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disappear  作者: 黒土 計
30/71

chapter1 別れ方の約束

午後3時過ぎ。


デパートを出て向かったのは相葉さんのマンションの駐車場。


「飲むなら乗るなってね。荷物はコレだけ?」


初めて相葉さんの部屋に入った。


外観で感じた高級感のある玄関に似合った大きなリビングだったけど


テレビとテーブルと大きな黒いソファーだけの殺風景な部屋。


「何にもないでしょ。物を置くのが好きじゃないんだ」


台所も使った形跡も見当たらないほど何もない。


いつでも出て行けるというより


いなくなった後の整理がしやすいように感じる部屋。


「食事は全部外食だしね」


「部屋で何も飲まないの?」


「飲むよ。缶ビールとかワインとか」


ワイングラスを棚から出して微笑む相葉さんに少し安心した。


1つも食器が見当たらなくって


生活感と言うよりも生きてる感じさえ見えない。


「彼女?何回か来た事あるよ。仁美もね」


誰かが一緒に住んでる感じもなく


誰も来た事がないようにも感じる空間。


家ってそれぞれの匂いがあるはずだけど何も感じない。


男の1人暮らしの家ってこんなにも殺風景なんだって不思議に感じた。


「こっちが寝室」


「うわ〜。何か大きなベッド」


「キングサイズだからね」


「1人で寝るのに?」


「まあ、こうやって女の子を誘えるようにかな」


買ってもらったばかりの服を脱がされて相葉さんの体を受け入れる。


ここに来るまで相葉さんの事をどんどん好きになって行く自分がいたけど


【本気で好きになってはイケナイ】


今の関係から一線を越えてはイケナイって言われてる気まで感じる冷たい部屋。


彼女がいて


2号さんがいて


妹と言う偽の存在の私を拒否しているのではなく


きっとコノ部屋が拒否しているのは、私が求める心の温もりと愛情。


事を終えて女として満足した体を抱きしめてくれたけど何かが足りない。


体は満足しても埋め尽くされない心の隙間。


聞いてはイケナイって感じるけど心も満たす為に聞きたい。


コノ部屋に感じるのは私の勝手な印象。


相葉さんの気持ちが知りたい。




「私の事好き?」


「好きだよ」


「本当に?」


「今のままで居てくれたらね」


「今のまま?」


「何でも素直に話して俺の行動に口を出さなければね」


「行動?」


「そう。こういう関係ってイヤだ?」


「判らない」


「判らない?」


「私と相葉さんがどういう関係なのか」


「心の恋人って所かな」


「心の恋人?」


「仁美は遊びの恋人。連れて歩くにも見た目も良いし、アイツといると楽しいんだ」


「彼女は?」


「人生のパートナーって所かな」


「パートナー?」


「別に好きとか嫌いで付き合ってる訳じゃないしね」


「ヤナ女なの?」


「イイ子だよ。イイ子だと思うけど恋とか愛ではないね」


「ではない?」


「そう。アイツの家と俺の家の将来性を見てって感じかな」


「それって親の策略とか!?」


「違うよ?俺がそう思ったの。自分の人生を高めていく為に必要だってね」


「必要?」


「俺の実家って街じゃ結構大きな会社でさ」


「うちの近所にね市営野球場があってね?相葉って大きな」


「え?優奈ちゃん家って俺の実家の近くなの!?」


「嘘!あそこ相葉さんの実家なの!?私隣の学区なの!」


「何中?って言うよりもじゃあ俺の事知ってるんじゃない?」


「何を?」


「俺が何をしたか」


「相葉さんが?」


「そっか!よく考えたら11歳も下なんだよね」


「有名人だったの?」


「嬉しくない事でね」


真っ暗な部屋の中。


タバコに火を着けた時に炎に照らされた相葉さんの顔に大人の色気を感じて


キュンと浮かれてる私と反対に、相葉さんの顔はどんな顔をしてたのかな。


嬉しくないと言った話を聞く前に相葉さんの口から別の話が出た。



「優奈ちゃんは俺とどういう関係でいたい?」


「どういう関係?」


顔が見えないけど冷たく感じる。


急に雰囲気が変わって言葉が思い付かない。


私が相葉さんに望むもの


「仁美は会いたい時に食事して欲しい物買ってもらう。

優奈ちゃんもそれ以外要望はない?」


彼女になりたいって思ってる事は言えない。


口したらそのまま終ってしまいそうなぐらいの冷たい言い方。


【だから言っただろ?】


コノ部屋がそう言ってる。


「俺の希望は、今の関係かな」


「今の関係?」


「俺も話すし、優奈ちゃんも何でも思ってる事を話す」


「今みたいに?」


「そうだね。普通だったらこんな話されたらイヤでしょ。最初から彼女じゃないとかって」


「最初から判ってたよ」


「何を?」


「彼女にはなれない事ぐらい」


「なりたいって思った?」


「思ったよ。さっきもいっぱい思ったよ。

でもね。言ったら終る気がした。」


「賢い所もあるんだね」


「判るよそれぐらい!」


「怒った?ゴメンネ」


冷たい空気が私の好きな空気に変わる。


おりこうさんとでも言いた気な頭を撫でる相葉さんの手にそう感じた。


彼女になれない事ぐらい判ってたけど、少しは期待してた。


私だけが相葉さんに愛されて怒ったり笑ったり


何でも素直に言えて心から信頼できる揺らぎない関係を望んでた。


でも無理だって。


私が望んでる恋にはナレナイって見切りがついたと同時に相葉さんへの要望が生まれた。


「1つだけお願いがある」


「何?」


優しい別れ方をして欲しい。


私が好きな人が出来て別れる時は、


今日行った喫茶店で笑顔で別れたい。


「相葉さんが私と別れたい時は」


「俺からは別れないから聞かないでおこう」


「どうして?」


「もし、その男と上手く行かなかったりしたらいつでも会おう」


「会ってどうするの?」


「SEXした相手とだったら逆に男友達よりも言いたい事が言えるかもよ?」


「その頃には新しい女が増えてそうだけど」


「そうでもないよ。一応相手選んで付き合ってるんだけどな」


「本当?」


「女よりも魚見てる方が好きだしね」


きっとハニカンだ笑顔をしてたと思う。


もしかしたら私よりも優雅に泳ぐ熱帯魚の方が好きかもしれない。


「そう言えば熱帯魚は家にいないんですね」


「あ〜家にいたら仕事にも多分行かなくなっちゃうからね」


「私が口出さなければ、どんな事をしても相葉さんからは別れない?」


「そういう事じゃないけど何でかな・・・

優奈ちゃんとは俺から判れる気がしない。フラレル気がする」


「私が相葉さんを?」


「そう。このまま続けるも終わりにするのも、全部優奈ちゃん次第だね」


その言葉に大人ってズルイって思った。


最初に会った時に悪いヤツだって自分の事を言ってたけど


悪いヤツじゃなくって相葉さんはズルイ。


でも、それに対して怒る気にはなれない。


だって私が相葉さんに会いたいって思った理由も


淋しい自分を慰める為だったからかもしれない。


音のない部屋で自分の人生を振り返った。


間瀬に素直になれなかった自分。


YUIちゃんとの幸せだって感じた時間。


RYOさんとの欲求不満に感じたSEX。


そして相葉さんとの


【彼女】になりたいと望んではイケナイ関係。


「一応聞いて欲しい」


「俺からの別れ方?」


相葉さんから別れたい時は


自然消滅はしないで欲しい。


どっちか判らなくって待ってる時間が辛いから。


もし誰かの嘘とかで私の事を嫌いになったり


ただ飽きたのなら最後にデートしよう。


行き先は映画館。


それが相葉さんからの合図だって思うから。


「優しい別れ方ね。約束するよ」


私が望んだ関係は最初からナレナイモノ。


判っていたけれど離れたくはないのは何故?


どこか間瀬に似てるから?


車とお金があるから?


相葉さんに執着する1番の理由で行き着いた先は


【SEX】


私の体を満足させてくれるという理由。


「そろそろ時間だし行こうか」


何でも判ってくれて、尊重してくれて、決して馬鹿にしない。


そんな相葉さんに心まで引き付けられて行ったけれど時々感じる違和感。


相葉さんの言葉は【俺】との付き合い方の注意事項を聞かされてるよう。


「今から行く店は親も時々行くからさ。

高校生ってのはマズイから19歳って事にしてね」


17歳の私が私でなくなって行く。


「一応言葉使いは丁寧にね」


自分の存在を別の者にしなければ、相葉さんとはいられない。


「何か聞かれても俺が答えるから大丈夫」


笑顔で抱きしめてくれるけれど胸が苦しい。


好きな人に抱きしめてもらうって、こんなに不安が増える事じゃない。


不安や悲しみとかが解消されて幸せで満ち足りて・・・


きっと私の人生の中で世界一幸せだって感じたアノ時間。


YUIちゃんがくれた温かい時間に戻りたい。


「その涙は俺のせい?」


「安心して。YUIちゃんのせいだから」


「良かった安心したよ」


相葉さんのハニカンダ笑顔が好きだった。


でも、今は好きじゃない。


ズルイ男だって判っているのに。


好きだと言う気持ちが消えうせても離れられない。


「さあ。お食事でも行きますか」


きっと金と車。


そしてSEX。


タクシーの窓に写った私の顔がズルイ女に見えた。

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