表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
disappear  作者: 黒土 計
19/71

chapter1 17歳の誕生日

「ちょっと信用できないわ。はァ〜ってしてごらん!」


家に帰って早々


お母さんにタバコを吸ってないかチェックを受けたけれど


帰ってくる最中に何枚もガムを噛んだおかげか


チェックの結果は【白】


吸った事はバレズに済んだ。


「アンタのお昼ご飯ないわよ。何でこんなに早く帰ってきたの?」


ホテルを出たのが朝10時ぐらい。


そのまま電車に飛び乗って夏美とは最初に待ち合わせした駅で別れ


家に着いたのは昼の12時前。


最初は夕方6時までに帰る予定だったから


偽装工作にカラオケでも考えたけど


丸3日間ほとんど寝なていない夏美にそんな体力は残ってる訳もなく。


家に帰るまでの間に思いついた言い訳は


(夏美がお母さんと出かけるから)という事にした。


「ライブハウスってさ、教室よりも狭いんだよ!そこに200人以上の人がね」


コタツに入ってミカンを食べながら


タバコの匂いが消えない服に消臭スプレーを振りまくってるお母さんに


リザードマンのライブを手振り身振りで教えた。


「もう判りました!」


「いや!絶対に判ってないです!スッゴイんだって!本当に!」


あの興奮は絶対に見た者しか判らない。


話してるとさらにあの感覚が!


興奮冷めやらぬ私をほっといて


お昼のつまらないテレビに夢中になるお母さんの横でいつの間にか眠ってしまった。



「ハッピーバースデー!」


深夜30日に日付けが変わったと同時に携帯が鳴った。


「優奈ちゃん誕生日おめでとう」


智子に麻紀ちゃんも。


夏美達は、東京行きの夜行バスからかけて来てくれた。


今からリザードマンを追いかけて


今日のイベントと別の場所で行われる年越しイベントに行くらしい。


平凡な我が家の変わらない生活に帰った途端


携帯のアドレスにある名前は何かの間違いで


昨日の朝までの事は夢だったのかもしれないと思ったけど


携帯の向こうから聞こえる3人の大爆笑に


27日の夜にYUIちゃんに出会って


28日にトキ君に会ったのは夢じゃなくって


本当に私が経験した事実だと確信した。


【YUIちゃん】


今頃何処で何をしてるのか。


今日は私の17歳の誕生日。


あの時に言ったはずだけど覚えてるかな。


自分からメールで今日誕生日なの!なんて催促がましい。


どちらかと言うと向こうから来て欲しい。


送信はしないけど新規作成でYUIちゃんの名前を入れてみた。


表示された名前の下の長い配列。


youkosokokohe929929@×××


ようこそここヘクニククニク?クツククツク?


「ようこそ ここへ クッククック!」


思わずメロディーが頭を駆け巡り噴出して笑ってしまった。


テレビで何度か懐メロの番組で聞いて、その度にお母さんが続きを歌いだすから知ってる歌の一部。


もっとカッコイイ系か単純かと思ったら


一体どんな顔をしてこのメアドを考えて決めたんだろう。


予想外にメアドが可愛くて


YUIちゃんの事で知ってる事が増えた気がして嬉しくなった。



「姉ちゃん。今年も彼氏がいない誕生日おめでとう」


「うるさいな。先月まではいました!」


本当に一言一言ムカツク弟から


一応お祝いの言葉を頂き


「来年の誕生日こそは、嘘でも良いから彼氏とデートだからって言いなさいよ。

本当に今が1番楽しい年頃なのにもったいない!ほら!早くロウソク消しなさい!」


そして面倒くさげな拍手。


全然嬉しくない家族との誕生日を過した。


私の17歳の誕生日は


自分の部屋の大掃除と


お父さんとお母さんと車に乗って正月準備の買出し。


そして毎日顔を合わせる家族とケーキを食べるだけで今年も終了。


唯一電話やメールをくれたのは


夏美達とクラスメートの女子のみ。


今日も平々凡々と時間だけが過ぎて行く。







「終了〜!」


17歳の誕生日が終った。


「あ〜!こんな時、トキ君だったらメールぐらいくれたかも!」


やっぱり男友達として


トキ君と番号交換すれば良かったと後悔した時に携帯が鳴った。


携帯に表示されたのはYUIちゃんの文字。


思わず咳払いをして発声練習をしてから電話に出た。


「もしもし優奈? YUIだけど寝てた?」


「ううん。起きてたよ。YUIちゃんは?」


「は?・・・・起きてるから、かけてるんですけど。お前は相変わらずボケてるな」


緊張し過ぎて、会話にならずバカ撃沈。


言い訳する頭も回らない私のボケを流すかのようにYUIちゃんが話し続けた。


「うわ〜マジ寒い!」


「今何処にいるの?」


「今さ打ち上げしてて。ちょっと外に出て来た」


「今日もライブなんだ」


「明日もやるよ。ってか明日が本当の年越しだからね。ってまあ、そんな事は置いておいてさ」


「置いといて?」


「その・・・」


「その?」


「よし!一気に言うから、よ〜く聞けよ?いいか?」


受話器から一呼吸大きく吸う息が聞こえて


何を言われるのか緊張が走った。


「ゴメン!憶えてたんだけどタイミング逃したって言うか」


「え?何を?」


「最初はメールの方が良いかなって思って打ったけど、やっぱり電話かなって。

でも夜中じゃ寝てるかと思って昼間にしようと思ったんだけど

メンバーの前じゃかけにくくてよ。

で、打ち上げ行って乾杯した後に間に合うと思ったら捕まって」


「え・・警察に?」


「違げ〜よ!ファンの子達に捕まって蹴散らしてきたけど」


「はぁ・・・」


「で!ギリギリ過ぎちゃったけどよ」


「何が?」


「誕生日おめでとう」


「え?・・・あ・・りがとう」


「あれ?何か反応って言うか感動薄くねえ?」


「で、続きは」


「続きなんてねえよ」


「よ〜く聞けって言うから」


「お前の事だからボケ〜としてんじゃねえかと思ってよ」


「してないよ!」


「じゃあ、言いたかった事は判った?」


「ギリギリ過ぎたけど・・・」


「判ったならイイ」


「判りません。」


「はあ!?」


「もう1回言ってくれないと判らない。」


「2度と言わねえ」


「え〜!?最後だけもう1回!」


「お前判ってるんだろ!?ムカツクなあ!!」


「じゃあ言わなくても良いもん」


「絶対に言いません」


「打ったメールを送って」


「いや・・・消した・・・かな?」


「本当は打ってないんでしょ!」


「マジで打・ち・ま・し・た!」


あー言えばこう言う。


こう言われれば、あー言う。


メールの内容はさておき


ムキになって送信拒否する


YUIちゃんとの勝敗は


【私の勝ち】


「あ〜!しつけえな!判ったよ!」


「嬉しいな♪」


「まあ取り合えず俺、打ち上げに戻るわ」


「今すぐだよ?」


「判ったよ。じゃ、また電話するから」


【おやすみ】


最初に言ったのはYUIちゃん。


続いて私。


そして数秒の沈黙。


「って何で切らねえんだよ」


「え?YUIちゃんが切れば」


「それでイイの?」


「何が?」


「ほら。先に電話を切る男は何タラって」


「何って言うの?」


「お前わざと言ってるだろ」


「何を?」


「今日の所は、まあイイ。また電話するから」


「うん」


「じゃあな」


その言葉でYUIちゃんから電話は切れた。


けど、耳から携帯を離せない。


喜びをかみ締める力が溢れた途端


「ヤッター!!!」


自分の意思ではない


体中から漲る幸せが勝手に声に出た。


かかってきた!


憶えていてくれた!


体中の血が騒ぐっていうのは、きっとこんな感じなのかな?


思わず踊りだしたくなって


ノッテ来たと同時にメールの着信音が鳴った。


送信者はYUIちゃん。


Happy Birthday 優奈という文字を絵文字の17個のケーキが囲んでる。


嬉しい・・・。


本当に嬉し過ぎると頭がフラフラするみたい。


今すぐ会いたい・・・


YUIちゃんに会いたい!


夢の中でも会えないかもしれないけど


今眠ってしまえば


この幸せ過ぎる幸福感のままなら夢の中で会えそうで。


17歳の誕生日はギリギリ遅れた31日午前0時27分。


世界中で私が1番の幸せな女の子だって気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説の人気投票です。
投票していただけると励みになります。(月1回)

ネット小説ランキング「disappear 」に投票する

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ