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disappear  作者: 黒土 計
14/71

chapter1 12月28日

電気も消えたロビー。


「遅っせえ〜よ」


ソファーに座る篤君の腕に智子が駆け寄り


ゴメンネと甘えた声で腕に絡みついた。


エレベーターに背を向けて座ってるのは


きっとYUIちゃん。


「おう。お前何してんだ?

また幽体離脱か?早く肉体に戻りなさい」


篤君の言葉にYUIちゃんが顔だけ左に向けた。


「コッチ来いよ」


その声に近寄るけれど、智子みたいに隣には座れない。


「何で立ってんだ?お前も座れよ」


「大丈夫です。ココの方が落ち着くし」


篤君の指示を断る声に緊張して真後ろに立つ事しか出来ない私に気が付いたのか。


ソファーにもたれ背伸びをしたYUIちゃんの手が私の腕を捕らえ。


無言のその手に引かれるまま私はYUIちゃんの隣に座る事ができた。


「まだ酔ってる?」


「ううん。大丈夫。」


「じゃ、俺の名前は?」


正解のご褒美なのか


緊張で俯く事しか出来ない私の頭をYUIちゃんの手が優しく撫でた。


「なあYUI。部屋はダメだってよ」


「ゴメンネ!夏美達もいるしさ」


今はいないと私が口に出す前に智子がかぶせる。


「ねえ!機材車で来たんでしょ?じゃあドライブ行こうよ!」


「ドライブだぁ?」


一瞬サングラス越しに不機嫌な顔に変わった篤君の顔が


耳元にささやく智子の言葉に笑みに変わる。


「しゃあねえな〜。じゃあ車で一発決めますか!?」


「ヤッダ〜!」


「おい!YUI行くぞ!」


歩き出した篤君の腕に絡み嬉しそうにはしゃぐ智子。


大きく溜め息をついたYUIちゃんも立ち上がった。


(こんなに背が高かったっけ・・・?)


前を歩くYUIちゃんの背中越しに自分の背と比べてみた。


トイレの中で抱きしめてくれた時は私の背に合わせてくれてた。


そう結論付いた瞬間に、また心がキュンと高鳴る。


智子みたいに積極的にはなれなくて


着いて行くのが精一杯だけど、背中を見てるだけで幸せ。


逆にこの方が気付かれずに見つめていられる。


距離が開けば開いて行くほど全身が見えて何頭身か測り始めた時


YUIちゃんの足が急に止まった。


「遅い」


振り返って手を差し伸べてくれるけど、私の足は止まったまま動けない。


「どうした?」


「判らないけど、動けない」


そう答えたけれど、動けない理由を本当は判ってた。


今日初めて会ったばかりなのに、何も知らない男の車に乗る。


今から何をするのか。


ドライブじゃない事ぐらい何となく判ってる。


尻軽な女に思われないか心配で、不安で怖くて動けない。


「大丈夫か」


そんな気持ちを知ってか知らずか。


YUIちゃんが立ち尽くす私を抱きしめた。


タバコの匂いが染み付いた服から、かすかにYUIちゃんの香り。


目を閉じて大きく息を吸うと、それは濃厚に感じて彼の香りを求め続けた。


【こうしていたい】


「このまんま?」


「うん」


「いいよ」


そう強く思った時間をぶち壊したのは、篤君の怒鳴り声。


「何してんだよ!!そんな所でもう、おっぱじまったのか!!」


何を言ってるか意味が判らないけど


無視しようにも無視できない絶叫。


YUIちゃんの腕の隙間から見えた


リアクション付きで何度も絶叫する篤君が可笑しくて。


「判ったよ!うるせえよ!!」


抱き合ったまま2人で笑い合い


「大丈夫か?」


「うん。」


「じゃあ、行こうか。うわ〜寒みい〜」


肩を抱かれて、いつのまにか私の足は動くようになっていた。


荷台に詰まれた大きな機材で


今にも倒れそうな後部座席に篤君と智子。


運転席にYUIちゃん助手席に私が乗り込み、車は当てのないドライブに出発した。


「優奈もこの辺知らねえのかよ!地元ピーじゃねえの?

YUI〜適当に場所探してや!」


篤君は苛立ってるのか


座席に蹴りが入ったのが振動で判るけど、一体何を探してるのか判らない。


「何をって?」


「コンビニとか?」


「いや」


「ファミレスとか?」


「・・・・・」


信号待ちでタバコに火をつけたYUIちゃんに聞いてみたけど


「無視してろ」


走り出す前に、そう言われただけで教えてくれなかった。



何個も信号待ちをして角を曲がって。


所々に電灯がある人の気配がないオフィスビル街で車は止まった。


「お〜良いんじゃない?じゃ、始めますか!」


運転席と助手席の間から顔を覗かせた篤君は


後部座席と運転席の間にハンガーにかかった服を掛け出し何やら準備を始めた。


「ほっとけ。お前は知らなくてイイ」


何が始るのか。


そう言われると逆に知りたくなるのが人間の本性。


「コレって衣装?」


これは誰の?


コレは?


掛けられた服の隙間から後部座席を覗いてみた。


何も見えない。


2人は何処?


もう少し覗こうと思った瞬間


「何見てんだよ!」


篤君の声に驚いて正面に向きなおした。


何をしてるのか気になったけど


「そう言えばお前さあ。上の名前なんて言うの?」


その場の空気を取り繕おうとする


YUIちゃんの質問に私の冒険心は終了した。


「へえ〜川嶋。川嶋優奈ね。で年は?」


「今16だけど、30日の誕生日で17になるの」


「また年の瀬の忙しい時期に生まれたヤツだな」


12月30日生まれって言うと必ずと言って良いほど言われる言葉だけど


お父さんも正月休みで親戚の人達もお休みだったから


逆に集まりやすくって親孝行だと親は言ってる事や


この服は誕生日にお母さんがプレゼントに用意してくれた事。


誕生日の日は家でケーキを食べる事を話し終えた時に何かが聞こえた。


「しっ!猫がいるみたいだよ?」


私の言葉にキマヅイ顔をしながら


YUIちゃんが無言でハンドルに顔を埋めた理由。


「ほら!あれ?・・・・」


その声は猫じゃなく


「お前さあ。本当に鈍いよな・・・今頃気がついたの?」


智子だという事に気がついて私も恥ずかしくて俯いた。


「YUIちゃんは平気なの?こういう状況って言うか」


車に乗る前に、何となく想像はしてたけれど。


まさか、こんなシュチュエーションではないと思ってた


予想外な展開にどうして良いのか判らない。


同じ車の後ろでは今まさにSEXの真っ最中。


にも関らず平然でいられるYUIちゃんが不思議だった。


「あ〜別に。いつもの事っていうか」


聞き流せなかった。


「・ヤベっ・・・」


そう小さく聞こえた最後の言葉がすごく気になった。


「いや?俺はないよ。って今日さトイレでキスしたじゃん。アレが初めてって言うか」


慌てて取り繕った言葉より顔を見て嘘だと思った。


【嘘が下手な男】


もし嘘じゃないって言われたら、100年の恋も冷めたかもしれないけど


「嘘・・・・だな」


そう認めた誠実さに、更に好きだという思いが強くなって行く。


「それなりにって言うか、たま〜に・・ねっ」


彼女っていうのはいないと断言した。


時々こうやって女の子を誘ってSEXをする。


そういう事をする男だと知っても嫌いになる所か


言葉に詰まりながら必死に言い訳する


YUIちゃんの顔を見てると


どんどん好きで好きで堪らなくなっていく自分がいる。


「こういう男は嫌いだよ・・・ね」


私の顔を覗き込んだ顔が愛おしくて。


思いのまま目を閉じた私に軽くキスをして


YUIちゃんは運転席に体を埋めてタバコに火をつけた。


「俺は22才。名前?本名だよ」


YUIと言うのは苗字。


油に井戸の井って書いて油井ゆい


お父さんとお母さん。


弟の4人家族。


「みんなYUIちゃんって呼ばれてるって当然だけどね」


浅見君とは幼稚園から高校まで、ずっと一緒。


高校の時に初めてバンドを組んで


実家は千葉県。


今は同県内の別の市に浅見君と一緒に住んでる所まで聞き終えた所で


「何だよ。お前らも前でやってんのかと思ったら待ってたのかよ」


助手席の扉も開き


「交代」


そう智子に言われ強引に外へ追い出されてしまった。


「どうする?」


YUIちゃんも篤君に追い出されたのか


困った顔をして出て来た。


「嫌だろ?」


「何が?」


そう答えたけれど、本当は判ってた。


次は私達がSEXをする番。


「だから・・・」


「するよ!」


「するって、お前さ」


「私じゃダメ?」


「ダメじゃねえけど・・・本当に良いんだな?」


今まで2人がSEXしていた後部座席のドアを開けたのはYUIちゃん。


先に乗り込んだのは私の方。


「優奈」


返事をする間もなく振り返った私を


YUIちゃんは強く抱きしめキスをした。


覚悟はしてたけど、ドアを閉めたと同時にイキナリとは予想はしてなくて。


緊張してるのが伝わらないように目を閉じ、自分の指を握り締めた。


イイと思った・・・。


このまま服を脱がされて


前にいる2人に私の声が聞こえても


YUIちゃんとこういう関係になれるのなら別にイイって思った。


そう意を決したのに、キスをしただけでYUIちゃんが話し始めた。


「そういえばお前さあ。

ライブハウスに来たのって本当に初めて?こういう事も?」


1つ1つの問いに頷くだけの私を抱きしめながら


頭を撫で優しい笑みで笑ってるだけで


YUIちゃんは全くヤル気がない様子。


「当分こっちに来れねえって言うか」


「そうなの?」


「全く予定がナイな」


「そうなんだ」


「電話するからさ。

って、そうだよ!電話番号!おい篤!」


一緒に会話でもしていたかのように


タイミング良く衣装の隙間から現れた私のカバンと黒い携帯。


赤外線受信をして


「これで安心」って笑ってたけど


篤君が絶対に覗いてる事も確信したけれど


私はそれ以上の事がしたかった。


初めて会ったのに軽い女だと思われてもイイ。


本当はそういう行為を願ってた。


「おい!YUI!もう時間ないぜ?

喋ってるだけだったらサッサと帰るぞ!」


篤君の言葉に、悲しくなってきた。


YUIちゃんはココにいるのに本気で時間を止めたい。


きっと、何もないまま これで帰っちゃうんだ。


これで終る。


そう思って、心の準備も消えてしまい。


「なあ・・・お前さSEXした事あるの?」


沈黙を破ったYUIちゃんの言葉に頷いた途端、


押し倒されるなんて思ってもいなかった。



激しいキスから始まった舌は首筋に移動し


一気にブラジャーのホックまで外した。


大きくない胸に自信がなくって


体中を撫で回す手のひらに少し怖くなって


さっきまでと違うYUIちゃんが今どんな顔をしてるのかすごく不安で。


つぶった瞼にさらに力を込めた時、急に動きが止まった。


「怖いか?」


ゆっくり目を開けると昇り始めた朝日に照らされた


YUIちゃんの優しい顔が見える。


「無理すんなよ」


私が見た中で、どんな顔よりも


さらに優しい笑顔のYUIちゃんを見たら


不安が解けたと同時に思わず涙が溢れ


思いっきり力を込めて首筋に抱きついた。


【ヤメナイデ】


って言ったら軽い女に思われるかな。


男って軽い女は本気で好きにはならないって聞いた事があるし。


でもいつ会えるか判らない。


もし会えたってファンの1人かもしれない。


もしかしたら憶えてくれてないかもしれない。


今日だけの事でもイイからYUIちゃんの記憶に残りたい。


繋がりが欲しい・・・


素直にそう思った。


「その前に、お前って彼氏いるの?」


首を横に何度も振る私を見て


YUIちゃんの顔は優しさを増し動きを再開した。


その手に舌に耐え切れなくって


大きく声が洩れた時クスっと聞こえた笑い声に


「おい!覗いてんじゃねえよ!」


2人の存在を忘れて声を漏らしてた事に気が付き


恥ずかしくなって胸を隠し座り直した。


「今なら止めれるけど」


「大丈夫」


「でもなぁ・・・」


本当はこのままで終ろうとしてたのかもしれない。


「YUI〜?本気で時間ねえぞ〜?」


篤君の冷静な口調に後押しされたのか


渋い顔で悩んでた末、意を決したかのように


YUIちゃんがチャックを下ろした。


「ちょっと尺ってくんねえ?」


少し力が入った手の誘導するまま口に咥える。


2回しかした事なかったけど


YUIちゃんのだと思ったら


好きでもない初体験の男の時とは違って勝手に舌が動き回り


大きく固くなっていく様に


感じてる事が判るのが嬉しくて


一心不乱に吸いまわしていた事に


「お前マジで上手いな」


その一言で気が付いて恥ずかしくなった。


最後にSEXしたのは約1ヶ月前。


私の人生の中で2人目となる


YUIちゃんの一部が少しだけ入ってきて


今日で5回目を向かえる私の部分は少し痛みが走った。


少しづつ。


少しづつ。


YUIちゃんのゆっくりした動きに思わず声が洩れた時


「よしっ!今日はココまで!!」


YUIちゃんの一部は私の体から出て行った。


「今日はコレでお終い!」


「もう出たの?」


「いや・・・」


「どうして?」


「最後までしたいけど、ここじゃなって言うか・・・何だろうね」


YUIちゃんは笑っていたけど、私は笑えない。


【ヌケない女】


情けなくって体を服で隠した。


「誤解するなよ!?そういう意味じゃねえし!」


泣きたくても泣けなかった。


挿入したのに途中でヤメレル程度の女。


出会って数時間しか経ってないけど


物凄く大好きになって。


軽い女だと思われてもイイから


どんな方法でもイイから繋がりたいって願って。


どちらかと言うとSEXを望んだのは私の方。


惨め過ぎる。


女として悲しすぎる結末。


「何て言ってイイか判らねえけどよ」


無言で俯く事しかできない私の隣に


YUIちゃんが正座する。


「ほら。本当に好きな女とは最初はSEX出来ないって言うじゃん?」


「知らない」


「言うんだって!」


「聞いた事ありません!」


「イイ!判った!黙って聞け」


・・・・


「俺もそんな訳ねえって思ってたんだけどさ」


・・・・


「アレって本当だったんだな」


・・・・


「俺も、こんなの初めて経験したって言うかさ」


「本当に?」


「いつもはどんな女でも最後までさ」


「最悪。」


「あ〜!!だから!」


「イン●ってヤツ?」


「違げ〜よ!いや・・・だから」


「あの〜イン●のYUIさん?そろそろお時間の方が・・・」


「テメエも聞いてんじゃねえよ!!違うって言ってんだろ!!」


下半身むき出しのまま必死な顔で訴えかけるYUIちゃんの言葉が嬉しくって。


運転席から話しかける篤君の言動が可笑しくて。


私の涙顔は、いつしか泣き笑いになっていた。


「本気になったから今日は無理」


「うん」


「篤達にお前の声とか聞かせるのも嫌だし」


「うん」


「あ〜また泣いてるし」


一々好きにさせるような言葉を言いながら


YUIちゃんは私を抱きしめながら何度もキスをしてくれた。


「これだけでイイって言うか」


今はこうしていたいって何度も繰り返し


私の人生の中で1番たくさんのキスをした。



「ホ〜タ〜ルのひ〜か〜り〜。

本日もご指名ご来店アリガトウゴザイマス。当店は間もなく閉店のお時間でゴザイマス〜」


篤君のセリフが、あまりにも職種を掴み過ぎていて2人で笑った。


「絶対に電話しろよ。篤は運転出来ねえから前行くぞ」


後部座席のドアを開けるともう朝日が眩しい時間。


助手席に座り直して発進した車はホテルの前まで送ってくれた。


智子が篤君と窓越しに話しているけど


私は何も話さなくても見つめ合ってるだけでイイ。


篤君越しに敬礼のポーズをした


YUIちゃんを真似た私を確認して車が動き出した。


「篤様のお帰りなり〜!じゃあな!いざ出発!」


バイバ〜イ!と大声で智子が手を振った。


徐々に小さくなっていく車。


「ねえ!ちょっと何で走るの〜!?」


行かなきゃって思った。


「バイバ〜イ!バイバ〜イ!!」


気付いてくれるかな・・・・


手を振りながら全力疾走で走った。


「お前ら!何してんだよ!バッカじゃねえの!!じゃあな!」


走り続ける車から篤君が窓を開けて振り返って手を振った。


どんどん距離が離れていく車が直線道路を左折した時に一瞬止まって


「バイバイ〜イ!!」


大声でジャンプしながら叫ぶ2人に篤君が手を振って


YUIちゃんはクラクションを鳴らし消えていった。


「良かったね!優奈ちゃん!良かったね!」


智子と2人抱き合って飛び跳ね続けた。


喜びの興奮は収まるどころか燃え上がる一方。


「よ〜し!恋に燃える乙女は無敵なのだ〜!」


早朝の誰もいない繁華街を2人でホテルまで走った。


真冬の凍る様な夜明けの寒さも


全力疾走の息苦しささえも


何もかもがトキメイテ感じて。


私の人生は絶対に【幸せ】という軌道に乗った気がしてた。

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