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disappear  作者: 黒土 計
35/71

chapter2 キスマーク

「え〜マジで!?良かったね!」


YUIちゃんと縁りを戻した事を夏美に一部始終報告した。


何もかも話せる大切な親友だから1番最初に電話したと言ったら


スゴク喜んでくれて私も嬉しくなったけど


「じゃあ相葉さんはどうするの?」


という質問に対して


「まあ丁度良かったんじゃない?ちょっと勿体無いけど」


もう別れたと嘘をついた。


本当はまだ何も言っていない。


でもYUIちゃんと縁りを戻した事を言ったとしても


「優奈がイイなら良いんじゃない?」


相葉さんから予想していた通りの言葉が返ってきた。



「まあ取り合えず会おうか」


お弁当の時間にかかってきた電話に


「ロリコンの気持ちも判らんでもないね」


約束をした学校の近くまで車で迎に来た相葉さんが笑った。


「今日は彼女と会うんじゃなかったの?」


「制服姿の女の子の方が良いね」


「オジさんみたいだよ」


「28でオジサンか」


彼女には緊急で仕事が入ったと電話で断ってた。


「で、優奈はどうしたいの?俺は今までどおりに付き合えるけど」


YUIちゃんには絶対にバレナイ。


夏美達にさえ言わなければ今までどおり相葉さんとも付き合える。


心でイケナイと判っていても体が相葉さんと別れる事を拒否してる。


「返事がないって事は考え中?じゃあ、もう聞かない」


YUIちゃんと私は縁りを戻した。


だから相葉さんは終わりにしようと言ってると勘違いした。


「夏美ちゃん達にも秘密にしないとね」


「何を?」


「俺達が内緒で続いてる事」


「言ったよ」


「何を?」


「別れたって嘘付いた」


「上出来だ」


「まだ別れてないけど」


「別れたいの?」


その先の言葉が出て来ない。


YUIちゃんの為にも私の人として言わなきゃいけない言葉が出ない。


「そう思った時で良いんじゃない?取り合えず何か食べようか。

今日は忙しくて、まだ何にも食べてないんだよね」


車が止まったのはファミレス。


「こういう所にも来るんですね」


「来るよ。牛問屋にも行くし」


「何か以外」


「あ〜イイ所ばっかり連れてったもんね」


「親近感が出る」


「たまには別の顔も見せないとね」


今の相葉さんは私の知らない顔の相葉さん。


きっと仕事中こんな顔をしてるのかな。


注文を言う口調も商談してるみたい。


「仕事中だからかな」


「本当に仕事だったの?」


「7時過ぎに行かないとイケナイ所があってね」


相葉さんの仕事って何をするのか初めて知った。


「病院回るからさ。結構病気もらう事もあって」


子供がいる家庭の営業だと病気の菌をもらって家に帰る時もあるらしく


自分の子供が頻繁に流行病にかかるらしい。


「インフルエンザA型ってなった事ある?」


「ない」


「すっごい!強烈なんだよ」


例えば隣に感染者が座って咳をする。


ただそれだけで数時間後には発症するらしい。


「下手したら会って数分で悪寒が走ってさ」


手振り身振りでインフルエンザA型について熱く語る相葉さん。


こんな顔見た事なかった。


また1つ相葉さんの事を知って別れないとイケナイ事が辛くなる。


「あ!追加してもイイですか?」


「まだ食べるの?」


「デザートが欲しいね」


メニューを見て迷わず注文したのはコーヒーゼリーパフェと抹茶あづきパフェ。


「俺さ。いつも迷ったら両方頼むんだよね」


「迷ってたの?」


「一瞬ね。で両方とも食べる。」


相葉流の注文と食べ方を知った所で携帯が鳴った。


相手は会社の人。


聞かなくたって相葉さんの顔を見れば判る。


食事をする時もベッドの上でも見た事のない顔と口調。


頬杖を付き口元に人差し指を置く仕草に体が萌え始める。


その指になりたい。


「お待たせしました。あずきパフェの」


「あ〜。2つとも適当に置いて置いて」


2人で食べるのを店員にジェスチャーで答えたその指に触れたい。


「お待たせ。食べようか」


相葉さんの体を欲しくなってる事に気づいているのか。イナイのか。


真ん中に置かれた2つのパフェを私にも食べる事を勧めた。


「本当はさ。あ〜んとかしてあげたいけど」


スプーンにアイスを乗せて相葉さんが微笑む。


「優奈の家の近く出し。誰が見てるか判らないしね」


「じゃあ、もっと遠くのファミレスが良かった」


「そうしたら門限に間に合わないでしょ」


「憶えてたの?」


「門限は6時。

1分でも過ぎたらお母さんが仁王立ち。

タイムリミットは5時59分って所だね」


「私言ったっけ?」


「門限6時だって昨日言ってたよ」


「ううん。仁王立ち。」


「最初に会った時にね。夏美ちゃんと言ってたよ」


「じゃあ、お刺身は?」


「お刺身?」


女将さんの所で美味しいお刺身を食べさせたい方がいると相葉さんが予約したと大将も言ってた。


でも相葉さんに私がお刺身を好きだって言った記憶が全くない。


「聞いてないけど。最初に会った時に美味しそうな顔して食べてたから」


「それだけで?」


「もう1つ言うと優奈は好きな物を1番最初に食べる方だろ」


「当り!何で判るの?」


「何で判るって・・・感かな」


「感が良い男ってイイね!」


「良くない時もあるかな」


「良くない時?」


「判らない方がイイ事も判るからさ」


「霊感も強いの?」


「そっちは全くだね。でも見えたら良いのになってね」


相葉さんの顔に一瞬影が落ちた。


時々見せる影。


聞いてはイケナイ事だって馬鹿な私でも判る。



「そろそろ時間かな」


「まだ5時前だよ?」


「いい所があるんだな」


ファミレスを出て相葉さんの車が向かったのは工場の敷地。


「ここなら誰も来ない」


相葉さんの実家が経営する会社の車がたくさん駐車してある場所の奥にある倉庫の脇。


「優奈が言わなきゃバレナイよ」


相葉さんの声と匂い。


体温に体が反応して早く欲しいと言っていた。


この快感とは離れられない。


そう心も思ってる。


YUIちゃんにイケナイ事をしてるって判ってるのに


拒否する事無く求めるままに相葉さんを受け入れた。


「金曜日から泊りに来れるよね」


夏美の家という偽装工作はもう使えない。


「言ってごらん。上手く行くから」


相葉さんの提案は仁美さんの家に行くと言う事。


同じ高校のクラスメートの家に行くから親は礼儀として電話をかけるだけ。


「ダメだったら?大丈夫だよ」


「YUIちゃんには何て言えばいいの?」


「金曜日?同じように言えばいい」


「上手く言えるかな・・・」


「言える様におまじないだ」


そう言って相葉さんが胸元にキツク吸い付いた。


「お母さんには気をつけてね」


「何をしたの?」


「キスマーク」


初めて私の体に付けられたキスマーク。


クラスの子が自慢して見せてくれた事はあったけど自分では1度もない。


「俺が初めての相手か。ちょっと嬉しいな」


首元は親にバレルから隠れるように付けられた胸元のキスマーク。


おまじないとは思えない。


お風呂上りの鏡に映る自分の体に


【俺の事忘れるな】と言われてるみたい。


相葉さんの事が頭の中から消えない。




「相葉ってあの大きな会社?」


「そう。仁美さんの彼氏の家なんだって」


「へえ〜。玉の輿ってヤツじゃない!」


相葉さんの予想通りお母さんは


金曜日から仁美さんの家に泊まるという偽装工作に電話をかけるとは言わなかった。


「でもね大変だったのよ?」


相葉さんに13年前何があったのか。


お母さんなら知ってる気がした。


「息子が何人いるとかって知らないけど昔ね」


【嬉しくない事で有名】


相葉さんの言葉の意味が判った。


13年前中学生だった相葉さんはバイクで事故を起した。


検問を無理やり突破し、後ろに乗っていた別の学校の男子生徒が死亡した。


「大きな会社だし家にいられたら迷惑だったんじゃない?」


事故後、身を隠す為かアメリカか何処かに留学したらしい。


「じゃあ、その人は生きてるんだ」


「生きてるんだって何?」


「その前にも何人かあってね」


同じ隣の学区でバイクでの死亡事故が1人。


次の年に1人。


また次の年に1人増え


「みんな仲間だったみたいだけど全員死んだかと思ってたわ」


相葉さんの事故後も何かの呪いの様に1人づつ死亡していた。


「ほら。アンタ憶えてる?」


同じ幼稚園に通っていた女の子の腹違いのお兄ちゃん。


私が8歳の時に彼女の家からバイクで帰る際にタクシーとぶつかって死亡。


「あの子もその仲間だったのよ」


今でも憶えてる。


彼女がオバサンの隣で参列の人に頭を下げまくって泣いてたのを。


ケンカになって怒って帰って行った際に起きた事故。


「私が悪いんです」


そう何度も泣き崩れた彼女の姿。


「今起きるから!!持ってくな!」


お父さんらしき人が、棺を持ち上げた人達に撲りかかって


大人の人達に押さえ付けられながらも何度も名前を絶叫してたあの声。


「昔は次は相葉の子だって噂でね」


何人仲間がいるのか判らないけど、相葉さんも呪われた仲間の1人。


「最後の1人が生きてたのね」


「違う。」


「違うって何が」


相葉さんに何か不吉な事が起こる気がして。


そんな事にならないで欲しくて。


「親戚なら玉の輿も関係ないんじゃない?」


その呪いが相葉さんの存在に気が付かないよう本人ではなく親戚と言う事にした。


そうすれば気づかない気がした。


1人でも多くの人が同じ願いをかければ、神に通じると言われるように。


1人でも多く相葉さんが生き残っている事を知ったら


その呪いから逃れられない気がした時、携帯が鳴った。



(そう言えば着信音まだ変えてなかったな)


煩く鳴り響かせた主は夏美。


「もしもし優奈?」


「どうしたの?」


「どうしたのってヤナ感じだな」


「ゴメン。ボーとしてた」


「ねえ!今日はもうYUIちゃんからかかってきた?」


「まだだけど?」


「ねえ浅見君さ。私の事なんか言ってなかった?」


「浅見君?」


「浅見君とも喋ったんでしょ?何にも言ってなかった?」


「何かしたの?」


「ううん。別にしてないけど、私の事何か言ってないかな〜と思って」


「夏美の事?」


「私さ。本気で浅見君の事好きなの!」


「知ってるよ」


「だからお願い!」


「何?」


「私と浅見君の仲を取り持ってくれない?」


「え?」


「ほら親友でしょ!?」


「親友だけど」


「私が浅見君にだけは本気でさ」


夏美の良い所を私からYUIちゃんへ。


YUIちゃんから浅見君へ。


「REIさんも智子の事もっと知ったら好きになってくれると思うんだよね」


「REIさんは喋ってないよ?」


「だからYUIちゃんに言ってよ。伝わるでしょ」


何処まで想像しているのか


「学校もちゃんと行って普通の女の子になって」


夏美は1人で浅見君と付き合う事が決ったらプランが出来上がってる。


「あ!キャッチ?

YUIちゃんじゃない!?頼むよ?じゃーね!」


嵐のように去って行った夏美の予想通り


「もしもし優奈?」


キャッチの主はYUIちゃん。


「どうした?寝てた?」


「ううん?起きてたよ?」


「何か元気ねえじゃん」


「今、夏美と電話してたんだけどね?」


ただ話し疲れただけ。


「アイツは家でも、あんなテンション高いのか?」


そう付いた嘘にYUIちゃんが笑った。


でも、本当はキスマークを鏡に映して


相葉さんの事を考えてたら不安で元気がないだけ。


YUIちゃんにバレナイからと


今日も相葉さんに会ってそういう行為をした罪悪感までプラスした。


そして、そこにYUIちゃんから出た話題。


「彼女がいる男って何ていう名前?」


「何で?」


「いや。連絡来たかなって」


YUIちゃんが心配している。


何かを感じるのかもしれない。


本当は今日も会って、そういう行為をしてたって。


声で判ってしまうのかもしれない。


想定外に追求が続く。


「別れたらって連絡来たのか?」


「来てないよ」


「来たら言うって事か?」


「きっと彼女がいるし来ないと思う。」


「信じねえと切がねえからさ」


YUIちゃんは連絡も来てないという嘘を信じた。


また加算していく罪悪感。


「じゃあ俺からはもう聞かないからな」


私からは連絡しない。連絡が来たら


【別れる】と一言


ただそれだけ。


「この事はコレでお終い!」


YUIちゃんの約束と言う言葉に返事が出来なかった。


今日の他愛のない出来事を話し


「浅見が昔コンビニのバイトしてたな」


浅見君の名前を聞いて夏美の願いを思い出した。


「夏美が?無理だな」


上手く行かないかもしれないけど伝える事だけは伝えなきゃイケナイ。


「REIも笑えねえと思うぜ?」


親友として。


友達として。


「良い所って教えられても無理だろ」


でも、それに対して出たYUIちゃんの言葉は残酷で


「REIも浅見も迷惑だって言ってるからな」


親友として遠まわしに無理だと悟らせる事ではなく


「そんな事よりあいつ等にさ」


言わなきゃ済む事じゃなく


夏美達も知らなければ傷付かずに済む事ではなく。


絶対に夏美達に言わなければならない事実。


「早い方が良いと思うぜ」


YUIちゃんと相葉さんへの不安以外にも


私の中で悩みが生まれてたせいか。


押さえても押さえても、歯がボロボロとこぼれ落ちる嫌な夢を見た。

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