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disappear  作者: 黒土 計
40/71

chapter2 写真の中の彼女

2月だというのに。


昼前の車窓から差し込む日差しに暑さまで感じる。


日曜日の車内は平日の通勤通学らしき人もほとんど見当たらず。


同じ車内に私を入れて8人だけ。


誰もが私の存在など気に留める事もなく陽だまりの車内に揺られてた。



女心は秋の空と言うけれど


男心も変わらない気がする。


囚われていた事から


気持ちが解放されたからかもしれないけれど


あんなに彼女の事はどうでも良いと言ってたのに・・・。


今まで電話がかかって来た時は、起こさないよう別の部屋に行く事はあっても


先に起きたからといって私を1人ベッドに残したりしなかったのに。


「お早う」


目覚めた時にはリビングでテレビを見ていた。


「コーヒーでも飲む?」


用意してくれたコーヒーをテーブルに置き、私に距離を置いて座りなおす。


結婚を決意した事がきっかけで、相葉さんの心が私から離れた気がした。


「髪の毛切らないといけないし」


「どういう風に?」


「いつもの所でお任せかな」


「来週の為に?」


「だから今日は」


その続きを濁す自体が相葉さんらしくない。


私の知ってる相葉さんなら


「帰ってくれる?」


きっとはっきり言える男。


「何処か行きたかった?」


最初から予定はない。


別に何処に行く予定で泊まってる訳でもない。


今日は帰れと言うのが雰囲気で判る。


でも帰りたくない。


まだ午前9時前。


ベッドに戻れば、いつものように相葉さんがじゃれてくれるかも知れない。


そう期待してたのに。


「じゃあ、後で電話する」


一言だけ残して相葉さんが出て行った。


玄関の扉が閉まる音が


私をさらに惨めな気分にする。


きっとメンドクサイ女だと思われた。



私一体何やってるんだろう・・・


昨日まで優位だと思ってた関係が一気に崩れだしてる。


あのまま笑顔で帰ると了承すれば


今頃車で駅まで送ってくれたかもしれない。


最初から彼女になれない関係って判っていたけれど


彼女に対しての相葉さんの態度に淋しい何て思わなかったのに。


【すごく淋しい】


まだ10分しか経っていないのにすごく長く感じる。


【もしも】


彼女が普通の人だったら、何か頑張れる気がして・・・


クローゼットの扉を開けて彼女の写真を探した。


後で相葉さんに気付かれないようにバッグの中、引き出しの中を探して


棚の上に無造作に置かれた数枚の写真を見つけた。


「やっぱりキレイじゃん」


どこかで食事をしながら相葉さんと2ショットで写ってる笑顔の女性。


理由はないけれどこのひとが相葉さんの彼女だって女の感は確信した。


私にはない品を持ち、オデコを出した大人の雰囲気がする美人。


【私には勝てない】


このひとには勝てない。


そう思った。


微笑む彼女の隣には私が好きだった頃の雰囲気がする相葉さん。


嬉しそうでもなくしょうがなく撮られた感が、また私をさらに淋しくした。


【私のバカ!】


結婚に背中を押したのは間違いなく私。


相葉さんの心の束縛から解放しようとしたのは、本当に怖いと思ったから。


何をされるのか不安だったから。


でも、それから逃れようとしなければ、きっと昨日までの相葉さんだったのに。


あまりにも急な変化に泊まりに来た事を後悔した。




相葉さんが出かけてからまだ30分。


床屋さんには行かないだろうし


あと30分は確実に帰ってこない。


このままココにいれば相葉さんが帰ってくる。


でも、きっと抱いてはくれない。


少しでも私が淋しいって判ってくれる気がして


怒ってる?って気にしてくれる気がして


ただの欲求不満のメスと思われたくなくて。


玄関はオートロック式。


鍵の心配はない。


その事が逆に余計に淋しい。


「帰ろうと思ったけど」


鍵を開けっ放しじゃ帰れない。


そんな理由をくれなかったドアを開け


何度も車で通った道路を徒歩で駅まで向かい電車に乗った。


こんなに淋しいのに。


誰も気付いてくれない。


あそこに座ってるおばあちゃんが話しかけてくれたら


そこにいるサラリーマンが小脇に抱えてる新聞を落したら


何でも良いからきっかけをくれたら、誰にでも人見知りせずに話せるのに。


本当に淋しい。


そう思った。



乗り換えの駅に着いて電車を待つ、たかが3分程度の時間さえ長く感じる。


相葉さんが出かけてから確実に1時間は過ぎてる。


部屋に帰ってきただろうか。


私がいない事にホットしてるのだろうか。


携帯が鳴らないのは電車に乗っていたせい?


そんな期待も


「伝言はお預かりしていません」


アナウンスの声が虚しくさせる。


【もしかしたら】


このまま自然消滅するのかな。


きっと相葉さんは狙ってる。


そう思ったら無性に悔しくなった。


【彼女がいる男】


そんな事は判ってた。


【彼女にはなれない男】


それでも良いと思った。


この関係を望んだのは相葉さんじゃなくって私。


YUIちゃんにフラレテ、淋しい自分を慰める為に選んだ男。


YUIちゃんと復縁する時に別れが惜しくなって続いてるだけ。


私が相葉さんを惜しくなったのは車と金とSEX。


YUIちゃんと復縁した時に、誰にも知られなければ永遠に続く私にとって


【都合が良い男】


そして相葉さんにとっても


【都合が良い女】


そして、その関係を続けるのも終るのも私が選べる事だって、そう思ってた。


でも、それは心の呪縛から解放されないでいる事が前提。


結婚を決意した今の相葉さんには、きっと私の存在が邪魔になった。


そんな想像まで頭をよぎる。


2号と呼ばれる仁美さんより


彼女と言う名だけだと思っていた真奈美さんより


私の方が相葉さんに愛され大切にされてる気がした時間に戻りたい。


車窓から遠くに見える相葉さんの実家の工場の看板が尚更私の気持ちを悲しくさせた。

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