chapter1 秘密
元旦は親戚の家に行った。
「1人ぐらい若い子がいないと淋しいからね〜」
毎年兄弟が多いお母さん方の実家に親戚一同が集まってスキヤキをするのが定番だったけど
私と同世代の子達は恋人と初詣を理由に挨拶だけ済ませて帰って行った。
「この子は気は強いし掃除も料理も何にも出来ないし!判るのよ。男の子の方も!」
私に彼氏がいないのがそんなに悪い事なのか?
本人を目の前に止まらない愚痴に母方の1番上のおじさんが口を開き
「正月早々可愛そうだろ。優奈も好きな男の子ぐらいいるんじゃないのか?」
私の「いるよ」と
お母さんの「いないわよ!」の言葉が同時にかぶった。
「あ〜間瀬君ね。何時までも見苦しい」
私の事は何でも知ってるとばかりに話しまくるお母さんの口を圧し折るにも
淋しい女の子だと思われてる私のプライドの為にも「別の人」という言葉を吐いた。
お母さんという物は娘の事は何でも知っていないとイケナイ者なのか。
「別の人」に関する質問攻めに食べながら答えてたけど
「千葉県の人って何処で知り合ったのよ」
いつ・何処でまでは話せる。
けど、居酒屋で打ち上げに行ってキスをして
初めて会って数時間後の朝には
途中までだけどHをしたなんて絶対に言えない。
言葉に詰まった私に助け舟を出したのはお母さんの2つ年上のおじさん。
「優奈も17歳になったんだし遠距離恋愛の方が親は安心だろ」
おじさんのお蔭でやっと終了した尋問は、
結果的に幸運にも、いつかは言わなければならない
私にも【男】がいるという事をお母さんに認識させる良いきっかけとなった。
「スキヤキか〜良いな。俺なんかコンビに弁当だぜ?」
電話をかけたのは夜10時。
合同で打ち上げ後YUIちゃんはそのまま帰って
浅見君は開店からスロットに行き大負けをして今は眠ってるらしい。
「YUIちゃんは、親戚の家とかに行かないの?」
「俺?22歳だぜ?」
成人者にもなると結婚していない限り
正月だからと言って別に集まるとかそういう事はなくなるのかな・・・・
ちょっと淋しいけど、現に弟も彼女と挨拶だけ済ませて帰って行った。
「あれだろ。お前今日の朝のご飯って、おせちと雑煮食っただろ」
「え?何で判るの?」
「本当に普通の家庭の子って感じだよな」
「普通で悪いですか?」
「いや?そういう事じゃなくって、何か俺も大事にしてやんないとイケナイって言う気分になるよね」
「大事にして下さい」
「してるジャン。今だって電話してるし本当はさあ」
「本当は何?」
「マズイんだよね。こういうのって言うか」
「こういうのって何?」
「ほらファンの子にばれたりする可能性があるじゃん。女って嬉しいとすぐに言い触らすからさ」
「トキ君も同じような事言ってたよ?」
「トキ?トキってリザードマンのトキ?何でお前知ってるんだよ」
あの日の事は、言ってはイケナイ気がした。
「あ〜夏美達か。リザードマンってカッコ良かっただろ。トキが加入してから勢いが増してさ」
トキ君とは何もナイ。
他のメンバーとも夏美達がしてただけで、私はその部屋にいたけれど
別に話してただけで何もナイ。
でもYUIちゃんの声色が変わったのを感じて言ってはイケナイ気がした。
「そう言えば、夏美達に今度いつ会うの?」
「約束はしてないけれど、また一緒に遊ぼうねって言われたよ?」
「会わないでくれとは言わないけどさ」
「言わないけど?」
「ライブとか、そういう所には一緒に行動しないでくれないか?」
「どうして?」
「あいつ等さ評判悪くってさ。特に智子と夏美は要注意人物でさ」
「要注意?」
「俺らバンド仲間の間では気をつけてるんだよ」
「何を?」
「例えば、ほら。SEXしたと言い触らしたりしてファンの子達にバレルしさ」
「バレルといけないの?」
「お前は本当にバカだよな!ファンがいなくなったらどうするんだよ!」
「大変な事なの?」
「大変って事もお前には判らないか」
「うん。ゴメン」
「まあ、大変なんだよ。バンドをしていく上でさファンって大事なものなんだ」
「へえ・・・ファンになりたい」
「なればイイジャン。俺だけのね!まあ、何も判らないって言うより、ボケてるお前には単刀直入に言った方が」
そう切り出した話の内容は
ライブハウスに出入りしたり
バンド系を追っかけたりと言うよりも夏美達とは付き合わないで欲しいと言った。
「心配だからさ」
YUIちゃんは気付いてないと思うけど
何を心配してるかっていう事を
バカな私でも何かは判ってた。
「じゃあ、夏美はしょうがないとしよう」
夏美は私にとって親友だと判ってくれた。
家に泊まりに行ったり遊んだり
バンドに関する事じゃなければ許すと言った。
「浅見起きたからさ、じゃ〜また明日!おやすみ」
私のおやすみの言葉に少し笑ったような声が聞こえて電話が切れた。
YUIちゃんの声を今日も聞けて嬉しかった。
私の事を思ってくれてる事をさらに感じて。
でも、電話の内容は嬉しい気持ちよりも
夏美達と緯線を引かなければ付き合えない。
トキ君との事も隠していかないとイケナイ事に苦しさを感じた。
本当に何もトキ君とはナイ。
ただ夏美に誘われて、アノ部屋に何も知らないで泊まっただけ。
言った方が良いのかも知れないけど何故か言えない。
YUIちゃんは何も知らない。
物凄い罪悪感というか心に引っかかってしまう。
もし言ったらどうなってしまうんだろう・・・。
近くだったら会って話して判ってもらえるかもしれない。
でも遠い・・・
まだ数時間しか会ってないし
私もYUIちゃんの事を何も知らない。
YUIちゃんも私の事を知らないし信じてくれないかもしれない。
電話を切られたら全てが終っちゃうかもしれない。
私はそういう女じゃない。
もっとYUIちゃんに自分の事を知ってもらって信頼関係を作ってからの方がイイ。
そう感じた深夜2時。
YUIちゃんとの恋が上手く行きますように。
そう願って手紙を書いた。