chapter1 初めてのカウントダウン
YUIちゃんに出会って初めての大晦日の夜。
「優奈も一緒に来なさい!今年こそ!ってアンタが1番願わないといけない子なのに」
「お姉さんも一緒に行きましょうよ」
弟の裕貴は中学時代の同級生と交際を始めたらしく
付き合い始めたばかりだと言うのに早くも彼女は我家族の一員のようで
「可愛そうな姉ちゃんにも幸せが来ます様にって願って来てやろうか?」
こんな一々ムカツク弟には勿体無い器量の良い彼女に誘われて
「優奈が出来ちゃった婚でも良いからお嫁に行けますようにって、お父さんが願ってきてやるからな!」
頑固で仕事人間は未来のお嫁さんの存在に安泰したのか。
最近はつまらないジョークが出るまでに進化したお父さんも
紅白の結果を待たずに初詣へ出かけて行った。
屋台も出てるし同級生に偶然出会えたり楽しい事があるかもしれないけど
何度も作り直して完成した明けおめメール。
0時ジャストに送信したい。
あと10分と、握り締めた携帯に
YUIちゃんの名前で着信した。
「もしもし優奈?YUIだけど」
バースデーメールすごく嬉しかったって事を伝えたら照れ隠しなのか
「おう。そっちは寒いか?」
照れた笑いが聞こえただけで話は変えられた。
今日もライブ。
「うちからはREIが出てるからさ。俺今暇人なんだよね」
今はカウントダウンに向けて出演してる
バンドのメンバーから選出された人だけが
ステージに上がってセッションしてるけど
YUIちゃんは出てないらしい。
「初詣か。で、お前は何で行かないの?」
「0時になったらメールを送りたくって」
「俺に?」
「うん!」
「じゃ、電話切ろうか?」
「ヤダ〜!後で送るからイイよ!」
1人真剣にYUIちゃんの言葉に焦りまくって
茶化されるほどに、甘えまくって。
間瀬以来、本気で心から好きだと思える男の声に幸せをかみ締めてた。
今までテレビの中継で
カウントダウンを楽しそうな顔をして映ってる芸能人を見て
何がそんなに嬉しいのかって判らなかったけど。
今の私には判る。
好きな人と電話越しだけど、今年から来年へ年越し出来る。
今どんな顔してかけて来てくれてるんだろう。
どんな・・・??
YUIちゃんの顔を想像してみた時に、
誰か違う顔と重なってしまう事に気が付いた。
「冗談きついな」
「思い出せないっていうか」
「は〜!?マジで?」
「憶えてるよ!でも思い出す度に微妙に違って来るって言うか」
「本当にボケてんな」
「夏美達に写真もらおうかな」
「多分あいつら俺のは持ってないと思うけど」
「じゃあ、YUIちゃんが下さい」
「写メとか、そういうの苦手なんだよな」
「写メじゃなくって写真が欲しい」
「写真?何送れって事?無理!」
「写真だけじゃないよ?」
「嫌だね」
「手紙も欲しいな〜」
「手紙〜!?俺に書けって?ふざけんなよ。じゃ、お前が書いて来いよ」
「うん!書くよ〜。今から書いちゃおっと!」
「マジで?まあ、メールより手紙の方が」
「手紙の方が?」
「ファンの子にファンレターもらうじゃん?
手書きっていうかメールと違ってさ何か嬉しいよね」
「ファンレターもらうの?」
「REIとかほどはないけど、まあそれなりにね」
「ふ〜ん・・」
「何?ヤキモチ?」
「破裂して中身が出そうです」
「ちょっと出した方が良いんじゃねえの?」
「え?何を?」
「アホをよ」
茶化されて馬鹿にされてるのさえ嬉しく感じる。
素直に甘えたり
拗ねてみたり。
その中でふと思った事。
「お前の事?」
YUIちゃんは私の事を
憶えてくれてるのか確認したくて。
勇気を出して聞いてみた。
「俺は憶えてるよ。って言うかお前のフェラは本当に良かった!」
「そうじゃない!顔とかの事だよ」
「じゃあ、俺が何言ってたかとかって憶えてる?」
「憶えてるよ」
「顔だけ忘れそうなの?後は何覚えてる?」
「正確なのは声」
今だって聞いてるし、あと匂い。
臭いとかじゃなくって何て言うのかな・・・
「へえ〜お前って匂いフェチなの?」
違うけど・・・
そうなのかな・・・
何か思い出す度にキュンって言うかね?
会いたくなるの
「俺も会いたいよ。あ!そろそろカウントダウンだぜ?」
ふいに言われた一言。
【俺も会いたいよ】
その言葉にノックアウトされた事など気付かずか
YUIちゃんが数え始める。
5
4
3
2
1
携帯電話でだけど
YUIちゃんと初めてのカウントダウン。
「明けましておめでとうゴザイマスだろ?日本人の正月はよ〜」
「YUIちゃんて古風なんだね」
「俺?かなり古い人間かも。頑固じじいクラスだね」
「あと怖い人だっけ?」
「あ〜俺?怖いって言われるより、冷たいって言われるかな」
「冷たいの?」
「あ〜手足がね。結構ね」
「そうなの?私もね冷え性なの」
「冗談だよ。そっちの冷たいじゃねえよ」
「そうなんだ。優しい所しか知らないから」
「お前には冷たくはならないと思うけど、何かしたらなるかもな」
「何かって例えば?」
「例えばか・・・悪い事しなければ大丈夫」
「万引きとか?しないよ。それで一生汚点になるのイヤだし」
「そう言う事じゃないんだな・・・・
まあ、夏美達とはアレからつるんでないの?」
「うん。今日はそっちにいるみたいだよ?」
「マジで?お前も来れば良かったのに」
「え?」
「あっじゃあ呼ばれたから。明日はお前がかけて来いよ。電話代かかるし俺貧乏人だから」
「何時に?」
「別に24時間OKかな。寝てたら俺絶対に出ないからさ。何時でもいいよ忘れるなよ?じゃ〜な」
メンバーが来たのか急いで電話が切れた。
電話が切れてから、もう30分も経つのに興奮が収まらない。
それどころか1分。
また1分。
時間を追う事に盛り上がっていく恋心。
「もう最高に、幸せ〜!!」
声に出したら、さらに喜びは高鳴る。
私とYUIちゃんは絶対に赤い糸で結ばれてる。
だって、こんな出会い方って。
一目惚れとは違う何て言うのかビビビビビ!って感じて。
「お前にはしないから・・・だって!」
鏡の前で、最初に会った時に言われた言葉を
YUIちゃんの真似で口にしてみる。
あ〜会いたい・・・
こうやってギュッと抱きしめて欲しい。
頭を撫でて欲しい
そしてキスして欲しい
今すぐ会いたい。
背筋を伸ばして座りなおし
鏡はYUIちゃんから見た私。
じっと見つめ目を閉じて
「優奈!?ちょっとアンタ何してるの!?」
鏡に映る自分にキスする所をお母さんに目撃され
「鏡見てたら寝ちゃったのかな?」
思いついた言い訳も虚しく
「本当だって!ちょっとぶつかっただけだよ!」」
「あ〜新年早々!本当に情けない子だよ!!」
淋しい娘だと思われてる自分を撤回している間に
YUIちゃんから住所が書かれたメールが届いていた。