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disappear  作者: 黒土 計
26/71

chapter1 3人目の男

【もしも】


次の信号が赤に変わったら辞めよう。


酔いが覚めたと同時に気持ちが変わってしまった。


【もしも】


2つ先の角を曲がったら辞めよう。


【もしも】


このホテルだったら走って逃げよう。


私の【もしも】は全てハズレてタクシーが止まった。



初めて行ったラブホテルは大人の雰囲気がする建物。


「ここが1番良い部屋だからね。初めて来た感想は?」


素敵としか言いようがなかった。


黒を貴重とした間接照明の広い部屋の真ん中に大きなベッド。


ソファーの後ろにある大きな水槽の中には大きな熱帯魚が1匹泳いでいた。


「熱帯魚が好きなんですか?」


「金魚でも何でも好きだね。俺生まれ変わったら熱帯魚になりたいんだ」


海や川の魚だと過酷だから


養殖で孵化して観賞用の熱帯魚になりたいと言ってベッドの横に座った。


「今の記憶を持ったまま生まれて、何も考えないでユラユラ漂っていたいんだ」


「今の記憶?」


「そう。今の記憶がなかったら広い海に出たいとかナイ物ねだりしちゃうでしょ」


海に出たら漁師とか鳥。


自分より大きな魚に食べられたり


危険がいっぱいだって知ってたら


「行きたいとは思わないでしょ」


そう相葉さんは笑いながら


ソファーに座る私の横に腰を下ろした。


「俺って臆病者の小心者でしょ」


「そこに悪い人も付くんじゃなかったっけ」


相葉さんと初めてキスをした。


人生3人目のキスは、ゆっくりとしてとろける様な感触


【もしも】


この魚の動きが止まったら辞めようって思ってたけど


魚は止まっても相葉さんのキスに魚の事はなかった事にした。


「キスが上手なんですね」


「こういう方がお好みですか?」


耳を舐められるのは初めてだった。


耳から首筋に移動する相葉さんの舌は温かくって


何もかもどうでも良いと思ってしまうほど心地良かった。


水槽の音と光だけが大きく主張する部屋の中で泳ぐ魚を見て思った。


「この子は昔の記憶があるのかな」


「どうだろうね」


ソファーの上で絡み合う2人を


コノ子はどう思ってるのかな。


思った瞬間に相葉さんの舌がおへその下に移動するのを感じて我に戻った。


「イキナリじゃヤダ?」


胸の谷間から相葉さんの方目だけが見える。


「シャワー浴びてからにしますか」


そう言って立ち上がり


バスルームがあると思われる方向へ歩いて行った。


「この部屋をよく知ってるんですね」


「ここしか水槽ないしね。お気に入りとでも言うのかな。1人でも泊まった事あるよ」


最初会った時は女に苦労しないイケメン一流企業のサラリーマンだと思ってたけど


時々見せる影がある横顔に何か判らないけど惹かれてしまう。


「1人が好きって言うのかな。別に1人じゃなくても良いんだけど」


「だけど?」


「自分が素に戻れる静かな場所が欲しくてね。聞いたと思うけど」


相葉さんの彼女は24歳。


「25歳って女の分疑点みたいな感じがするでしょ」


四捨五入して30歳になる節目の年。


「結婚を意識し出して、

そんな感じのアピールとか彼女の周囲からのプレッシャーに流された方が楽なんだろうけど」


「ろうけど?」


「愛してる?って聞かれると引いちゃうんだよね」


「引いちゃう?」


「愛してるかって考えたら愛してないしね」


「愛してない」


「って言うよりも、愛って何?って感じかな」


「何って感じ?」


「そう。これから生活を共にして行く自信もないし、

プライベートに踏み込んでも欲しくないし重いって判る?」


「重い?」


「私はこんなにアナタを愛してるのに!系ってイヤなんだよね」


「どういうのが相葉さんは良いの?」


「縛られない関係っていうのかな。

こういうさ優奈ちゃんみたいに恥も見栄も捨てて

何を考えてるのか知ってても、そばに居ても苦にならない感じ」


「私って苦にならない?」


「最初は積極的な感じだったけど、あれって作ってたでしょ」


「うん」


「今の優奈ちゃんが本当の優奈ちゃんだと思う」


「うん」


「多分、夏美ちゃんも本当はああいう子じゃないと思うよ。

智子ちゃんに関してはスゴク影があるね」


「スッゴイ!当ってる!」


「人は目を見れば判るよ。あと瞬間に感じる空気とか息遣いとか」


「相葉さんって何かイイ!」


「やっぱり、そうやって笑うと17歳って感じだな」


「どうせ17歳ですよ」


「妹っていないけど、こういう気持ちなのかな」


「どういう気持ち?」


「色恋沙汰とかコネだの何にも考えずに可愛いって思えるって」


「それって喜んで良いのか判らないんですけど」


相葉さんの唇が私の唇に触れた。


「妹とはキスしないと思いますよ」


「近親相姦的かな」


相葉さんの事をお兄ちゃんと呼んでみた。


お父さんと弟と最後に入ったのは小学1年生の時。


それ以外の男の人と初めてお風呂に入った。


色恋沙汰が全くない相手との洗い合っことは違って、


ボディーソープを使っての前戯のような行為。


相葉さんとのSEXは経験した事がない事だらけで


イクって感覚はこういう事だって事まで感じた。


事を終えたのに、未だに舐められてるような余韻。


頷くだけしか出来ない私の体が今どうして欲しいのか。


「おやすみ」


相葉さんは判ってるように強く抱きしめてくれた。


心地良さまで感じる相葉さんの匂いと体温。


YUIちゃんを忘れる為に選んだ男とのSEXで女としての悦を知り


傷付いてた心までも何かに満たされて眠りに付いた。



電話の音で目が覚めたらチェックアウトぎりぎりの時間。


「ここの501だからさ。今度は泊まりにおいで」


ホテルを出てタクシーで向かった先は


一目見て高そうだと判るマンションの駐車場。


「何処まで送って行けば良いのかな?」


鍵を取り出しロックが解除された車を見て一瞬驚いた。


「もしかして相葉さんの車ってコレ!?」


「ん?そうだけど」


「もしかして本当は、ヤクザか何かですか」


左ハンドルの外国車に乗ってるなんて、ヤクザか社長だけだって思ってた。


「そういう系なら外資だからマフィアかな」


他の2人もベンツだと知った。


助手席はお父さんの国産車と違って広く感じて走ってる音まで優越感をくれる。


「頭良いというか。ある意味感心しちゃうな」


夏美達はそれぞれ帰ると言って


タクシー代として1万円づつせびって実際には近くのファミレスにいた。


「相葉さんって言うのもな」


「じゃあ何て呼んでイイ?」


「皆はこうって呼ぶけど」


「公お兄ちゃん」


「それなら、お兄ちゃんで良いよ」


彼女になりたいとは思わない。


相葉さんに彼女がいる事を知り自ずと一線を引いてた。


でも、彼女に罪悪感とか悪いとかいう気持ちは全くない。


それどころか優越感に満ち溢れ気分が良いぐらい。


「じゃ連絡待ってるよ。じゃあね」


車を降りる足先まで自然と揃う。


昨日の食事代もホテル代も全て相葉さんの支払い。


私が使ったのは待ち合わせの場所に来るまでの電車賃だけ。


暖かい懐にも影響され


相葉さんに開発された自分が大人になった気がする。


愛だの恋だの関係なく


素の自分として付き合える不思議な関係。


「それってセフレじゃないの?イイのそれで」


「ちょっと夏美!声が大きいって!」


昼前のファミレスは子供連れの家族も多くて


一瞬で周囲の視線が突き刺さってくるのを感じた。


「良いんじゃない?優奈ちゃんが良ければ。イイ顔してるし」


「何?相葉って人そんなテク持ってたの?」


「凄かった!もうメロメロだよ!」


いつも夏美達の会話の内容が


声も大きくってスゴク恥ずかしいって思ってたけど


もう周囲の事なんか気にもならない。


「智子でいいよ。私も優奈って呼んでイイ?」


ただ自分達が楽しければイイ。


一線を越えてどんどん染まって行く自分が大人の女に成長してる気になってた。

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