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disappear  作者: 黒土 計
18/71

chapter1 今日だけの男友達

時計は午後2時。


ルームナンバー【812】にリザードマンのメンバーが帰ってきた。


「マジ参ったぜ。何で泊まってるホテルがバレてんだよ!って嘘ぴょ〜ん」


さっきまで、夏美と麻紀とあんな事をしていたのに


おどけたリュウセイさんが智子にキスをした。


「俺らはさヤレルって言うのがウリなんで、分かるかい?お嬢さん」


ビキニタイプのパンツ1枚でうろつくセイジさんの姿に


未だに慣れない私は俯いて返事をするしかなかった。


今夜のカップルは、智子とリュウセイさん。


セイジさんと麻紀。


「3Pを見られるのは恥ずかしいから」


という理由で【811】の部屋に夏美と赤毛のドラム。そしてローディー君が移動した。


ローディー君は15歳。


赤毛のドラムの人のファンで手伝い始めてから


今は何処に行くにも一緒に回ってるらしく


「スッゴイ可愛がってるからさ〜。

SEXさせてやろうって親心的だよね」


「そうなの・・・?」


何か違うような気がしたけど、


トキ君の話し方は聞く者全てを納得させる力を感じた。


「う〜ん。中学生だけど俺らについて回ってるし。

もう1年ぐらい行ってないんじゃないかな」


「それで大丈夫なの?」


「俺も中学2年の頃から

5回行ったか・・・行ってないかな」


一応、卒業証書はもらったらしい。


そんな人を聴いた事も見た事もなかっただけに


それでも卒業できるって不思議だった。


「高校は行くとか行かないのレベルじゃなかったからね。

行ってたら高校2年かな」


「え?2年でやめたって事?」


「いや?通ってたら今

優奈ちゃんと同じ高校2年生って事」


「え〜〜〜〜〜〜!!!!!」


私の絶叫で、2つのベッドの上で行われてる行為が一時中断した。


「え?俺の年も知らなかったなんて。

本当に何も知らないで連れて来られたんだね」


若いとは思った。


他のメンバーに比べて肌はキレイだし若いとは思ったけど。


「俺が17歳で、セイジさんは25歳。

後の2人は24歳だから浮くのかもしれないけど」


あんなに凄いステージを見て、私と同じ17歳だっていう事に強い衝撃を受けた。


そのベーシストが今、私の目の前にいる。


思い出した光景に抑えきれない興奮が言葉になって口から溢れ出す。


最初は人並みに流されて真ん中の方で見てたけど


何がなんだか判らないぐらいトキ君がカッコ良く見えたアノ瞬間。


「トキ〜!!!!ってね!

こうやって手を伸ばして私叫んじゃったんだよ!?」


「本当に?すごく嬉しいな」


この時【静】しか感じなかったトキ君の笑顔に


【光】を感じた。


トキ君は頬杖を付きながら頷くだけだったけど


どんな時も見せなかった楽しげな顔に


話せば話すほど光が増す気がして。


今日の感動を感じた事をありのまま伝えたい!


身振り手振り足踏みまでして


同じ空間の中。2つのベッドの上で行われている情事など全く気にせず


トキ君のステージに感じた事を1人


夢中で話しまくるのを遮断するかのように部屋の電話が鳴った。


「ファンじゃないか?」


セイジさんの声にウケを狙うかのように


イキナリ全裸でリュウセイさんが受話器を取った。


「ハイ。こちらマッサージ受付です。な〜んだ。判った。」


リュウセイさんが開けたドアからローディー君が帰ってきた。


ローディー君の見張りの合図を受けバスタオルだけ巻いたリュウセイさんと智子が


【811】に移動した。


「どうした?・・・あっそう」


「どうしたの?」


「4Pするから、リュウさんを連れて来いって言われたんだって」


状況から考えれば、そんな事聞かなくたって判るのに


トキ君の前では頭で考えてる段階の事まで口から出てしまう。


出てしまうのは、言葉だけじゃない。


「お腹空いたの?コンビニにでも行ってもらおうか」


その言葉に麻紀も手を上げ、お腹が空いたと反応し


ローディー君は立ち上がっていつでも行けるとアピールした。


「何がイイ?」


「私行きますよ?」


「それはダメ。ロビーにファンの子達いるしさ」


ローディー君が出て行った後


泊まってる階が判らない様にエレベーターのボタンを全部押して上がってきたり


偽装工作で別の階から乗ったり色々と教えてくれた。


「色々って言うか。まあこの世界の常識って言う所かな」


この2日間で何個知ったのだろう。


また今後役に立つか判らない世界の常識を聞き終えたと同時に電話が鳴った。


「うん。ダメ」


生返事ばかりして電話を切ったトキ君が


テレビのスイッチを要れボリュームを上げた。


「優奈ちゃんさ。取り合えずベッドに入ってくれない?」


突然の行動に驚きを感じるよりも


急いで上着を脱ぎ部屋の電気を消したトキ君に


何やら私の身に差し迫ってる危機を感じ言われるがままベッドの中に入った。


「あれ?トキもやる事になったの?」


セイジさんの言葉に一瞬ドキッとした。


トキ君が、その言葉に返事をする事なくベッドの中に入って来て


もしかして、これがトキ君の口説く際の手とまで妄想が走った。


「緊張しなくていいよ。別に何にもしないから」


さっきの電話は【811】のリュウセイさんからだった。


トキ君が私とやらないなら


千人切りとかいう目標の為に私とSEXがしたいらしい。


「大丈夫。守ってあげるから安心して」


シングルベッドでトキ君と2人。


一瞬でも恋した男に守ってあげると言われて理性が狂い出す。


この状況で何もナイって言うのは男にとって拷問と言うだろうけれど


私も間違いを侵した方が気が楽なほどの状況。


「優奈ちゃんが、良いならヤリますか?」


「もしYUIちゃんに会ってなかったら、やってたと思う。」


「そっか〜YUIさんより早く会ってたかったかな」


「それって私の事」


好きだと言ってくれたら、拒否しなかったと思う。


でも、トキ君の口から出た言葉は


私だけが1人恋してたと気が付かせ恥ずかしささえ感じる。


「誰でも良いって言う訳じゃないけど、気分かな」


「何かトキ君に恋してたのは音楽の方だって判って良かった」


「俺も、俺の音が好きって言われる方が嬉しいよ」


トキ君が女の子に恋する事ってあるのだろうか。


全て気分で振り回されそう。


音楽と女なら確実に音楽を取るであろう


トキ君は、私が望む恋愛の出来ない男。


そう位置づけた時、部屋のドアが開いて、リュウセイさんの声がした。


「ダメだって」


そう言ってシーツから顔を出すトキ君の隙間からリュウセイさんがベッドの横に見えた。


「この子はダ〜メ!ほら時間ないよ?記録は更新目指さないの?」


「俺も混ぜて!」


「フザケンナよ。冗談だよね?」


トキ君がどんな顔をしていたのか判らないけれど


最後の言葉に拍子抜けするほどすんなりと


リュウセイさんは【811】に去っていった。



「トキ?やってないんだろ?もう大丈夫じゃねえ?」


セイジさんの声にベッドから立ち上がり


トキ君が開けたカーテンの向こうは空が明ける準備をしてきていた。


「俺さ。この時間って言うか。この空の色が好きで。

あ・・・お帰り」


ローディー君がやっと帰ってきた。


コンビニが近くになくって


やっと見つけた店には、おにぎり系もパン類も品切れ。


さらに遠くまで買いに行ってくれていた。


ローディーと言うのはメンバーから指示された事は、


例えどんな事でもどんなに時間がかかっても達成するまで帰ってきてはいけないらしい。


「ありません・できませんは通用しないんだ。

麻紀とセイジは寝たみたいだね。じゃあ、3人で食べようか」


明けて行く空を見ながらローディー君が買って来てくれたシーチキンのおにぎりを3人で食べた。


「シャケもなかったんだ。たまには良いね」


おにぎりを食べるトキ君も【静】なまま。


ベッドに入ってきた時も、3Pを誘われた時も。


唯一トキくんのライブの感想を私が話してた時を除いては何をしていても【静】しか感じなかった。


「YUIさんから電話かかってきた?この事知ってるの?」


冗談抜きで今日ここに一緒に泊まる事は


トキ君達に会うまで知らなかった。


NightFiendナイトフィーンドって俺も誰か判らなかったけど」


1月にトキ君はNFと一緒にライブをすると言った。


「もし、何かあったら俺の名前を出してイイから」


初めてトキ君が私の疑問を察してくれなかったのか


もしの意味を説明してくれなかった。


「新しい携帯になってファンには教えてないから、誰も話す相手が居ないから残念けど」


何でも話せる男友達として


トキ君とは付き合って行きたいと思ったけれど電話番号の交換もしなかった。


「それでイイと思うよ」


別に交換ぐらいすれば良いのかもしれないけど


何故かYUIちゃんにイケナイ事をしてる気がして


「偶然どこかで出会ってって素敵だよね。じゃあ」


「じゃあ?」


「握手」


いつか何処かで


運命の再会を願い握手する私達。


鏡に映る光景に何か輝きを感じた。





「またヤレル日までゴキゲンヨウ!」


嵐のように朝から激しい他のメンバーは無視して


「YUIさんとの事応援してるからね」


トキ君とローデイーさんと再度握手をして


リザードマンのメンバー達とは部屋でお別れをした。


「まだ叫んでるよ」


声は遠くなっていくけど、リュウセイさんのワイセツな言葉が聞こえる。


エレベーターに乗ったのか


聞こえなくなったと同時に3人の顔が険しくなり溜め息をついた。


「さあ〜ココからが大変だよ〜?」


「何が大変なの?」


ファン!と、3人の声が重なった。


物音も立てずに部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。


打ち合わせ通り、智子と麻紀がフロントで清算を済ます。


「優奈は誰かに呼ばれても、何があっても、私の後を追って突っ走ってよ?」


エレベーターの扉が開いた瞬間に夏美がフロントと反対側にある非常口に入り


一目散に駐車場を走り抜ける夏美の後を追いかけた。


「ココまで来ればもう大丈夫!さあ帰るよ」


「ちょっと待って」


「ダメだって!あともう少し頑張ってよ!」


なれない靴のせいか足は痛いし息切れはするし。


それでも過酷なトライアスロンの選手のように


夏美は一息つく間も与えずに


家路に着く電車の切符を買ってそのまま改札に入った。


1秒も待てない緊張から解放されたのは電車が動き出してから。


「後から電話かかってくるから、ありがとうって言ってたって言っておくね」


安堵したのか夏美から、やっと会話が出てきた。


麻紀と智子達はフロントで清算後に


ファンの人達に取り囲まれたとしても慣れてるし逆に無視されるらしく。


夏美が走った理由は


何も判ってない私の為だったらしく。


「って言うかYUIちゃんとさ。こんな風になれるって予想もしてなかったからさ〜」


「私もだよ」


「そうだ!まだ聞いてないんだけど!どうだった?YUIちゃんと何処までイッタノ!?」


今、走った事が私の為っていうのと


YUIちゃんと何の関わりがあるのか。


あったとしたらリザードマンの方じゃないのか?


興奮しきって話が混乱してるだけ。


トキ君の言葉には何かあるって思ったけど


夏美の言葉には疑問さえ感じなかった。

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