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disappear  作者: 黒土 計
41/71

chapter2 私の中の記念日

「あら早かったのね」


何も知らないお母さんが、コタツに入りテレビを見ていた。


【平凡な女の癖に】


毎週、同じようなオチのドラマに笑い声まで出して。


相葉さんと出会ってお母さんみたいな人生には私はならない。


そう見下してた女の笑い声が、部屋にまで聞こえて余計に気に障った。



午後1時過ぎ。


きっと相葉さんは部屋に帰って来てるはずなのに。


未だに鳴らない携帯を見て、間瀬からの電話を待ったあの時間を思い出した。


もうあんな思いをするのはイヤだって思ってた時間。


相葉さんは知ってるはずなのに、今の私にそのイヤな時間を作ってる。


私からサヨナラをした方が良いのか


相葉さんからの電話を待った方がおりこうなのか。


【もしも】


投げた消しゴムが表だったら待つ。


裏だったら私から電話をかける。


1回目の結果はかける。


勇気が出なくてもう1度投げて。


何度も繰り返し表だったり裏が出たり。


投げる度に悔しさが増して思いっきり消しゴムを投げ飛ばした。


こんな時に夏美がいたら


きっと私の不安を聞いてくれたり一緒に色々と考えてくれた。


もしかしたら相葉さんに仕返しまで考えてくれたかもしれない。


【親友】


今はかける事さえ出来ない夏美の番号を表示した時に


「もしもし優奈?」


相葉さんから電話が着信した。


「今どこ?」


「家」


「そうだと思った」


髪を切るだけで、こんなに時間がかかる事じゃない。


沈黙の時間に絶えかねたように相葉さんが私に話し続けた。


「寝てると思ってたから、帰ったらいなくて焦ったよ」


「どういう風に?」


「怒ってるか」


「怒ってないよ」


「淋しいって泣いてる」


「安心した」


「やっぱりな」


相葉さんが私の気持ちを判ってくれてるのを感じ


このまま自然消滅してしまうと思ってた緊張が解けていく。


「報告しがてら実家に行こうかな」


「いつ?」


「今から会いたい。6時の門限には帰すよ」


その言葉に私の先走りで帰ってきた事を後悔した。


でも、あと何日もしたら結婚する男。


「隣の駅で待ち合わせる?」


「イイ」


「イイ?」


「今日はもう」


「じゃあ俺もわざわざ行く必要もないな」


本当は会いたいじゃなく


会っても今日みたいに悲しい思いをするのが怖かった。


今日の朝に感じた昨日までと違う線。


所詮、人の男。


「じゃあ、また電話する」


誰かに遠慮せずに泣いたり笑ったり、会ったりSEXできない男。


いつも何処かで自分の気持ちに線を引かなければイケナイ男。


「ありがとう?」


「電話かけてくれて」


「待ってた?」


「待ってた」


「だろうと思った」


他にも誰かがいる男と女だから。


さらけ出した条件のおかげで、お互いにとって都合がイイ関係でいられるのか。


「自然消滅はイヤだって憶えてるよ」


相葉さんの言葉に、淋しかった時間も一瞬考えた女の復讐的な想像も消え


さらに相葉さんとの関係に執着したくなった。


【でも、どうせ終るなら】


このままの気持ちで終りたい。


さっきまで感じた淋しさはもう味わいたくない。


【でも今じゃない】


今すぐじゃなくて。


いつかその日が来たら。


相葉さんとの関係を終わりにしたい訳じゃなく


ただ淋しかったから口に出しただけだった。


「何?」


「これで別れようか」


「別れたいんだ」


きっといつものように、今考えなくても良いんじゃない?


そう言ってくれるって甘えただけだったのに


「そうするか?」


相葉さんの口から出たのは、今日で終る事を待っていたかのような言葉。


「これで別れって言うのも良いかもね」


「結婚するから?」


「あんまり関係ないかな」


「関係ない?」


「一緒に住む訳でもないし」


「じゃあ何で?」


「優奈の事を本当に可愛いと思ってるからって変?」


YUIちゃんとヨリを戻した事でもない。


自分が結婚をするからでもない。


仁美さんとは終る気もない。


本当は質問を考える前に最初に頭をよぎった言葉。


「とか?」


「他にも女が出来たとか?」


「まだ電話止まりだね」


【最低な男】


私だけじゃ物足りない。


自分の存在も体をも全てバカにされてる気がして


相葉さんへの恋心は一気に冷めて行く。


でも、きっと相葉さんなら私と仁美さんを会わせた様に


平然と別の女を作る気がするけど、態々私と別れようとするその真相が知りたい。


「関係なくないね」


「私の知ってるひと?」


「そうだね」


その言葉に悪い予感がした。


私が知っていて相葉さんも知っている女は少ない。


その女の名前よりも先に聞きたかった事。


「さっきも電話だけって言ったけど?」


「SEXはしてない?」


「優奈との事は秘密だったしね」


「絶対に?」


「してない」


その女から最初電話がかかってきた時に相葉さんは怪しいと感じてた。


私の親友なのに


私と相葉さんがそういう行為をした仲だと知ってるはずなのに


「会社の名前ばっかり聞くからさ」


未成年とわいせつな行為をした成人という事で脅される。


【都合が悪い女】


そう感じたらしい。


でも、心の束縛から解放された相葉さんはどこか感が鈍ってる。


「結構面白い子だよね」


髪切ってる最中にかかってきた電話に暇だからと話してた。


「夏美ちゃんじゃないね」


「智子」


「そうだね」


「智子に私の事言ったの?」


「別れたままになってる」


その言葉に安心したと同時に私の気持ちは固まった。


YUIちゃんにバラサレル心配もない。


もう相葉さんに未練もなにもない。


恋心を抱いてた自分がバカらしい。


でも、逆上してばらされない様に最後はキレイに別れたい。


怒ったりする気にもなれないぐらい相葉さんの事をどうでも良いと思った。


「いつ絶交したの?」


「相葉さんには言ってなかったね」


「おかしいな。さっきも優奈の事を親友だって言ってたよ。

優奈と親友だから」


智子は電話で私の事を親友だと言ってたらしい。


相葉さんに悪い女と思われるかもしれないけれど


「1回だけでも良いから抱いて欲しいってね」


「で?したいんだ」


「イイ体してるしね」


最初会った時に相葉さんは智子の事を気に入ったのかもしれない。


そんな事も知らずに幼児体系をさらした自分が恥ずかしい。


これからも繋がりたいって思ってた自分が悔しい。


「優奈の気持ちを考えたら悩んでる最中かな」


「解決してあげようか」


「解決?」


「私は今日で別れるよ」


「それも淋しいけどね」


「ううん。いいの。そうしたいの。もう幻滅したし」


「幻滅って俺に?そりゃ酷い言い方だね」


「電話もしないし、携帯も変える。そして最後に」


「最後に?」


「今までのお礼に教えてあげる」


「何を?」


智子と夏美と相葉さんは知らない麻紀。


3人が性病にかかっている事を暴露した。


相葉さんの事を思ってじゃなく


傷付いた女としてのプライドと怒りと悔しさは智子に向かった。


相葉さんに智子の事を最悪な女だと思わせたい。


「危なかったな」


「智子とは」


「会う訳ないだろ。助かったよ」


相葉さんの本音はさらに私の気持ちを消滅させる。


「俺とした事がバカだったな」


「バカ?」


「今までどおりに」


「今日でお終い」


「だろうね」


本気で残念そうな溜め息が聞こえて


「最後はSEXしてサヨナラが良かったな」


思ったまま何でも言葉にする馬鹿な男。


このまま喋ってたら今以上に嫌いになりそうで私から終わりを告げた。


「元気でね」


相葉さんの最後の言葉。


こんな終り方をするはずじゃなかったのに。


淋しいと言うよりもバカらしい。


男と女の別れは


彼女と彼氏の関係じゃなかったからかもしれないけど


こんなにあっけない物なのだろうか。


小腹が空いて居間に降りるとお母さんがテレビを見ながら泣いていた。


「今いい所なんだから!」


画面の中で女が泣きまくって男を責めてる。


出て行く男に泣き崩れる女。


男と女の別れとは


こんなドラマや漫画みたいに泥沼化する物だと思ってた。


「あ〜今週も良かったわ」


ティッシュで涙と鼻水を拭きながらお母さんは世界に入ってたけど


SEXしてから24時間経ってない男と


数分前に電話で別れた私にはリアルに感じない。


「あんな別れって」


「何かコントかと思った」


「男と女が別れるのって態変な事なのよ」


「そう?ドラマだからじゃない?」


「アンタは本当の恋愛経験ないから判らないのよ〜!」


ドラマの熱狂ファンには何を言ったって通じない。


ケンカになる前に自分から夕食の時間まで部屋に退散した。



お風呂に入って学校の準備も終えた午後10時。


YUIちゃんに電話で相葉さんと別れた事を報告した。


「会ったのか?」


「電話で」


「かっかって来たのか?」


電話がかかってきて、ただ一言。


別れると言って終ったという嘘をYUIちゃんは信じた。


でも結果的には本当にもう会わないし、電話もしない。


あんな最悪な男に未練もない。


今私の心の中にあるのはYUIちゃん。ただ1人だけ。


「何て言ってた?」


「気になる?」


「何て言ってたかだけ言え」


「言わない」


「言わなきゃ本音が判らないだろ!?」


ちょっと怒ってる感じの声に思われてる気が増して。


「番号も変えるなら、まあ心配はないかな」


ほっとしてる声に愛情の深さを感じて。


「俺の携帯?」


「同じ会社同士なら」


「って言うか一緒だぜ?」


「え?」


「メルアド見れば判るだろ」


「忘れてた」


「本当か?」


「本当だよ!」


「今始めて知ったんじゃねえの?本当にヌケテルよな」


笑い声にさえも、私は幸せな女の子にしてもらってた。


「優奈の事?さあどうでしょうね」


「好きか嫌いかどっち!」


「ご想像にお任せします」


「じゃあ嫌いなんだ」


「反対の方かな」


「言ってくれないと判りません」


「マジでムカツク女だな!」


私の言葉に本気で真剣に答えたり、悩んだり笑ったり・・・。


今まで隠してた相葉さんの事を謝りたくなった。


でも、言わない方がイイ事。


知らない方が良い事だけど、思ってたら口から出てしまった。


「ゴメンネって何?」


「ただ・・・ちょっとね」


「ゴメンってまさか!あれか!?」


「あれって?」


「女にとって大切なイベントってまさか、アレを忘れる訳はないか!じゃあ、何だ?」


「何?その女にとって大切なイベントって」


「あのさ。本気って言うか、マジで言ってるんですか?」


YUIちゃんに言われて気が付いた年に一度の大切な日。


【2月14日】


バレンタインデー。


口から出たゴメンネの事なんて、頭の中からぶっ飛び慌てふためいた。


「本当は忘れてたんだろ」


「本当に忘れてないってば!」


「まあ、いらないけど」


「いらないの?」


「送ってきたら送り返すね」


「酷い!」


「俺は酷い男なのだ」


「もうイイ!」


「冗談に決ってるだろ?本気で怒るなって」


気が付けば約1時間。


今まで電話をした中で1番長く喋ってた。


「そろそろバイトの時間だからさ」


「バイト?」


「あ〜そういう話はした事なかったな」


「何で私知らないんだろう・・・」


「まあ今日は時間ねえから今度教えてやる。じゃあな」


YUIちゃんの仕事の内容は私の頭では理解しがたい事なのか


次回のかける時間を約束をして電話を切った。


【全部で9つ】


私がYUIちゃんの事で知ってる事を数えてみた。


名前と趣味とか最初は色々と聞いたけれど


突然の別れで全部忘れなくちゃいけなくなって。


ヨリを戻した事で絆が深くなった気がして


ただそれだけで何もかも知ってる気になってた。


でも、実際には9つだけしか知らない。


相葉さんとの関係が終わり私の心に隙間が出来たせいなのか。


YUIちゃんの事を1番知ってる女になりたい。


YUIちゃんの事なら何でも1番でいたい!


今まで自分で感じた事がないほどの欲求にかられた2月第2週の日曜日。


相葉さんの携帯番号もアドレスも消去して


本当にYUIちゃんだけの女になったという私の中で記念日になった。

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