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disappear  作者: 黒土 計
42/71

chapter2 初めてのバレンタインデー

2月14日。


予定の時間より10分遅れてYUIちゃんから電話が鳴った。


「届いたよ」


「嬉しい?」


「別に?」


「え〜!!酷い!」


「冗談だ。まあ嬉しい事にしてやろう」


YUIちゃんから聞くまで忘れていたバレンタインデー。


次の日、学校の帰りにデパートへ行って買って来たチョコレート。


バイト先のコンビニでも売ってたけれど、たくさんある中から選びたくって


お父さんには500円。


ムカツク弟にも一応315円のを買って


YUIちゃんには、愛情の分?


奮発してGODIVAとか言うお店のチョコレートを選んだ。


「お前の事だから手作りかと思ってた」


「手作りの方が良かった?」


「食べるのが怖いから良かったけど」


「どういう意味ですか!」


「そういう意味だ」


茶化されて甘えやすくなったと言うのに。


通常の宅配便では溶ける可能性があると店員に言われクール便というのにしたのに。


少しでも気の利いたところを見せたくって、チョコレートと一緒に送ったのは間違い。


「よく俺のタバコ憶えてたな」


「コンビニの店員だよ?」


「でも普通は入れないだろ」


料金上乗せまでして、


結果的に気が利かないマヌケな所を披露してた初めてのバレンタインデー。


「でもGODIVAなんてよく知ってたな」


「有名なの?」


「有名だよ。今年はお前合わせて3つGODIVAだ。」


くれたのはファンとは言え、女の子。


(せっかく奮発したのに他の女の子と被るなんて・・・)


私の気持ちは、さらにブルーになった。


「一応事務所っていうかさ」


バンド活動をするのに拠点となるライブハウスがあって


そこにファンレターやプレゼントが届くらしい。


「お前を除いて今年は7個かな」


「7個も届いたの?」


「いや?2個は直接貰った」


「直接って何・・・」


「何って・・・何か怒ってねえか?」


私は郵送だったのに、直接YUIちゃんに渡してる女がいる事実。


遠いからしょうがない事かもしれないけれど、私の気持ちは更にブルーになって行く。


「いつも練習する場所があって、そこで貰ったんだけど」


スタジオという場所で練習をする際にも


どこで情報を得るのかファンの女の子が待ってる事があるらしい。


YUIちゃんはただ判りやすいように説明してくれてるつもりだろうけど、


2月の寒空の下


来るか来ないか判らないメンバーを待ち続けるなんて


渡した女の子の気持ちは私と同じようにYUIちゃんに恋してるはず。


ただのファンを超えて恋愛感情を持ってる女の子が


直接渡せた事実に完全に私の気持ちは落ちた。


「拗ねてるだろ」


「拗ねてないもん」


「こんな事で一々拗ねるな。よっこらしょっと」


「おじさんみたい」


「うるせえよ」


その言葉と共に私から聞くタイミングを伺うかのようにガサゴソと音が聞こえた。


YUIちゃんが、今日もらったプレゼントを物色してる。


「これは手編みかな」


「手編み?」


セーターが1人。


マフラーをくれた子が2人。


チョコレートだけの子もいたけれど全員手書きの手紙つき。


私と同じくタバコを付けた子。


チョコレート以外にもファンの女の子がYUIちゃんにプレゼントを渡してた事を知り


底辺が見えないほど堕ちて行き続ける私の気持ち。


その終止符は、ヤキモチから出た言葉。


「着るの?」


「死んでも着ねえから安心しろ」


タバコと既製品のチョコレートは貰うけど


セーターとマフラー。


手作りのチョコレートは1つの袋にまとめていた。


「捨てるのも何だし、オヤジ行きかな」


「お父さん?」


「好きでもない女から手作りだの手編みって気味悪いじゃん」


「そう?」


「お前のだったらって作れないか」


「マフラーも作った事がない」


「絶対に編むなよ」


「どうして?」


「羊さんに申し訳ないだろ」


私には作れないと断言されてるけど


お前のだったらって言葉に心打ち抜かれ一気に上がっていくテンション。


その言葉だけで今夜は十分幸せなほどだったのに続いた言葉はさらに幸せをくれる。


「遠いから会えねえな」


「近くだったら?」


「デートしてやったかな」


【私は特別な女の子】


YUIちゃんの言葉は、一々身悶えしたくなるほど幸せにしてくれる。


「自分の頭にリボン付けて私がプレゼントとか言いそうだよな」


「言わないよ!」


「いや〜言いそうだ」


「変なビデオ見過ぎです!」


「何?お前も見るの?」


鏡に写った私の顔が驚くほど真っ赤になっる。


絵に描いた田舎者の娘に見えて本気でコノ時間が電話で良かったと思った。


「浅見は今日は帰ってこないし」


「どうして?」


「色々と忙しいんだよ」


バレンタインに忙しい。


浅見君に何人も女がいる事を聞かなくたって判って


気になった事を遠まわしに聞いてみる。


「俺?」


「忙しくないの?」


「そんな引っ掛けには乗らないぜ?」


「って事は忙しいんだね」


「今から忙しいかな・・・って!お前泣いてる?」


「だって・・・」


「冗談に決ってんだろ!?」


人はショックな出来事があったとして


涙が出るのにどれぐらいの時間を要するのだろう。


切なくなるだけで


悲しくなるだけで


不安になるだけでも私の涙は瞬間に出る。


「全然モテねえよ」


「嘘!」


「お前が思ってるほどモテねえゼ?」


「モテてるじゃん」


「一応ファンはいるけど」


YUIちゃんだけの事を好きなファンはいない。


NFの中ではYUIちゃんだけど、別のバンドの誰々も好き。


【その程度のファン】


「自分でこう言うのもなんだな」


「何?」


「悲しくなるよな〜」


自分だけを追いかけてる熱狂的なファンと言うのがいないと言う事は


バンドをしているメンバーにとっては淋しい事らしい。


「恥を捨てて言ってるんだから」


男のプライドも捨てて私の不安を取り除いてくれたYUIちゃんに誠実さを感じた。


「安心した?」


「少し」


「少しだけかい!」


本当なのは声で判る。


【でも】


顔が見えない分


遠くて会えない分、心配って言うものが消えない。


「初めて付き合ったの?」


そばにいれたら、こんな不安はないのかもしれないけど


数時間しか会ってないから余計に不安。


そう思ってた。


「最後に彼女がいたのは1年前かな」


「どんな人?」


「どんなって普通?」


「芸能人に例えたら?」


「芸能人?」


YUIちゃんが付き合ってた彼女が私に似てるなら


私はYUIちゃんのタイプの女。


もし違ったら・・・そんな事さえも不安に感じる。


「いないな」


「いない?」


「まあ、お前と違ってキビキビしてたかな」


その彼女と付き合っていたのは1年前。


その時YUIちゃんは、まだ普通の会社員。


「浅見から誘われてさ」


プロのミュージシャンになる夢を持って


高校卒業後就職もせずにバンド活動をしていた浅見君に誘われて


仕事を辞める時に彼女と別れた。


「どうして別れたのって」


バンドをするから別れた訳じゃなく


仕事を辞めてバンドを取った時に彼女の方から別れると言われた。


「会ってないね」


「連絡もないの?」


「今更あっても困るけどね」


「どうして?」


「どうしてって、お前はその方が良いの?」


「よくな〜い!」


「安心しろ。100%ないから」


その自信は何処から来るのか不思議だったけど、YUIちゃんの言葉を私は信じた。


「俺は篤とかみたいに器用じゃないからね」


「器用?」


「二股とかは出来ないね」


「本当に?」


「篤とか見てると尊敬するぜ?」


きっとYUIちゃんは、そういう男じゃない。


【俺は硬派だから】


会えないから。


電話だけだしバレナイからと言って誰か他の女を作る人じゃない。


「今はお前だけだ」


「今はって言われたら気になるよ!」


「冗談だよ。じゃあな」


今日も最終的には幸せな女の子のままで電話が切れた。


相葉さんとの関係があった時よりも罪悪感がないせいか


前以上に素直にYUIちゃんの言葉に落ちたり上がったり。


YUIちゃんも前以上に何でも正直に話してくれて、私に対する思いを強く感じて。


YUIちゃんと私は本当に赤い糸で繋がってる。


本気でそう思いながら探しに探して見つけた


お母さんが誕生日祝いにくれたプレゼントに付いていたリボン。


来年は会いに行こうか。


このままもらってくれるだろうか。


鏡の前で、自分自身をリボンでラッピングしながら


私の生まれて初めての幸せなバレンタインデーは


【元親友】と言う名の


悪魔達の企みなど知る事もなく平和に過ぎて行った。

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