chapter1 ありがとうが言えた夜
夏美のお母さんから電話が来た。
どうして母親同士が話しをする時って、こうも語尾が長くなるんだろう。
本当に不思議だ。
にしても高校の友達って何かと便利である。
中学の友達は近所だからお母さんも
「あの子ちょっと評判が悪いからダメ!」とか言って
遊ぶどころか電話すら繋いで貰えなかったけど
高校の友達って私の会話でしか実情はわからない。
「夏美ちゃんってどんな子なの?」
2学期から学校にほとんど来てなくって
久しぶりに会ったらキャバ嬢みたいに変わってた何て言ったら
明日の計画も今後の付き合いも許してはくれない。
「普通だよ。じゃあ、明日の準備があるから」
「準備って何?」
親に秘め事があると、普通の会話さえドキドキして、
余計な言動に突っ込まれる前に一目散で部屋に上がった。
「キレイ系なんて・・・ないんですけど」
こうして改めて自分の持ってる服を見ると大人っぽいものって1つもない。
ちょっとセクシー系に見える服は夏物だし、着まわしたってカジュアルにしか見えない。
お母さんのじゃ、サイズは少し大きいだけだけど、お洒落な感じの服なんて見た事がない。
子供と着回ししてるんですってテレビで見るお洒落なお母さんの子で生まれたら悩まなかったのに。
ダメ元半分に部屋を出た。
「何でよ。夏美ちゃんの家に行くだけでしょ?」
これ以上言うと何か察する。
ここで引くのも逆に怪しい。
言い訳に困ってる私をよそに
コタツから這い出たお母さんが紙袋を持って来た。
「しょうがないわね〜。はいコレ!」
「何これ?」
「本当は誕生日に渡そうと思ってたんだけど。
ほら!あんた連れて行って好きなの選ばせるといっつも同じようなのばっかりでしょ!
だからお母さんがちょっと外行き用に買っといたから。」
2日前に終ってしまったクリスマスの包装がされた
プレゼントの中身は黒のパンツスーツ。
「エ〜!ヤダ〜!こんなのいらないよ!」
「何言ってるの!せっかく買ってきたのに!イイから着てみなさい!」
期待した分だけがっかりした
何も捻りもない、ただのパンツスーツ。
袖を通してみるけれど似合わない。
何か大人っぽいと言うより着せられた感じ。
「やっぱり似合うじゃない〜。
店員さんが着てるのをみて同じの買って来たの!」
落胆してる私をよそに
万遍の笑みで喜びをかみ締めるお母さん。
「ちょっと待ってなさい!お母さんが中に着る物貸してあげる!」
タンスの中からいろいろな物が出て来て
絶対に似合わないって思ってたけどバッグにコートまで。
「ほら!完璧じゃない!髪をちょっと上げてみたら?」
ファッション雑誌というよりは新聞広告のモデル的だったけど、
今まで着た事がない服装で鏡に映る自分に少しドキドキした。
「あら!大変!クツ!ちょっとアンタ来なさい!」
お母さんというより、お姉ちゃん?
最近は何かとウザイって思ってたけど自分の事のように盛り上がってるお母さん。
久しぶりに心から「ありがとう」って言えた夜だった。