chapter2 2号さんの関係
午後6時相葉さんと待ち合わせたデパートの入り口。
「ママ〜」
「ママ?」
1人の男の子に手を握られた。
「どうしたの?」
「ママがね」
「いなくなっちゃったの?」
「いるよ?あそこに」
指を指す方向に誰かが隠れた。
「ママ〜!」
「やっぱりダメか〜」
「仁美さん!?」
「憶えててくれたんだ」
【私は2号よ】
そう自分の事を自己紹介した仁美さんが現れてビックリした。
「公もアソコにいるよ」
会社からの電話に少し離れた場所から相葉さんもコッチに手を振り替えした。
「こんばんわは?恥ずかしいの?」
「仁美さんのお子さんですか?」
「そうよ。永遠って言うの」
「え!?本当ですか?」
「本当だよ?」
子供を生むと体のラインが崩れるというのは迷信なのか。
「あ〜。でもおなか周りは皮がブヨブヨだよ?」
この細いウエストでブヨブヨなら、私のウエストは土偶のよう。
仁美さんとも相葉さんは、そういう行為をする関係のはず。
この女と並んでいたら余計に太いと察してしまう。
「取り合えずご飯でも食べに行こうか。どうした?」
相葉さんが見比べないよう少し後ろを着いて歩いた。
「驚いたでしょ。ゴメンネ!」
「俺が来てもらったんだよ」
仁美さんが永遠君にご飯を食べさせながら言った言葉に相葉さんが付け加えた。
仁美さんが呼び出された理由は
「初めまして。仁美といいます」
私のお母さんに電話をかけさせる為。
「とわです!3しゃいです!」
仁美さんの職業は隠して
永遠君のお守りをしに私が仁美さんの家に行くという偽装工作。
「お母様にもお会いした事がないのに」
仁美さんの話し方は、相手には見えないけれど
携帯を軽く指で支え、言葉使いに礼儀。品も良くって
「しっかり面倒みてあげるのよ!」
お母さんもすっかり信用して上御機嫌で電話が切れた。
「ありがとうな」
「すいません」
「イイのよ!ちゃんと交換条件出してるしね」
「交換条件?」
食事をした後に車が向かった先は繁華街から15分ぐらい離れた所にある雑居ビル。
「お待たせ!じゃ行こうか」
「永遠君は?」
「永遠?保育所に預けてきたから」
仁美さんがお店で働いている間
永遠君は24時間営業の保育所という場所に預けられる。
「この辺で働いてる子持ちはみんなココを使ってるからさ」
お店で子供はいないと嘘を付いたって逆に女の子達に付込まれるだけ。
「私の事だけじゃなくって
永遠の事もひっくるめて好きになってくれる人にも会えるしね」
相葉さんのマンションの駐車場に車を止め
「仁美です。
同伴出勤しますのでお願いします。2名様です」
タクシーで仁美さんのお店へと向かった。
【この状況で】
何で仁美さんは平然としていられるのだろうか。
相葉さんには彼女がいて
仁美さんは2号さんで。
私は妹という偽の関係。
きっと17歳の私と相葉さんが肉体関係になってるのも判ってるはず。
他の女が安心して泊まりに来れる為に
電話をかけさせられて女なら誰だって平気な訳がない。
仁美さんは一体何を考えているのか読めない。
「優奈ちゃん」
「あっはい!」
「17歳だっけ?」
「はい」
「学校楽しい?」
相葉さん・私・仁美さんの順で座った座席。
「優しくしてもらってる?」
私なら相葉さんの隣に仁美さんが座ってたら話せない。
何か気分的にイヤ。
自分が好意を持ってる
そういう行為をした相手の隣に、同じ行為をしてる女がいたらイヤ。
「説明書みたいな事言ってない?」
「次は冷たい時ないかって言いたいんだろ」
お互いを理解し合ってる間に挟まれて、すごく気分が悪い。
何か判らないけど泣きたい。
胸に熱い物が込上げたのを知ってか知らずか。
「知ってて欲しい事があるの。ちゃんと聞いてね」
仁美さんが何を話そうとしてるのか判らないけれど
きっと私にとって嬉しくない事。
そう覚悟した私の思いとは正反対に、仁美さんの口から出たのは予想外な言葉だった。
「私達。2年前に、終ってるから」
「終ってる?」
「そう。恋人とか、そういう関係じゃないの」
終ってると言われても、何が終ってるのか理解できない。
「2号って言っても、昔の話よ」
「今は、金づるって所だな」
「ちょっと、難しいかもしれないけれど」
そう前置きした仁美さんの話。
キャバクラという世界は指名という物で給料が変わるらしい。
お店に来て欲しい時と欲しい物がある時だけ。
「こうやって、公に来て貰ったり」
「俺も会いたい時に呼び出す。」
「でも、体の関係はないの」
「最初の方だけだったよな」
「私も彼氏っていうかね」
お店で知り合ったお客さんと再婚を考えてた。
「公も会った事あるよ」
携帯で見せてくれた画像には永遠君と仁美さん。
決してカッコイイとは思えない男性の3人で写っている。
【でも信用できない】
この男性と相葉さんとなら
誰が見たって相葉さんの方がカッコイイし仁美さんとお似合い。
聞きたくなった。
仁美さんが相葉さんの事をどう思っているのか。
それに対して相葉さんは何も言わなかった。
「女としては、公の事好きだよ」
きっと仁美さんは、彼女の存在があるから身を引こうと思った。
でもそれは、人生経験が不足している
自分の事だけしか考えなくてもイイ私の偏見。
「そう。お金もあるしイイ男だと思うけど」
「けど?」
「公は永遠の父親にはなれないの」
「永遠君の?」
「永遠の事を捨てなきゃ公とは付き合えない」
「捨てる?」
「今みたいな付き合いなら出来るけど」
「けど」
「私が望む物は」
仁美さんと永遠君。
仁美さんだけを愛してくれる男は沢山いる。
「でもね。永遠の事も同じように愛してくれる人がイイの」
自分の子供ではなく別の男と仁美さんの間に生まれた子供。
永遠君の事までも愛してくれる人。
「この人に永遠がスッゴク懐いていてね」
一緒にお風呂に入ったり食事をしたり
公園で一緒に泥まみれで遊んでくれたり肩車をしてくれたり。
「永遠が声上げて笑うの」
布団に永遠君と男性が同じポーズで寝ている画像。
男性の頬に永遠君がキスをする画像。
「この人と居ると永遠を生んで良かったって思えるの」
何枚も画像を見せてくれる仁美さんの緩んだ顔は本物。
優しい母の顔であり幸せな女の顔。
「海が見える教会で結婚式したいって言ってたよ」
「結婚式?」
「そんな事言ってた?まだ予定もないのに」
「会った事あるんですか?」
「結構会ってるよ。食事したり釣りに行った事もあるし良いヤツだよな」
「私の彼ね。海が好きなのよ」
「早く店辞めて結婚してやれよ」
「今はまだ辞められないって。
給料悪いしボーナスは無いし。私が稼ぐだけ稼がないと一家心中になるわ」
小さくても良いから一軒家を購入し、子供は合わせて最低3人。
その目標の為に仁美さんは仕事を続けてる。
私にはまだ何か良く判らないけれど
「聞いて良かっただろ」
「良かった」
「ダメヨ!優奈ちゃん。公は調子に乗るから!」
私の女としてのプライドとか色々な物が緊張から解放された事よりも
相葉さんと仁美さん。
2人のような関係になりたいと思った。
お互いの事を応援し合い
新しいパートナーとも良好な関係でいられる別れもある事を知った夜。
(仁美さんの彼氏と、相葉さんみたいになってくれたらな)
親友を失くした心の隙間は
YUIちゃんにも相葉さんの存在を認めてくれるような関係を望んでた。