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disappear  作者: 黒土 計
34/71

chapter1 YUIちゃんからの電話

かけ直すべきか・・・


かけ直さないべきか悩んでいる暇もなくまた着信した。


「何やってんだよ!また幽体離脱でもしてるのか!?」


「え・・・篤さん?」


「そうだよ。誰だと思って喋ってたんだよ」


「誰って名前言われてないし」


「そうだっけ?」


「そうです」


「声で判れよ!まあそんな事は良いから」


「何でスカ?」


「何が」


電話かけてきた理由によってはかけ直さない。


かけ直したくない。


もうあの日の事で傷つきたくなんかない。


「怒りはしねえよ。早くかけて来いよ判ったな!」


ちょっと待っての声も待たずに電話が切れた。


何を言われるのか判らないけど


また遅いって怒られる。


あの日の事か智子の事。


もしあの日の事だとしたら本当の真実がYUIちゃんに伝わるかもしれない。


私がどんなに傷ついたかYUIちゃんに伝わるかもしれない。


意を決してかけ直した。



「待ち過ぎて、また年が明けちまうかと思ったぜ」


「明けたばかりですけど」


「例えばだよ!お前は人の揚げ足取ってんじゃねえよ」


「で、ご用件は」


「何?その冷ややかな態度は」


「何の御用ですか?」


「ちょっと待てよ!?篤様の声が聞けて喜びはないのか?」


「何で?」


「何でって本気で言ってるのか!?」


「はあ・・・」


「お前は本当にバカだな〜!俺様のありがたみが全然判っていない!」


「は?」


「篤様と言えば愛のキューピットって言われるぐらいなんだぜ?」


「そうなんですか?」


「そうよ。愛の伝道師とでも」


「・・・・・」


「何かお前と喋ってると調子が狂うな」


「スイマセン」


「まあ俺様の事はどうでもいいとしよう!」


「はあ」


「YUIに代わるから」


その名前に思わずヤメテと叫んだ。


「何だよ。急に大声出しやがって耳が痛てえじゃねえか!」


「何でですか!?」


「何でってお前に用があるのは俺じゃない」


「じゃあ切ります」


「はあ〜!?切るだと!?何で?」


「何でって」


「ちょっと待ってろ!」


私よりも篤君の方が焦っている。


きっと近くにYUIちゃんがいる。


かすかに聞こえる受話器の向こうの声に集中した。



「切るってよ?お前どんだけ酷い事言ったの?」


篤君の声が聞こえる。


「俺が!?そういうの苦手なんだよな〜!!」


YUIちゃんじゃナイ声の主が電話に出た。


「もしもし優奈?浅見だけど」


「浅見君?」


「何でYUIと話したくないの」


「話したくない」


「だから何で」


「何が言いたいのか浅見君が教えて」


「俺は判ってるけど、直接話した方がいいだろ」


「じゃあ教えて」


「教えてって。こういうのはお互いでさあ」


「もう怖いし傷つくのヤダ!」


好きでも何でもない女に泣かれるのはウザイって判ってる。


YUIちゃんに言われて判ってる。


電話を切るきっかけと


切ってくれるきっかけが欲しかった。


YUIちゃんが、どれだけ傷付いたかを知ってくれれば。


泣いてる事を知ってくれれば、それだけで私の心はもう十分だった。


「泣くなって。何かお前勘違いしてるだろ」


「もう切りたい」


「切るなよ。じゃあ俺が代わりに言うとさあ」


アノ女が言ってたのは嘘だという事実と


本当の真実をNFのメンバー全員が判ったという事。


「お前の潔白も晴れた訳だし一件落着って事だな」


「以上ですか」


「そう。だからまた元の仲に戻れるしさ」


「元の仲って」


「お前YUIとデキテたんだろ?」


「違います」


「素直に喜べばイイジャン」


「デキテナイし戻れないし喜べない」


「切るなよ」


浅見君はどうやって携帯を持ってるんだろう。


今度は受話器の向こうの声が聞こえない。


【名無しさん】と登録したのは


浅見君の説明によりYUIちゃんの携帯番号だって知った。


「この前わざと出なかったのか?」


「削除したから判らなかった」


「何で削除したの」


「削除しろって言われたから」


「YUIに?」


忘れたいと思ってる時間が蘇ってくる。


あの時に感じた体中を掻き毟りたくなる激情。


もう切りたい。


「お前に謝りたいんだってよ」


「もういい」


「戻りたいんだってよ」


「戻りたくないし、もう忘れたいの!」


浅見君だと思ってた。


「ゴメンな」


「・・・・・」


「俺が悪かった。本当にゴメン」


「ヤダ」


「ゴメン」


YUIちゃんの声に押さえていた感情が一気に溢れて


「俺が傷つけたんだよな」


自分の気持ちばかりぶつけた。


「もう無理か」


きっとまた誰かの嘘で私が傷つく。


戻りたくないって。


信じてくれなかったYUIちゃんの事許せないのに


「ゴメンな」


YUIちゃんの声が聞こえる度に涙が溢れて


「本当に悪かった」


こんなに離れているのにすごく近くに感じて


「俺が悪い」


優しく包まれているみたいで。


切れば終るって判ってるのに電話が切れない。


「俺の電話だって判って出なかったと思ってさ」


無言の私に話かける言葉に


「今頃まだ泣いてるかなってさ」


思ってくれてた時間を知り


「もう無理かもしれないけど謝ろうと思って」


かけて来なきゃ勝手に過ぎて行くだけなのに。


新しい人を見つければ済む事なのにかけて来てくれた事が嬉しくって。


YUIちゃんの言葉が私の心を癒していくけれど




【でも戻れない】


「浅見君に代わって欲しい」


YUIちゃんには直接言えない。


でも言わなきゃイケナイ事がある。


「それをYUIに言えば良いわけ」


浅見君の声は私を軽蔑してる。


「まだ何日も経ってないのにって。

俺には関係ないけどさ」


言わなきゃ良い事だったかも知れないけど


知られずに終る事だったかもしれないけどこれが私の事実。



「もう彼女がいる男とどっかのベースと寝たんだってよ」


私にも聞こえるように浅見君が声に出した。


(マジ早くね〜!?)


篤君の声が聞こえたけどYUIちゃんの声は聞こえない。


「何で?」


「何でって」


「YUIが聞いてる」


「忘れたかったから」


「忘れたかったからだってよ」


YUIちゃんの言葉を浅見君が聞いて


私の言葉を浅見君が伝える。


「彼女がいるのとは続いてるってよ」


(あ〜淋しい女って落とし易いしね)


篤君の声だけが聞こえる。


「ベースのヤツって誰?」


「RYOさん」


「どこの?」


「判らない」


「判らないってお前」


「本当に判らない」


ただアノ女が狙ってるって聞いて腹いせにした事を正直に全部話した所から


浅見君が私の言葉をYUIちゃんに伝えなくなった。


「お前が誘ったの?」


「向こうから」


「どうやって」


「電話番号渡されて」


「じゃあ削除しろ」


「捨てたからもう判らない」


「捨てた?」


「向こうは判らないけど私は捨てた」


「じゃあ、かかってきたらお前が言え」


「何を?」


「YUIと付き合ってるからって」


「付き合ってない」


「じゃあ、今から付き合えば?」


「もしもし」


浅見君から奪い取ったように突如聞こえて来たYUIちゃんの声に、また声が出ない。


「聞いた」


「・・・・」


「戻れない理由ってその事か」


無言の私に気遣いながら話しかけてくれる声。


本当はYUIちゃんが電話して来てくれた事が嬉しかった。


でも、ちゃんとサヨナラしなきゃイケナイ。


サヨナラしたい。


意を決してYUIちゃんの問いに答えた。


「彼女がいる男の事好きなの」


「判らない」


「判らないって何」


YUIちゃんの声も顔も匂いも全部忘れたかっただけ。


【ただそれだけ】


YUIちゃんに触られたままの体で居たくなかっただけ


【忘れたかっただけ】


「そっか」


これでYUIちゃんとはもうお終い。


きっとバカで軽い女だって思われた。


たった2週間程度の間で2人の男と寝て、1人は腹いせの為。


もう1人は彼女がいるのを知ってて寝た私は淋しい女。


でもそう思われてイイ。


戻れない関係だし後悔してない。


私の本当の真実も傷ついた事も全部言えた。


YUIちゃんに伝わった。


苦しくって悲しくって体が切り裂かれたようなアノ感覚。


淋し過ぎて正気じゃなかった私の気持ち。


一生判ってもらえないって思ってた私の気持ちは解放され


もう望む物は何もない。


そう思ってた。


「戻らないか」


「戻れない」


「寝たから?」


「うん」


「じゃあその男の番号教えて」


「何で」


「俺が電話して言うよ。優奈とより戻したいって」


想像もしてなかった言葉に急に苦しくなった。


【戻りたい】


戻れないって自分で押し殺したハズの感情が破裂し、どうして良いのか判らなくてくる。


「聞いてる?」


YUIちゃんの言葉に泣く事しかできない私に呟いた


遠いな・・という言葉。


顔が見えないけど声で伝わる。


今YUIちゃんがどんな顔をしてるか。


繋がってるって感じる度に涙が溢れた。


「少しずつ埋めて行かないか」


「・・・」


「この期間って言うか。何て言ってイイか判らないけど」


でも結局最後は、何を言われても戻れないまま終ると思ってた。


少しづつ心の鎖は解除されて行くけれど無理だと思ってた。


戻りたいけど戻れない。


終わりが来るのは、きっとそう遠くない。


今日で終ってしまうこの温もりに素直に甘えたいと思った時


「もう離さないから。もう1度信じて欲しい」


その言葉を最後の鍵に、私の傷付いた心が開き出した。


YUIちゃんがくれた言葉1つ1つが傷を癒し


戻りたかったアノ時と同じ幸せな気持ちに満たされていく。


他の男と関係を持った事を知っても復縁を望んでくれた事より


浅見君と篤君がいる前で真剣に言ってくれた事が嬉しく感じて。


迷ってた心は涙が止まったと同時に固まって行く。


「本当に信じてもいい?」


「いいよ。信じて欲しい」


受話器の向こうで篤君の絶叫が聞こえる。


(ヤメテクレー!!離さないの次は信じて欲しいだってよ!超キモーイ!!)


(おいおい!マジで泣いてんじゃねえよ!!)


浅見君の声は冗談じゃなくて本当に涙が出たのかもしれない。


「ちょっと待ってろ。切るなよ?」


YUIちゃんが何をしてるのか判らないけど篤君と浅見君の悲鳴交じりの大爆笑。


(やめろって!悪かった!もう信じるから〜!)


(もう離さないから〜!YUIちゃんヤメテ〜!)


懐かしささえ感じるその時間に繋がってる事さえ嬉しくて。


YUIちゃんと私は縁りを戻す事にした。


別れる前よりも強く感じたYUIちゃんからの思い。


もう何が遭っても2人の関係は壊れない。


誰にも壊す事は出来ない絆が出来た気がしてた。


この夜に出た涙は


幸せな時に出る涙。


幸せ過ぎて。


嬉し過ぎて出た涙。


そう。まだ恋とか愛とかあんまり経験がなくって。


1度壊れた物は脆くて治そうとすると、さらに傷が深くなる何て判らなくて。


きっとYUIちゃんが私に感じたのは、愛情ではなく情であり。


私の心を傷つけた事に対して自分の心が楽になりたかっただけ。


その事をYUIちゃんも愛だと勘違いしてたのかもしれない。


【時が解決してくれる】


その言葉の意味深さも知らず


ただその場の自分の気持ちを大切にしたアノ夜。


「どうか私とYUIちゃんが幸せになれますように」


名も判らぬ星達に、そう真剣に願った私の願い事。


お星様は叶えてくれてた。


この夜のまま。


2人が遠く離れている事を条件に、きっと叶ってた。



chapter1(第1章終了)

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