chapter1 彼女ではない彼女
相葉さんが待ち合わせに指定した場所は喫茶店。
「初めて来る場所だから不安だろうと思って」
指定された時間よりも20分早く着いたのに
相葉さんはもうコーヒーを一杯飲み干していた。
「ココは自分でカップが選べるんだ」
店内に飾られてると思ってた色々なカップとソーサーの中から
自分が好きな物を選んでコーヒーを入れてくれる。
何が良いのか全く判らない私よりも先にと言うよりは
「右から3番目のって伊万里焼だよね?じゃあ彼女に」
私に恥を欠かせないように
タイミング良く店員に話す相葉さんに好きっていう感情が増えて行く。
彼女になりたいとは望んでいなかったのに
1秒毎に好きになって行く。
「ココもよく来るんでスカ?」
「いや?滅多に来ない。ちょっとカッコいい所見せようと思って」
ハニカンダ照れ笑いをする相葉さんの顔を初めて見た。
「可愛い?」
「うん可愛い」
「狙い通りだったりする」
マッタリと温かい時間。
相葉さんとは、まだ1回しかデートした事がないけれど
もう何回も何ヶ月もずっと前から知ってるような気がした。
「お腹空いてる?」
「空いてない」
「何か食べたの?」
「食べてないけど、あんまり寝てないからかな」
「じゃあ、後で軽くでもイイかな?実を言うと俺もお腹空いてないんだよね」
何でも正直に言えて、相葉さんも私に合わせてるって気がしない。
「じゃあ、どこか行きたい所ある?」
「例えば?」
「映画とかは興味ないか」
「全くないかも相葉さんは好きなの?」
「映画?自分からは行かないね」
「誘われたら」
「断るかな。まあ断る理由がなかったら行くって感じ」
「相葉さんは今から何したい?」
どこか私に似た感じがする相葉さんの答えが
私と同じかなって期待したけど
「ちょっと寄らなきゃイケナイ所があるから、それまでドライブでもしようか」
数時間前にRYOさんとのSEXで逆に欲求不満に陥てる私の事など知る訳もなく。
店を出て車が止めてある駐車場へと向かった。
並んで歩く私達の事を見て
すれ違う人達はどんな関係に見えるのかな。
ショーウィンドーが相葉さんと私の釣り合いが取れていない事を教えてた。
「何か元気なくなってきたんじゃない?」
運転しながら相葉さんの手が私の顔を触る。
「眠くなって来たとか?」
もっと触って欲しくってその手にじゃれる。
「正直に言ってごらん」
「Hしたい」
「いつからそう思ってたの?」
「喫茶店を出る前」
「正直で宜しい」
この街で1番大きなデパートの駐車場。
相葉さんが寄りたいって言ってた店との約束の時間が来るまで
後部座席に移動して相葉さんの指で私だけ朽ち果てた。
「じゃあ、そろそろ行きますか」
「相葉さんは?」
「時間だからね。だし後部座席じゃ体位も決ってくるでしょ」
薄暗い照明の中で、照れ笑いする相葉さんが愛おしくて堪らない。
普通の男だったらガツガツして
きっと約束の時間なんて事が終った後に回すだろうけど
大きくなった下半身のせいかどこかギコチナイ歩き方で
約束を守ろうとする相葉さんの存在がさらに私の心に溢れていく。
このまま明日も明後日もずーとくっ付いていたい。
相葉さんの優しさが私だけの物な気がして。
腕に絡まって歩く私を相葉さんも拒否しなかった。
でも、拒否してくれた方が良いと思う。
「何してるの」
相葉さんは気が付いてたはず。
「何って買い物」
前から正面向かって歩いてくる彼女に気が付いたのなら。
「誰?」
判った時点で拒否して欲しかった。
「妹だよ」
雑誌モデルのように美しい彼女。
エナメルのピンヒールが良く似合う細くてキレイな足。
彼女と目が合うのが怖くてそらした先のショーウインドウに写る3人の姿は
相葉さんと彼女はお似合いで、私は本当に妹にしか見えない。
私の方が若いからって勝ち目はない。
私がアヒルなら、彼女は白鳥か鷺。
そんな彼女がニッコリ笑って話しかけてきた。
「初めまして。高校生?」
「あっ・・・はい」
「心配しないで。私は2号よ」
「え?」
「彼女じゃないの。2号さんて判る?」
「2号?」
「そう彼はまだ結婚してないから愛人じゃないけどね」
「松戸さんの所で約束してるから、また電話するよ」
「良いじゃない!いっぱい買ってもらいなさいね。また会えたらお食事でもしましょう」
そう言い残し風のように去て行った。
自分を2号だと自己紹介してきた女の人。
「キャバクラの子でさ」
彼女の名前は仁美さん。
相葉さんが同僚と行くキャバクラのNO1。
「イイ女でしょ」
彼女と私以外にも
相葉さんにはそういう行為をする人がいる。
「彼女じゃないね」
私は妹。
仁美さんは2号。
相葉さんの彼女ってどんな人なんだろう。
女優かと思うほどキレイだった仁美さんが2号なら
彼女はもっと美人なのか。
察して答えてくれるかと思ったけど入って行った店は約束の場所。
「相葉様お待ちしておりました。どうぞコチラへ」
顔を見ただけで案内された事で
相葉さんがいつも使っている店だって私でも判る。
服やアクセサリーが並ぶ店内の
階段を上がった所にある部屋の中に仁美さんも来た事も。
知らない方が幸せな事もある。
相葉さんの事を真剣に好きになっていく私には
あんまり嬉しい気分じゃなかった。
「お若いとは聞いてましたが、ちょっと彼女の雰囲気に合わせなおしますね」
ニッコリ笑って店員が部屋の外に出て行った。
「ココ?仁美に教えてもらったセレクトショップ」
「今から何をするんですか?」
「優奈ちゃんに洋服でもと思ってね」
「私お金そんなにないし」
「プレゼントしてあげるから好きなの選べばと言いたい所だけど」
店員のコーディネイトした服を相葉さんが選んで私が着替える。
「無理に大人っぽくしなくて良いよ。上質な女の子って言うのかな」
相葉さんの注文に再び部屋から戻ってきた黒いコートを一目見て
可愛いと思った事を感じてくれたのか
相葉さんはそのコートに合わせてコーディネイトさせた。
中に合わせられた服は
自分では選ばない色とシンプルだけど
着てみると何故だか自分が可愛く見える。
「コートだけでも可愛いいですが
このバッグを合わせるとさらに彼女自身が持つ可愛らしさを強調してくれるかと」
可愛いバッグを持たされて
靴を履かされて気分はシンデレラ状態。
「どうですか?気に入った?」
満足げに見てる相葉さんの前で
その笑顔がもっと見たくて
子供だと思われる事など気にせずに1回転して見せた。
「あ〜ピアスは穴が開いてないから。今時貴重な子でしょ」
【貴重な子】
その言葉にピアスを開けようって思いながら
勇気が出せずにいた事さえ幸運に思う。
「大人計画は失敗だって思ったけど」
「自分に似合う色と服の形で変わりますからね」
相葉さんと店員の話を聞きながら
無理に流行に囚われず
少し今年のテイストを入れて自分に似合う物を選べば
大人に見えるのではなく自分の良さと持ってる個性が引き立つ事を知った。
「じゃあ、このまま着せて行きたいんだけど」
「ありがとうございまままあ!?」
「あっ・・・ごめんなさい」
チラっと見たコートの値札に書かれた数字に
目が飛び出そうになって思わず変な声を出してしまった。
「良いよ。プレゼントだから」
店員から差し出された紙にサインしながら相葉さんは笑った。
「仁美なんかこの前いくらだっけ?」
「総額50万円ぐらいでしたね」
悪気もなく仁美さんの話を聞かせながら
店員と笑い合う相葉さんからの
初めてのプレゼントは総額17万円。
何でもないシンプルなインナーは1万7千円。
同じような物なら2000円ぐらいで買えるのに。
一般庶民の私には判らない世界は甘美ではなく
勿体無い世界に思えた。
「またお願いしますね」
「お待ちしております」
私達の姿が見えなくなるまで2人の店員が見送ってる。
あの2人は私と相葉さんの関係を知ってるんだろうか。
彼女でもなく
2号でもなく。
本当の妹ではないそういう行為をする関係だって。
これから私はどうなって行くんだろう。
ショーウィンドーに写った自分の姿は、
「もう腕は組んでくれないのかな?」
年下だって判るけど相葉さんと不釣合いな女じゃなかった。
安い服と違って上質な服は気分までも上質にさせてくれる。
すれ違う女の子達の視線が
私の洋服を見て可愛いと感じてるのが判る。
もうさっきまでの私じゃない。
これから誰もが振り返るイイ女になって行く。
相葉さんとこのまま偽の関係を続けて行けば
きっと私は幸せになれるって思った。