけど」


「もっと他にイイ人いるよ」


「一般人じゃダメだから」


「どうして?」


「バンドマンじゃなきゃダメなんだよ」


ギターリストでもイイ。


ベーシストでもイイ。


【人気がある】


バンドマンじゃなきゃダメ。


「この曲はお前に作ったんだって言われたら?」


「別に」


「ライブもCDもタダだったら?」


バンドマンと付き合う特典を愛子が色々と説明してくれるけれど納得できない。


自分が好きになった人が、学生でも会社員でも構わない。


フリーターでも引きこもりでも私なら職業なんて気にしない。


「りえはダメなんだよ」


「どうしてそうなったの?」


「昔は違ったみたいって当たり前だけど」



【これも運命だよね】


りえちゃん14歳の秋。


デビューしたてのハルさんをテレビで見てカッコイイと思ったのが全ての始り。


「ファンのブログとかあるじゃん」


移動中のメンバーの画像を見つけて


「会えるって知ってさ」


入り待ちをして


「ただ生で見たかっただけ」


ファンレターを直接手渡しライブを見て帰る。


ただそれだけで幸せだったのに。


「スタッフに声かけられたんだって」


アンケートと称して誰と来ているか。


誰のファンなのか。口は堅いか。


一緒にいる子達に嘘を付けるか。


「1人で言われたホテルに行って」


スタッフに渡された鍵で部屋に入って待ってるとハルさんがやって来た。


「そりゃ嬉しいっしょ!」


まだ中学3年生。


「ロリコンらしいよ」


りえちゃんはハルさんに処女を捧げた。


その後ハルさんは、りえちゃんを大切にしてくれた。


電話をくれたりCDを発売前にプレゼントしてもらったり


ライブの1列目のど真ん中の席を最初から用意してくれたり。


「ファンの間でも有名だしね」


「りえちゃんが?」


「バンドマンの彼女って優越らしいよ」


「そうなんだ」


「みんなが追いかけてる人に愛されてるんだよ?」


たくさんファンがいるだけ。その分だけ優越感がある。


「逆に敵も多いけど」


「イヤだね」


「インディーズの方が敵が多いらしいけど」


「そうなの!?」


「メジャーより大変らしいよ」


メジャーだと移動する際も裏口から車で出入りする為


直接会える機会がインディーズに比べて少ない。


「だからインディーズの頃に」


メジャーに行きそうなバンドに音楽とメンバーが好きなファンの女の子達以外にも


バンドマンの彼女になりたいと言う類と


「メンバーも判ってるらしいよ」


有名なバンドと寝るのが自分の経歴アップになってる類の女達も近づく。


「そういう女は相手にされないらしいけど」


その言葉に夏美達の顔が一瞬浮かんだ。


YUIちゃんが言ってた


【要注意人物】


バンド仲間の間でも有名な話。


「見た目が良いから」


そんな事を知らないメンバーは受け入れて翌朝ファンにばらされて後で後悔する。


「メジャーだと近づけないしね」


追いかけてもチャンスがないと直接会えない。


手紙を書いて、手渡しして相手のアクションを待たなければならない。


インディーズでも、あと一歩でメジャーと呼び声高いバンドだと


メジャーとあまり格差はないらしいけれど


「そんなに人気ない所はね」


入り待ちか出待ちをしてれば必ず会える。


「打上げにファンが入れるらしいし」


自分をアピールできる時間もある。


自分の良さを知ってもらうチャンスもいっぱいある。


「りえも、インディーズに行けば良いのにね」


「どうして!?」


「メジャーに行くのをきっかけに、ハルさんみたいに結婚する人もいるし」


「そうなの?」


「あんなに可愛いんだから」



愛子の提案は私に不安の種を蒔いた。


りえちゃんは本当に可愛い。


同じ女として嫉妬するほど


入れ替われたらと本気で思うぐらい


テレビや雑誌の中で微笑む微妙なアイドルよりも格段に可愛いくて美人。


もし、りえちゃんがYUIちゃんに近づいたら


【その時】


YUIちゃんは、どうするのだろう。


初めて会った時に


【たまに】


知り合ったばかりの女の子と、そういう行為をするって言ってたのを思い出した。


私もその中の1人。


「インディーズも誘われてるみたいだけど」


「誰が!?」


「誰って りえ」


CD予約購入者イベントで声をかけて来たキレイ系の3人が


りえちゃんと携帯番号を交換し、今度インディーズのライブに行く約束をした。


可愛いから一緒にいるとメンバーが相手にしてくれる可能性が高いと


そんな事を普通に話してたらしい。


「どんな子だったって」


「3人だったんでしょ!?」


「私は誘われてないもん」


「智子?夏美?麻紀?」


「聞いてないよ」


りえちゃんだけを露骨に誘う3人の態度にムカついて愛子は離れた場所で待っていた。


「その子達が、どうしたの?」


「何でもない」


「本当に優奈は嘘が下手だね」


何かある事に愛子は気が付いていたけれど


「聞いて欲しくなったら」


【いつでも電話して】


私が隠してる事を聞いて来る事はなかった。



別に隠す必要はない。


愛子は夏美達の事も知らないし、YUIちゃんの事も知らない。


でも、3人組が誰なのか判らない限り言えない。


もし夏美達だったら。


りえちゃんが私が好きなひとと知って、YUIちゃんの事を見に来るかもしれない。


そしてYUIちゃんが、りえちゃんを見つけてしまうかもしれない。


【その時】


YUIちゃんは、どうするだろう。


私はどうなるんだろう。


【自信がない】


もしも、りえちゃんが幸せだったら私も幸せになれる。


そう願かけた結果は


【幸せだとは思えない】


あまりにも予想外な行為と、それでも良いという彼女の気持ちも判らない。


【幸か不幸か】


4日経っても待ち人から鳴らない携帯電話。


はっきりしない結果が不安に荷担した。



「右側の扉が開きます」


次の駅で一気に人が降りて学校までは空くはず。


ホームに到着する寸前、異様な感触がふくらはぎに垂れた。


【何!?】


ハッとして振り返った瞬間に電車の扉が開き


下車する人の波が振り返った私を避けて出て行く。


器用なほどキレイに除けて行く様は、まるで私が


【汚い物のよう】


誰もが避けて行く


【どうして?】


数秒の事がスローモーションのように流れ


電車の中にいる人だけじゃなく世界中の人から避けられてる。


そんな所まで想像が駆け巡り


「川嶋さん!?大丈夫?」


私の肩を抱いた高校の女教師の声に安堵して涙が溢れた。


「どうして助けてくれないのよね!ちょっと一回降りましょう」


先生に連れられて降りた理由を知ったのは駅員室。


「うちの生徒が痴漢にあって!」


「大変だ!お嬢さんコレで拭きなさい!」


「先生がついていてあげるからね!もう大丈夫よ!」


制服の上に出された何処の誰か判らない精液。


通報を受けて、かけつけた警察官。


そしてお母さん。


「どういう男だったの!?」


「判らない」


「何をされたの!」


「判らない」


「判らないってアンタは本当にバカじゃないの!!」


「落ち着いてください!お母さん!」


警察官からの事情聴取は何時の間にやら


興奮し切ったお母さんをなだめるのが仕事に変わり


トバッチリを食らって顔面を撲られた駅員は、この時間に開いている付近の洋服店を探す。


【だから】


呼ばない方がイイって言ったのに。


「家でもこうなの?疲れちゃうわね」


小声で漏らした先生の顔が困り果ててる。


本当にどっちが被害者なのか。


怒り狂うお母さんを見ていたら痴漢に遭った事よりも


【私の上に射精する】


それが私の好きな人でもお母さんが知ったら、あんな風に怒るのかな・・・。


そんな事を考えていたら、お腹の上に出された相葉さんの感触が蘇って


【SEXしたい】


私の不安は欲求不満という言葉に変わっていった。

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