表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
disappear  作者: 黒土 計
23/71

chapter1 写真

【YUIちゃんから連絡来た?】


3学期の始業式の帰り道。


やっぱり学校には来なかった夏美から届いたメールに


「来た!」とだけ返信したと同時に電話が鳴った。


「え〜いつ?」


ギリギリ遅れた誕生日と大晦日の夜は内緒にして


「何喋ったの?聞かせてよ!」


好きな食べ物とかそういう他愛のない話だけ教えて


夏美達とは付き合わないで欲しいと言われた事と


【俺の彼女】と言ってくれた事は


何故か言わない方が良い気がして話さなかった。


「あ〜学校?今更遅いし」


いじめの原因になるのなら学校の規則として化粧ぐらい許してくれてさえいれば夏美は来たのかもしれない。


「現役の本物として制服着ておきたいしね!

14日からまた追っかけに行くけど今暇だからさ。

いつもの場所でお茶しよう!じゃ明日ね」


学校には来なくても、会う時は何時だって制服を着ていた夏美。


2学期の時点でもう3年には進級できないって覚悟してたのかもしれない。


いじめられ続けた時代とは縁を切って


希望を持って入った高校で化粧と言うネックに決断の時を迫られている夏美が可愛そうで。


あんなに楽しそうな笑顔をしていたのに


メンバーには要注意人物扱いされてるなんて事は絶対に言えないって思った。


何でも言って悪い所や直した方がイイ事を言うのが親友の役目だと思ってたけど


どんな事があっても


どんなに人が悪く言おうが


変わらぬ付き合いで何も言わずに見守るのも親友だと


卒業式に聞いた小学校の校長先生の話を思い出した。



「ねえ。あんた将来どうするのよ」


家に帰ると就職するのか進学するのかお母さんに聞かれたけど


「うちにはそんなお金もないし、どこに就職するのかそろそろ考えなさいよ」


赤点で補修を受けてるレベルの私には就職の道しかなく


「夢って言うか本当になりたい物はないの?」


やりたい事もコレと言ってないけど、唯一思い浮かんだのは


YUIちゃんのお嫁さん。


ミカンを食べながら小言を言うお母さんの横でコタツで寝転びながら1人別世界に浮かれている時だった。


「そう言えばコレ。何か判らないけど何て読むの?アブライ?ユイ?」


ユイ?お母さんの手に1枚の白い封筒。


「ちょっと!先に言ってよ!」


ここで見ればいいじゃない!と言われるが早いか、すぐさま2階の部屋に入って鍵を閉めた。


何の絵もない1枚の白い封筒の裏にはYUIちゃんの名前と住所。


今すぐ見たいけど、封筒もキレイに取っておきたい。


中身を傷つけないように、カッターナイフを入れた。


中から手紙に包まれた写真の端が見える。


手紙を読んでからにするか写真を見てからにするか。


もう嬉しくって興奮し過ぎて


そんな事さえ悩みになるほどドキドキしまくった結果まずは写真から見る事にした。


写真はステージ衣装で1人で上半身が写ってる写真と


部屋かどこかで微笑むYUIちゃんの2枚。


2枚目の写真は、私が知ってるYUIちゃんの顔をしていて思わずキュンとする。


その写真にYUIちゃんの温かさを思い出しどれぐらい時間が過ぎただろう。


途中で何度か手紙の存在が気になったけど何が書いてあるのか怖くて


少し時間をおいて勇気が出てから読んだ。



優奈へ


この前のライブは出る予定じゃなかったけど行って良かった。


ライブも打ち上げも良かったけど


何よりもお前の尺八が気持ち良かった。


また行ったら尺ってくれ!


優奈が欲しがってた写真を送る。


誰にも見せたり言うなよ!


この手紙は読んだら3秒以内に焼却して処分してくれ。


じゃあな!  油井


【何コレ・・・】


最悪!


本気でお母さんの前で開けなくて良かった。


絶対に見られては困る!


見せられない!


自分で読んでいても恥ずかしくって耳たぶまで真っ赤になった。


でも嬉しい・・・


すっごく嬉しい!!


嬉し過ぎて涙が出る。


3秒以内に燃やせと書いてあるけどそんな事できないよ。


2枚目の写真を見ながら会いたい気持ちが溢れすぎて


切なくて苦しくって悲しい。


近くにいたら今すぐ会えるのに


YUIちゃんの近くに行きたい・・・


いつまた来るか判らないライブの日程を待つしかない今の状況が変わればイイのに。


こんなに離れた場所に私を産み落とすなんてコウノトリは意地悪だって思った。





「転勤?」


東京でも埼玉でもいいから千葉県の近くだったら何処でもイイと思った。


「その前にお前は地図を見ないと千葉県がどこかも判らんのか?」


大手企業だけど、お父さんの会社に転勤という言葉はなく居間にいる用は終了した。


どうして私はココに生まれてしまったの?


千葉県内だったら、少し離れて東京でも良いじゃない!


神様のバカ〜!って本気で涙してると夏美から電話が鳴った。


「大変だよ!明日会うからって思ったけど」


篤君がクビになった事だけを夏美が興奮してるのかと思った。


「トキ君のファン達がね、優奈とトキ君がヤッタって勘違いして超怒ってて」


「トキ君のファンが怒ってる?」


「トキ君のファンってリザードに入る前からの子達で超濃いの!

他のメンバーはヤッテ当然ってファンも思ってるけどトキ君だけは別存在だから」


「濃いって?」


「熱狂って言うか信者的って言うかさ」


「でも、ヤッテないし」


「言ったよ!知ってる子がいるから今電話して

トキ君はゲームしてただけで優奈もヤッテナイって」


「何か面倒だね」


「うちらは他のメンバーとヤッタけど、神に誓ってトキ君は本当にしてないって。

一応判ってくれて他の子にも伝えてくれるけど」


「でも、2度と行かないから」


「それがさあ!!」


YUIちゃんと約束した事だし


正直、2度と行く気も会う気もない。


私がライブハウスに行かなければ済む話なのに。


興奮しきってる夏美の電話に面倒臭さまで感じた。


「それで終りそうにないんだよ」


「誤解を解きに来いって事?」


「違うよ!この話をREI君から聞いたんだよ!」


「え?」


「今日ゴッドのライブに智子が東京行っててREI君に聞かれたんだって!

お前らアノ日リザードと乱交だったんだって?って!」


「REIさんが言ってたの?」


「智子は優奈はヤッテないって言ってくれたらしいけど、絶対にYUIちゃんもさ」


「YUIちゃんも」


「打ち上げには来るみたいだし本当にヤバイって!ちょっと聞いてる?優」


電話を切った。


もしかしたら打ち上げに行く前にかかってくるかもしれない。


でも、もう遅い。


どうしてキャッチに気付かなかったんだろう。


【只今の伝言まず1件目 


今日の午後10時・・・】


YUIだけど、

今日はREIのトコのライブの打ち上げに行って来るから電話繋がらないと思う。


また明日な!


かけ直したYUIちゃんの携帯は圏外だった。


何も知らないYUIちゃんのいつもと変わらない優しい声が余計に苦しい。


また明日っていう声に心が引き裂かれる。


お願い信じて下さい・・・


微笑む2枚目の写真を抱いて祈った。


悲しくって息をする行為がこれほど苦しいとは知らなかった。


昨日死んでしまえば良かった・・・・


来るかもしれない崩壊の時を前に手も足も私の肉体が全てバラバラになってく感じがした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説の人気投票です。
投票していただけると励みになります。(月1回)

ネット小説ランキング「disappear 」に投票する

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ