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disappear  作者: 黒土 計
27/71

chapter1 最初の仕返し

家を出て6日目。


「今は秘密!あとで教えるから」


夏美は結局学校には行かず智子と京都に行くと言い出し


相葉さんと出会って少し心が落ち着いた私は家に帰って今日で2日目。


「夏美ちゃんがうちの子だったら将来の事何も心配なんかないのに」


お母さんは本当に人を見る目がない。


金曜日から、また夏美の家に2泊してくると言ったら快く承諾してくれたまでは良かったけど


人の庭はよく見えるのか。


私の事を何でも知ってるかのように悪く言う小言に家出ではなく


本気で戸籍ごと出たくなった。


「あ〜OK!相葉さんと会うの?」


まだ連絡してないけれど


夏美の家に2泊するという偽装は


相葉さんと会う為の口実。


「ねえ金曜日はさあ。この前のライブハウスに行かない?」


今回は一緒に泊まるとかはない。


打ち上げに行って


少し仲良くなれたらラッキー程度。


「優奈もどうかな?って思ってたんだけど無理?」


2度と足を踏み入れる事はないって思ってたけど


もう制限される事は何もない。


逆に智子と麻紀。


夏美達と居れる時間が


本当の自分の居場所な気がした。


「え?行く!?じゃあさ金曜日約束ね!」


きっと夏美は凄い嬉しい顔をしていたと思う。


飛び跳ねるような高い声で判った。


「迎えに行くから、そのまま土曜日はランチでも行こうか」


相葉さんには金曜日の事も話した。


「土曜日は泊まっていける?」


「イイの?」


「イイよ。じゃあ、夜は日本料理でもイイ?予約しておくよ」


相葉さんと出会って知った車とお金のある男の魅力。


いつ電話がかかってくるか判らなくって泣いて待ってた間瀬の事。


本当の事を判ってもらえなくって終ったYUIちゃんとの恋が


ダッサくてバカな女がする事だって思った。


愛さえあれば何も要らないなんて嘘。


金と車と見た目が良ければ


愛は後から付いてくる。


大人の男という魅惑を感じ


本気で好きになってはイケナイ緊張感までもが心地良く思えた。



「もう風邪は大丈夫?悪いんだけど日曜日の朝出れないかな?」


先週は風邪と偽って全部休んだバイト先の店長の願いを初めて断った。


「困ったな。川嶋さんも彼氏でも出来たの?」


彼氏というか大人の関係?


喜び自慢が喉まで出かけたけれどパートのおばさんはお母さんの友達。


水曜日・木曜日は一緒の時間に働いてるのが弟の同級生。


「川嶋さんにも、いつか良い人が現れるよ。じゃあ、また明日お疲れ様」


淋しい女の子という勘違いを訂正したいけど告げ口されては困る。


楽しい時間を守る為の試練だと自分に言い聞かせ


お母さんの存在を一層苦に感じながら自転車を走らせて家に帰った夜。



ベランダに面してるから


洗濯物を取り込むのに私の部屋に入らないといけないのは判ってるけど。


「化粧の練習してるぐらいなら、勉強でもしなさいよ」


機嫌が悪いのか。


いつもより過剰にお母さんが攻めてきた。


「何その口紅は!色気付いてみっともないったらありゃしない」


「うるさいな〜」


「洗濯も出来ないようなアンタの事なんて誰も見てないんだから!

化粧品も無駄!判ったなら返事ぐらいしなさい!」


取り込みが終っても部屋から出て行く事無く私を貶しまくる。


(この家にいたら私は本当にダメになってしまう)


いつもいつも人の気持ちも何も考えないで


土足で踏みつけるその態度に我慢も限界を超えた。


「アンタの事を思って言ってるんでしょ!」


二言目にはいつもこの言葉。


「先週はアンタがいなかったから、清々したけど。

ちょっと今アンタ何って言ったの!?」


「清々したのはコッチの方だって言ったんだよ!」


いつも言われたい放題だったけど


生まれて初めてお母さんに怒鳴り返えす私の怒涛の大声に


お父さんも弟も駆けつけ取っ組み合いの大騒動になった。


人の事を何にも判ってないくせに。


偉そうな顔をして自分の都合の良いように馬鹿にしつづけるお母さんを無視して


怒りをぶつけた相手はお父さん。


「おたくらも選べた訳じゃないのは判るけど

私も好き好んでアンタ達の子供に生まれた訳じゃないんでね」


お父さんに話してるのに、お母さんが口を挟む。


顔を赤らめて目をひん剥かせて言いたい放題止まらぬ愚弄。


この人と話したって何もかも無駄。


そう思ったら逆に冷静になって行く自分。


「生意気なこと言うんじゃないわよ!

誰がココまで育てて来てやったと思ってんの!学校のお金だってね」


「じゃあ学校辞める」


「勝手な事ばっかり言って!」


「お母さんと一緒にいたら私自殺しそうだ」


「何言ってるの!アンアって子は」


「よさないか!」


手を上げようとしたお母さんの腕を掴み初めてお父さんが口を開いた。


お母さんという名のこのひとが泣いてる理由は


きっとお父さんに怒鳴られたから。


私に悪い事をしたなんてコレッぽっちもないだろう。


このひとから愚弄される日が終るなら今ココで死ぬのもアリかも知れない。


YUIちゃんとの恋も終わった。


もう後悔する事もない。


私には夢も希望もない。


ただ欲しいのは、安らげる場所。


死ぬ事で得られるのなら、今ココで。


17年の命を絶った真実を知っておいて欲しい。


「お父さん」


「何だ」


意気消沈し泣き崩れるお母さんに肩を貸し階段を下りていく3人。


「私が死んだらお母さんのせいって思ってね」


そうとだけ告げてドアを閉め鍵をかけた。


1階から泣きながら言い訳をしてる馬鹿な女の声と


お父さんが言い争ってる声が聞こえる。


死ぬのも悪くないと思っていたけれど


叱責されてるお母さんの気持ちを考えたら死ぬ事よりも


生きて苦痛を味あわせたい気分に駆られる。


ざまあみろクソババア!


言ってヤッタリで満足感に浸っているとお父さんがドアをノックした。


「ちょっといいか?」


「よくない」


「お父さんだけだ」


「誰にも会いたくない」


「じゃあ、ここで良い。お母さんはな?お前の事を本当に心配してるから」


その先の言葉はドアに向かって投げた目覚まし時計の音で途絶えた。


バカ女にバカ男。


こんなヤツラといたら本当に頭がおかしくなる。


あいつ等に払ってやってると言われるぐらいなら


別に行きたくて行ってる訳じゃないし学校も辞よう。


こんな事なら夏美達と京都に行けば良かった。


今頃きっといつものように大騒ぎしてるんだろう。


夏美もいないし、家を出る為に迎えに来てもらおうと思った


相葉さんの携帯は繋がらなくて行く宛てもない。


でも、今すぐ出て行かなければイケナイ気がして


バッグに荷物を入れながら部屋の中を整理した。


コレは夏美とお揃いで買ったストラップ。


自分用に修学旅行のお土産で買ったお菓子の缶。


間瀬の写真も載った中学の卒業アルバム。


1つ1つの思い出を思い出しながら涙が出た。


どうして自分はこの家に生まれたんだろう。


夏美のお母さんみたいな人がお母さんだったら私も悩む必要はないのに。


私って色々な意味で不幸過ぎる。


机の奥に隠したYUIちゃんの手紙を見て私という存在が悲しくなった。


相葉さんは確かに見た目も良いし一緒に居て本当の自分でいられるけど


YUIちゃんとの


【幸せ】だって感じた時間はない。


ささやかだったけど、


まだ少ししかYUIちゃんの事を知らなかったけど、


いつも私って幸せだって思えたあの感覚がない。


ホテルで聞いた相葉さんの本音は


俺と付き合いたいなら一線を越えてはイケナイと遠まわしに言ってるように感じた。


愛はないって言ってたけど彼女も一応いるし


それを承知で行為に及んだ私の事を妹的に感じるとも言ってた。


「YUIちゃん。私どうなっちゃうんだろうね」


最後の電話から悲しくって見る事が出来なかった写真に話しかけた。


「私ね。もう他の人と寝たよ。

彼女がいる人でね。

恋人とかそういう関係にはならないと思うけどね」


声に出したら悪い噂話なら2回。


良い噂なら1回くしゃみをすると言われてるように何か伝わる気がした。


「すごい悲しかったよ。すごい傷ついたんだよ。

YUIちゃんが私の事傷つけたんだよ?」


日付けが変わって


まだ9日目。


もう9日目。


久しぶりに1人になって、あの日の事が蘇る。


悲しすぎて苦しくなって気を失ってしまったあの夜。


写真と手紙は破り捨てる事が出来なかったけど携帯の番号とアドレスは消去した。


もうかける事も出来なくなった番号は


アドレス帳に頼ってたせいか配列が思い出せないけど


メルアドは忘れられない。


今だって直接入力すればメールは出来る


けど・・・


YUIちゃんも削除したのかな


と涙してるとメールの着信音が鳴った。


送り主はお父さん。


【優奈はどうしてほしい】


一言だけ書いてあったけど返信しなかった。


今は私の時間。


YUIちゃんへの思い以外は何も考えたくない。


この静かな時間が気兼ねなく欲しい。


相葉さんが求めてる時間ってきっとこういう時なのかな。


こういう静かな時間って私にも必要だったと気が付いた時に携帯が鳴った。


この着信音は煩い。


新しい着信音に。


いっそ鳴らない様にしようかな。


どうせ返信が来なくって待ちきれなくなったお父さんだと思った。


誰だろう・・・


間違い?


アドレス帳には名前のない番号だけが記録にあるのを確認した途端


また同じ番号で電話が鳴った。


もしかしてYUIちゃん?


そんな訳ないよね?


きっと間違い電話。


でもYUIちゃんかもしれない・・・


出るか出ないか迷ってる間に電話が切れた。




電話の主も間違いに気が付いたのか3回目はなかった。


もう2度とかかって来ないって判ってるのに


また傷つけられるって怖くて留守番設定にしたり本当にバッカみたい!!


ちょっとでも期待した自分がイヤになった時に3回目の電話。


今度はさっきとは違う番号に出てみた。


「もしもし」


「もしもし?」


女の声にYUIちゃんからだと期待してた自分がいた事を改めてイヤになった。


「もしもし優奈?私!麻紀!」


「え?麻紀ちゃん?」


「夏美に代わるね〜!」


「もしもし優奈!!ヤッタよ!ヤッテヤッタゾー!!」


「何?何を?」


電話してきたくせに


3人で絶叫しまくって大騒ぎしだした。


「もしもし?優奈?智子だけど!まじヤッタよ!ザマあみやがれ〜!」


「智子?どうしたの?ちょっともしもし?」


また放置されて3人の絶叫だけの数分間。


「ゴメン!ゴメンもう嬉しくって!」


「何が?」


「仕返ししてやったんだよ!あの女に!」


「仕返し?」


「そう!あの女の嘘をさ。

NFとリザードのメンバーとファンの前で全部バラしてやって!」


「メンバーって」


「今日リザードとNF対バンでさ!

トキ君も超怒って〜あんなトキ君初めて見たよ!」


「トキ君?」


「浅見君があの女を外に引きずり出してさ!」


NFには出入り禁止だと言われたけど


リザードマンのリュウセイさんが


気にせず来いと言ってくれたらしく会場に行ってた3人。


夏美が以前トキ君との誤解を解く為に電話をした


トキ君ファンの子達に会って1部始終と本当の話をし


リザードマンのファンの子達もトキ君という人を知ってるからこそ信用してくれたらしい。


NFのファンの子達にはYUIちゃんと私の事は言わないで


アノ女が嘘を付いたせいで自分達は出入り禁止になった事も。


「優奈が他のメンバー食ってるとかさ!

100%嘘だって信じてくれたからね!」


本当に初めてライブハウスに行って


あの女とは初対面で私の事を一切知らない事も。


NFのファンの子に本当の真実を話してた。


「アノ女に良い様に使われて怒ってる子達もいてさ!

結構みんな判ってくれて!」


打ち上げ会場に行った時に


NFのメンバー達は3人を見て良い顔はしなかったみたいだけど


「超大声で言ってやったの!

アンタのハッタリでうちらNFは出入り禁止だけど、リザードで来てるからって!」


「もしもし優奈?智子だけど!

でさ!NFに聞こえるようにリザードのメンバーに優奈の事話して!そうしたら!」


「そうしたら?」


「ほら!リザードのファンもメンバーがすぐ女連れ込むの理解してるからさ!

音とメンバーの人柄に着いて来てるから、セイジさんも優奈の事ファンに話してくれて!」


「セイジさんが?」


「あの女どっか抜けてて、SEX所かチューもナシ。

うち等に騙されてスポンサーにされただけって言ってくれて!」


「何か嬉しくないんだけど・・・」


「そうしたら、あの女急に泣き出してさ!

超ムカついたんだけどYUIちゃんがさ」


「YUIちゃんが?」


「蹴り入れて出てってさ!」


「出てった?」


「そう!隣に座ってたアノ女に思いっきり蹴り入れて!

で、浅見君がアノ女と何か話してたけど、立てって怒鳴ってさ!」


「浅見君が?」


「立たないから頭来たみたいで!

髪の毛引っつかんで外に追い出したんだよ!私超笑っちゃった!」


「で!?どうなったの?」


「もしもし麻紀だけど!

でね?トキ君が聞いてきたの。優奈はどうなったの?って!」


「麻紀ちゃん?私が何?」


「だから!夏美が言ったの。

相手の男がアノ女の嘘を全部信用して、超文句言われた上に捨てられたって!

超〜傷ついて夏美に電話しながら優奈が気絶しちゃったって。そうしたら」


「そうしたら?」


「トキ君。ビール瓶をテーブルで叩き割って、アノ女の所に行こうとするからさ!」


「ビール瓶?」


「トキ君ってね。嘘がすっごく嫌いで、どんな小さな事でも止められなくなるんだって!」


「で、どうなったの!?」


「何かトキ君って中学の頃に鑑別入ってたらしくって!」


「鑑別?」


「リュウセイさんが言うには、何か色々と思い出すみたいで!

自分の事じゃなくてもどんなに小さな嘘でもキレるらしくって」


「で!トキ君はどうなったの!?」


「外でリュウセイさん達に取り押さえられて大丈夫だったけど。

トキ君のファンの子達がみんな泣いちゃってさ!」


「大丈夫だったの?」


「大丈夫じゃないかな。今ファンの子達全員と公園で話してるし」


「公園?」


「トキ君って自分のファンの子と話すの好きだからさ」


その光景が容易に目に浮かんだ。


きっと自分が今感じてる事をありのまま話して


ファンの子達が1人1人感じてる事を


トキ君が真剣に受け止めて聞いてるんだろうであろう場所に


私も居るような不思議な感覚に癒されたのもつかの間


電話は興奮で甲高い声になってる夏美に変わった。


「もう打ち上げメチャクチャのまま途中終了して

NFとリュウセイさんとセイジさんはどっか行ったけど」


「そうなんだ」


「でも、アノ女に仕返ししてやったからね!」


「ありがとう」


「もしもし?智子だけど。ゴメンネ」


電話を代わった途端


智子は泣き出して言葉が途絶えた。


でも、YUIちゃんに本当の事全部いえなくて


【ごめんね】


って、ちゃんと聞こえた。


「私も打ち上げぶち壊しちゃったし

もう本当に2度とREIさんに会えないと思うけど」


本当に智子はREIさんの事が好きだったって判った。


NFのメンバーには迷惑がかからないように


言葉を選んで一生懸命考えながら


自分達のプライドを守る為に起こした行動。


本当は今以上に嫌われてしまうのは怖かったと思う。


「少しでもさ。本当の事を判って欲しくって!私頑張ったから!」


受話器越しに2人で泣いた。


もうすぐ電池が切れる音が響く中


ありがとうの言葉しか言えない私に


智子はゴメンネの言葉を残して切れた携帯を握り締め泣き続けた。


【でも収まらない感情】


涙が枯れた時


アノ女の言ってた事が全部嘘だって少しでも判ってくれたら


私の気持ちも少しは落ち着くと思ってたのに。


【何故か終らない】


逆にアノ女に対して余計に憎しみが増えて行く。


その理由は判ってる。


私は聞いただけで、自分の目でアノ女の無様な姿を見てない。


こんな程度じゃ終わりに何て絶対にさせない。


見下ろしてバカにして一生後悔させてやりたい。


どんなシチュエーションならアノ女は傷つくのか


想像するだけで心が満たされて行く気がした。

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