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disappear  作者: 黒土 計
38/71

chapter2 最後の金曜日

同じ通りの中でも一際華やかなビルの8階。


「いらしゃいませ!」


初めてキャバクラという空間に足を踏み入れた。


薄暗い店内。


豪華な花の装飾に良い香り。


働く女性達の視線に目のやり場に困るけど


この空間の中で私の位置は、きっと中の上あたり。


美人ではないけど可愛い系。


手を振って来た男性客に自ずと笑顔で手を振り返した私を見て相葉さんも微笑んだ。


「指名入ってるから先に行ってくるわ」


「何本?」


白いロングドレスに着替えを終えた仁美さんが席の前に立った。


「6本」


その数が何を意味して


凄いのか何かも判らないけど


広い店内で殆んどのテーブルに仁美さんが一声かけて回っていた。


「ご紹介します」


ボーイさんの後ろには私と差ほど年の変わらなそうな1人の女の子。


「今取り込んでるから、ヘルプは要らないから」


彼女の顔を見る事すらなく、そう相葉さんが断った。


「今の?」


「誰なんですか?」


「知らない。新人さんじゃない?」


このテーブルの指名は仁美さん。


仁美さんが他の指名テーブルを回っている間


ヘルプと言う仁美さんの変わりにお酒を作ったりお話をしてくれる人が付くらしい。


「仁美が言ってた交換条件がココ」


「ココ?」


「同伴料も入るし指名客が来れば仁美の給料も上がる」


「それはイイ事なんですか?」


「同じ時間働いて給料が倍以上違うなら良い事だろ」


キャバクラで働く女性にとって有益なシステムの説明は途中で中断し


ヘルプの女の子を断った理由。


「仁美の話は理解できた?俺って最低な男でしょ」


そう話し始めた相葉さんが


私が気付かなかった仁美さんの気持ちを追伸し始めた。



仁美さんが私に告白したのは、自分の相葉さんへの思いに踏ん切りをつける為。


「内心何処かで優奈と会いたくないって思ってたんじゃないかな」


新しく他の女が出来る事を歓迎する女はいない。


まして自分より若い女なら尚更。


でも会えば自分がどういう行動をすれば良いのか


新しい女と自分の役割が判る。


「1年前だったら俺も会わせなかったかな」


仁美さんも相葉さんとSEXをした後


私が淋しいって感じたと同じように仁美さんも何かを感じたのかもしれない。


「食器とか家具とか買って来てさ」


初めてSEXをした次の日から


仁美さんは相葉さんの家に色々な物を置こうとした。


「ヒステリーって言うか喧嘩っ早くてね」


自分の存在と居場所。


彼女以上の立場を相葉さんの心のどこかに求めていたのかもしれない。


「全部捨ててやったけどね」


「どうして?」


「彼女が来た時に面倒だろ」


「彼女が1番大切?」


「大切っていうか仁美に最初から恋愛は望んでないしね」


「仁美さんじゃダメなの?」


「俺子供って嫌いなんだよね」


その言葉に、仁美さんが言ってた事を思い出した。


きっと淋しかったと思う。


自分の立場を理解させられるのに


私以上にキツイ言葉を聞いたのかもしれない。


「色々とあって今の関係になれたって所かな」


「いつも会わせるの?」


「会わせる?」


「新しい女が出来ると」


「いや。それはない。仁美の後に、付き合ってる女って優奈までいなかったしね」


「そうなの?」


「仁美と付き合って、面倒って言うか女は懲り懲りって思ってさ」


「魚の方が良い?」


「そうだね。恋愛を望んでこないしね」


「魚と仁美さんなら、どっちの方が好き?」


「そりゃ仁美だよ。優奈の事も同じぐらい好きだよ」


その言葉に私も幸せになれないって言われてる気がした。


相葉さんの言葉は何処か端節には一線を越えるなと聞こえる。


だから確認せずにはいられない。


仁美さんと私は幸せにはなれなくって


「彼女?」


「彼女は幸せになれるの?」


「俺といたらなれないね」


「でも特別なんでしょ」


「彼女が自分で離れて行くのを待ってる所かな」


「離れてく?」


「見切りをつけて去ってくのをね」


「どうして?」


「俺と一緒になったら不幸になるから」


「例えば?」


「例えば?」


どんな不幸が待ってるのか。


気が付いたらお店の中は沢山のお客で埋め尽くされ


隣のテーブルに座った相葉さんの顔なじみの客の挨拶に話は終った。



「どこのお店の子?」


「いや。僕の大切な子でね」


「初めて来ました」


「キャバクラ?」


「はい」


「そりゃ女の子がお客で来たって意味ないからね」


馴染みの男性の笑いが伝線し、相葉さんの笑みに思わず私も微笑んだ。


「広い?もっと大きな店もあるよ?」


「何か想像と違うから安心した」


「どんな想像してたの?」


「何かおじさんばかりで、お客さんに触られたり」


「おっぱい揉まれたり?」


「何?俺は、そういう所に行ってると思われてた訳?」


そう笑いながら手を高々と上げた相葉さんに


「シ・ホ」


と、口パクを言い返したボーイが1人の女性を連れてきた。


「場内でイイですか?」


「いや?指名でイイよ」


「ご指名ありがとうございます!志保さんです」


彼女の名前は志保さん。


「相葉ちゃん久しぶりブリ〜!」


仁美さんとは違って水商売の人って美人じゃなくてもなれるの?


そんな素朴な疑問を第一印象で感じた。


「おいくつなの?」


答えに困った私に代わって


「17歳の現役の女子高生だよ」


と正直に答えた相葉さんに


「他の人に言っちゃダメヨ。18歳未満は出入り禁止なんだから」


志保さんが人差し指を立てた。


「お2人はどういう関係なの?」


「男と女の関係だね」


「やっだ〜!重なってるのを想像しちゃうじゃないっ!オ〜ホホホホホ」


高らかな笑いと共に、何処から出たのか扇子で口元を隠す


その素振りが面白くて笑ってしまったからか、いつの間にか私も自然に話の輪に入ってた。


「志保さんがここで働く前から知り合いでさ」


「もう5年?6年かしら。合コンでね」


「合コン?」


「今みたいにイイ男じゃなくってね」


「どんな風だったんですか?」


「イヤ〜な男でさ!」


志保さんの言葉に瞬時に手を上げて


「チェンジ!」


と言う相葉さんの元へボーイがやって来た。


「チェンジですか?」


「チェンジ」


「相葉ちゃん怒ったの?」


「怒ってないけど」


一瞬躊躇った顔が緩んでいくのを隠すかのように手で覆って口にした本心。


「次は何言われるかって思ったら、ドキドキして泣きたくなるよ」


「あら〜可愛い事言うじゃないの」


志保さんとボーイ


常連さんの笑いの渦に本気で困った顔をする相葉さん。


初めて見た表情に、また別れたくないと募らせる愛しさまで感じた。


「相葉ちゃんの武勇伝しか」


「嫌われるような話はよして下さいよ」


こうはイジメられるの好きだからイイのよ」


戻ってきた2ひとみさんがいる同じ空間の中


自分で思いを断ち切らなければイケナカッタ


仁美さんの事を何処かで恵まれない女だって思ってた。


仁美さんの前でも躊躇うことなく


さりげなく腰に手を回して寄り添ってくれる相葉さんと過す時間に


私の方が格が上な気がして優越感まで感じた。


見た目は美しいけど、自分が望んだ愛に拒まれた女。


しょうがなく今の男に落ち着こうとしている残念な女。


お金で離れられないのではなく、何処かで少し期待している惨めな女。


こうがデレデレしてるの初めて見たわ」


タクシーの中では気付かなかった


相葉さんへの未練が見え隠れする仁美さん。


「優奈ちゃんこうってね」


私の方が知ってると言いたげな端節に


まだ完全に断ち切れて居ない事が私にも判る。


その余裕のなさが、彼女より仁美さんより相葉さんの気持ちを独占する


【私は幸せな女】尚更そう思わせた。


相葉さんの部屋で行為をした分だけ。


お互いの気持ちをさらけ出し多分だけ。


仁美さんよりも深い関係になれる。


今までの中で1番激しい行為を終えた時


自分からサヨナラしなければ永遠に終らないと勘違いしてた


相葉さんと過した最後の金曜日が終った。

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