chapter2 怒りの矛先
「もしもし優奈ちゃん?」
その電話は学校から部屋に帰るのを待っていたかのようにやって来た。
「麻紀だよ〜元気?」
夏美と智子から性病の事は聞いていないのか?
麻紀の声色は最後に会った時と何も変わらなく聞こえた。
「最近何してるの?」
他愛のない会話をし、お互いの近況を話してるうちに
また以前のように親友に戻れる
【その時が来た!】
そう期待してた。
「あのさ〜聞きたい事があるんだけど」
「何?」
「相葉って男」
「相葉さん?」
「会社の名前教えてくれない?」
相葉さんの名前が出た時点で
麻紀が電話をかけてきた理由が何となく判って期待してた分以上に落胆した。
「本当の事言えよ!」
急に声を荒げて責めて来る麻紀に負けそうだった。
本当は相葉さんの会社の名前も実家までも知っている。
携帯番号とメルアドは消去したけど
住んでるマンションも、夏美達が知ってる私と相葉さんの行為以外にもネタはある。
今からでも遅くない。
教えればって、また親友に戻れるならって。
攻め続けられながら一瞬考えてた。
相葉さんの会社の名前が知りたいのは
私とした相葉さんの淫行をネタに強請る為。
きっと智子が性病持ちだと知って相葉さんは拒否設定したのかも知れない。
でも、夏美達と元に戻れるのなら言ってしまおうと思った。
でも、バラシテしまえば
YUIちゃんにも夏美達にも隠してる
相葉さんと続いていた秘密の期間も全ての嘘が暴かれる。
【見ざる】
【言わざる】
【聞かざる】
女将さんに聞いた言葉を思い出した時
人間が持つ最大の自己防衛本能が自分に降懸かろうとする災いと判断して
「本当に知らないの」
その言葉を言わせたのかもしれない。
自分の嘘を隠す為にも都合が良い。
相葉さんにも迷惑がかからないし夏美達も犯罪者にならない。
知らないと言えば、きっと諦めてくれる。
そうすれば、何もかも終る。
誰も傷付かずに済むって思った。
例えそれが
「テメエにもう用はないよ」
麻紀を怒らせる事になっても、きっと夏美なら判ってくれる。
そう思った。
「死ね!」
でも、頭の中は混乱してる。
夏美も判ってくれないかもしれない。
麻紀の最後の言葉に言わなくて良かったと思う反面
言えば元に戻れたかもしれないと言う後悔が駆け巡る。
【戻れない】
冷静にならなくたって判ってる。
親友という言葉だけで踊らされてるのも
YUIちゃんが言うように付き合わない方が自分の為になる事も私が1番判ってる。
でも涙が溢れて止まらない。
体中が熱くなって、頭の中がパニックし出した時
着信したメールがさらに追い込んだ。
智子のアドレスから
麻紀のアドレスから
【死ね】
【消えろ】
【殺す】
【姦す】
耐える事無くやって来る脅迫メール。
今私が待ってる電話とメールはYUIちゃんだけ。
今の時間にかかってくる事はない。
鳴り続ける着信音に耐え切れなくって電源を落した。