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disappear  作者: 黒土 計
13/71

chapter1 彼女の視線

「俺の名前は?」


「YUIちゃん!」


「お前の名前は?」


「YUIちゃん!」


「なあ!お前まだ酔ってんのかよ!本当に大丈夫か!?」


夏美の腕に絡まりケタケタ笑う私の頭を撫でながら


運転席からYUIちゃんが夏美を脅す。


「コイツ頼むぞ。何かあったらお前ら〆んぞ!おい優奈!」


「YUI」


YUIちゃんが、後部座席の誰かに呼ばれて話してる。


本当は酔ってなんかいない。


背中に怖いぐらいに感じる彼女の冷たい視線に酔ってるフリをしてるだけ。


今も怖くて堪らない。


「では、そろそろ行きますか!」


ちょっと待って!と言いたかった。


電話番号も何も聞いてないし教えてない。


このまま終ってしまうのがイヤだけど、でも彼女が怖い。


「篤様のお帰りじゃ〜!」


「お〜うまた来るからな!楽しかったぜ〜!じゃあな!」


大きなクラクションを鳴らして車が走り出した。


沢山の女の子達に見送られ、どんどん遠ざかって行く。


行ってしまった。


これで終わった。


どうして電話番号とか聞いてくれなかったんだろう。


酔ってるフリなんかしてないで、自分から渡せば良かった。


いくらでもチャンスはあったハズなのに。


後悔と自己嫌悪もつかの間。


「優奈すごいじゃん!イキナリお気にい〜じゃん!」


夏美の大声で、悲しくい気分に浸っている場合じゃなくなった。


女の子達の視線が、一気に私に集中する。


「キスしたんでしょ!?ねえ教えてよ!」


「何て言って口説いてきたの!?」


聞き耳を立てる女の子の集団から一直線に彼女あのひとが近づいてくる。


一歩一歩、私を睨み付けたまま向かってくる。


「ねえ。時間ある?」


夏美達にじゃなく明らかに私に彼女が問いかけてる。


【怖い・・・】


彼女の顔が見れない。


一刻も早く立ち去りたい。


お願いだから無いって言って欲しかった。


「え〜?時間はあるけどお金がありませ〜ん!」


「私も〜!」


私の願いと正反対に夏美と麻紀が大笑いしながら勢い良く手をあげた。


ぬぐっても追いつかない手の汗。


冷たい夜風に手先から凍っていくようだけど


激しく鼓動する心臓辺りの方が冷たく感じる。


「ファミレスぐらいならおごれるからさぁ。どうせリザードまで戻らないでしょ?」


「やった〜!さっすがOL!ゴチになります!」


「ゴチになります!」


何処かの番組のポーズで彼女以外の笑いを獲った時


「うちらは戻るわ」


智子が私の腕を取り彼女の誘いを断った。



少し離れた場所から私達ではなく


彼女は私を睨んでる。


「ちょっと!リザードどうするのよ?」


「別に見なくたって後で会えるでしょ?」


智子が夏美と麻紀に何やらボソボソと話し


「マジで〜!?え〜!!いついつ?」


深夜の静寂は夏美と麻紀の大声にジャックされた。


何がマジなのか何てどうでもいい。


お願いだから彼女の視線を煽るような事をやめて欲しい。


「何?楽しそうじゃない。私も仲間に入れてよ」


待ちきれないのか。


彼女が目の前に来た。


言葉は夏美達に向けられてるように聞こえるけど視線は私に刺さる。


「え〜。優奈に聞きたい事いっぱいあるのに〜!」


「私も聞きたい事があるんだけど」


恐怖で鳥肌が立つ。


【怖い・・・】


体が縮んで行く間隔が襲って手足が震える。


「智子ちゃん何かあるの?」


私も何があるかは知らない。


でも、ココから彼女から逃げられるなら何でもイイ。


「う〜ん何か疲れちゃってさ。優奈ちゃんも酔ってるし、ちょっと寝ようかなと思って」


彼女が遠まわしに引き止めてるのはきっと私。


聞きたい事も私の事。


「私知ってるんだよ。アンタ達今日リザードと泊まるんでしょ」


「そうだよ。知ってるなら判るでしょ?

少し寝ておかないと体が持たないんだよね〜。

何か変な勘違いしてない?さっきから顔が超怖いんですけど。」


智子の意味深な言葉に彼女の本意を夏美と麻紀も感じたのか


「私が酔ってるから」という理由で同じタクシーに乗った。



「じゃ〜ね〜!」


「また明日ね〜!」


走り出したタクシーに女の子達が手を振る中


彼女1人だけは腕組しているのが見えた。


「って言うか〜!あの年増は一体何!?超ムカつくんだけど」


「私は、ファンじゃないのよ?みたいな顔してさ!」


「メンに相手にされた事ないくせにね〜」


もう時計は深夜12時を回ってる。


22歳で年増扱いされるのは可愛そうだけど、居酒屋に入るまでと打って変わって本当に呪われそうな勢いで怖かった。


「ってか1番はYUIちゃんだったんでしょ?ザマあみろだよね!」


「で?YUIちゃんと何してたの?」


「何て口説かれたの?私も知りた〜い!!」


彼女の視線から開放されても未だに恐怖心が宿る私をよそに大騒ぎする3人。


「ね!静かにしようよ。後で話すから!」


え〜今!と連呼する騒がしい空間に運転手さんが声をかけた。


「お客さん達若いね〜恋の話かい?青春だね〜」


「青春っておじさん古いよ!」


「ありゃ!これまた失礼いたしました!」


「おじさん面白〜い!キャハハハハハ」


お茶目な事を言う運転手さんに正直驚いた。


友達同士でタクシーに乗るのは初めて。


気さくで優しい運転手さん。


「YUIちゃんって怖いイメージっていうか?何か以外だね」


運転手さんも交えて4人にYUIちゃんとキスした事を話した。


でも、電話番号もメルアドも聞けなかったしもう終わりだと思った。


「大丈夫だよ。今から会うんだから」


予想外な智子の言葉に


一筋の希望の光が閃光を放って舞い降りた。


「良いな〜!いつのまにって感じだよ〜!で、どっちが誘ったの?」


「夏美が優奈ちゃん介抱してる時にさ、私から携帯番号渡したんだけど。

で〜篤君が機材車に乗る前に

YUIちゃんがうち等の事〆るって言ってた時に優奈ちゃんもって」


「で何処で会うの?やだ何で泣いてるの!」


またYUIちゃんに会える。


何か嬉しくって涙が溢れて好きな人の事で初めて人前で泣いた。


お酒がまだ残ってたのか。


みんなの温かい反応がこの上ないほどに嬉しかった。



タクシーがホテルに到着した。


「夏美と麻紀ちゃんは降りないのかな?」


「ほっといて行こ」


運転手さんと話に花が咲いた2人を置いて智子と2人ホテルへ戻った。


「こういう事初めて?でも、バンド系は好きなの?」


夏美は私の事を何て言ってたのか。


ライブハウスもホテルに友達同士で泊まるのもバンドだけではなく


音楽自体に興味がない事を話し終えるとエレベーターが8階に着いた。


「へえ〜。じゃあ、よく今日来たね」


その言葉の本当の意味を


興味のない事によく来たねと勘違いしてた。


「あ!お部屋はコッチだよ?」


「コッチに荷物置いてあるから。そっちに移動するから待って」


【811】の隣の部屋


【812】に智子はカードキーを入れ、ボストンバックを2つ持って出てきた。


「待っててくれたの?ゴメンネ!1つは麻紀のだから」


きっと1つの部屋に2人づつ泊まる。


なのに【811】に麻紀のバッグを持ってきた意味。


もしかして私と夏美が【812】なのかな?


疑問を感じたけれど、深くは考えなかった。



部屋に入ると智子がタバコに火をつけてカーテンを開けた。


「まだ喋ってるよ」


窓の下を見下ろすとタクシーが1台止まってる。


「私先にシャワー浴びて良い?」


ドキドキしてる私の事など気にもせず、


服を脱いで、キャミソール姿になった智子。


鏡の前に座って化粧を落とし見る見るうちに印象が変わっていく様を見て


今のメークは夏美がしてくれた事を話した。


「じゃ、次は私がしてあげるからさ。

ねえ・・・・優奈ちゃん怒らないでね。

悪い意味で聞くんじゃないから」


そう前置きした智子の問い。


「彼氏は今はいない。先月自然消滅して。

SEX?は・・・・した事あるよ。その人と4回だけ」


「へえ。じゃあ先にシャワー浴びてくるからコレ使って良いよ」


問いへの答えは、予想通りなのか。


無表情のままメイク落としを置いて智子はバスルームに消えていった。


SEX体験談って、同じ年ぐらいなら盛り上がるハズなのに。


無反応に近い智子の態度に、自分の存在自体がツマラナイモノに思え


(話さなきゃ良かったかな・・・・)


後悔を抱いて窓の下を見るとタクシーは消えていた。


夏美達も、そろそろ部屋に来る。


そう思ったと同時に携帯が鳴った。


「もしもし優奈?うちら戻るからさ!智子にそう言っておいて!」


「戻るって何処に?」


夏美と麻紀は、そのままタクシーでライブハウスに向かってた。


朝まで沢山のバンドが出るんだっけ。


私は2つしか見てないな・・・


興味ないから別に良いけど。


リザードが最後の方だとかって言ってたっけ。


そう言えばリザードと泊まるって何の事なのかな・・・


聞き間違いかなと疑問が生まれた時


タオルを巻いただけの智子がバスルームから出てきた。


「あ!夏美がライブハウスに戻るって電話ありました」


「いいよタメ語で。私の方が1つ下だし。

私もスッピン変わるでしょ?」


「そんなには変わらないよ」


「夏美ほどじゃないね。じゃ次は優奈ちゃんね。早く入っておいで」


タオルで髪の毛を拭く智子のスッピンは同級生ぐらいに感じたけど、


夏美と違って少し幼くなっただけで差ほど変わらない。


促されたままバスルームに入ろうとした私を智子が止めた。


「ここで脱いでいかないと下濡れてるよ」


女の子同士だから気にしないで大丈夫と言われても恥ずかしい。


でも、同じ世代の子が常識のようにしている事を


何も知らない子と智子に思われるのがイヤで。


言われるままベッドの上で服を脱ぎ始めた私に


咥えタバコのまま智子が、バッグから何かを取り出し差し出した。


「脇だけじゃないよ。ほら腕!よ〜くチェックしてキレイにしておいで」


女性用カミソリ。


思わず最近処理してない脇に力を入れて閉めた。


「ゴメン!悪い意味じゃないんだ!

って言うか優奈ちゃんさ・・・夏美に何て誘われてきたの?」


ライブを見て友達とホテルに泊まって。


ご飯を食べたりタクシーに乗ってに4万円かかる。


何か他にあったのか。


問おうと言葉が口から出るのを遮る様に智子の携帯が鳴った。


「もしもし?篤君?本当にかけて来てくれたんだ。うん。スッゴク嬉しい」


電話の主は篤君。


智子がどこで会うのか予定を決めてくれるはず。


私が今しなければいけないのはシャワーを浴びる事。


「え?優奈ちゃん?大丈夫だよ?」


言葉にしなくても空気で感じバスルームの扉を開けようとした時


智子がジェスチャーで待てと静止した。


智子が私に聞かせたかった事。


「YUIちゃんが心配してるの?

じゃあ、無事にホテルに戻ってきたから安心してって伝えて」


篤君の問いを繰返した智子の言葉に


YUIちゃんが私の事を思ってるのを知り、気持ちは一気に幸せモードに突入。


浮かれ気分でバスルームに入った。


シャワーのお湯が体を流れるのさえ快感に感じる。


髪も愛しむように、体もスポンジで磨くように洗ってシャワーを止めると


まだ篤君と喋ってる甘えた智子の声が聞こえた。


YUIちゃんにキレイって思われたい。


キレイになりたい。


智子が貸してくれたカミソリを腕に滑らせると


肌が白くキレイに見えて、


腕・足・脇とカミソリで剃った所がツルツルに感じ


どのぐらい自分の肌に浸っていたのか。


「優奈ちゃん?ちょっと早めに出てね」


智子に急かされ、歯を磨いてバスルームを出た。


バッグに脱いだ下着を入れる時に


夏美からプレゼントされたお揃いの下着の袋が見えて


いつ使う為だったか判らなかったけど


キレイに手入れした自分がさらにキレイになれそうな気がして新品の下着を着けた。


「準備が出来たら篤君に電話するからさ。そうしたらYUIちゃんも来るし」


「ココに?」


「あ〜部屋は無理だから、下に来るんじゃない?」


部屋は無理の意味を捉え間違えてた事も気付かずに


メイクをしてくれてる智子にYUIちゃんの事を聞いてみた。


「YUIちゃん?前から知ってるけど、あの人さ結構女に対して怖いって言うかさ」


私に見せた優しい印象とは全く違って普段はファンの子が来ても喜ぶ訳でもなく


何でも「うるせえ」と足で蹴飛ばしたりされるから近寄りがたい存在だと聞いて


余計に自分が特別な女の子の気がして胸がキュンとした。


「でも、びっくりしたよ。今日が初披露なんだって」


Night FiendナイトフィーンドはゴッドレスパイクのREI(Vo)君とクリムゾンバインの篤君(B)と浅見君(G)


レブナントのYUIちゃん(Dr)で結成された新バンドで


ファンの誰1人にも公表せずに今日を迎えたらしいけど、みんな元のバンドでも今後も活動をするらしい。


「3つのバンドで全国回ったりしてさ。元々浅見君とYUIちゃんは幼馴染らしいよ」


YUIちゃんに関する事を色々話してくれるけど


どっちかと言うと音楽の話はどうでも良い。


YUIちゃん自身の事が色々と知りたい。


でも、智子はYUIちゃんに関しては浅見君を通して知ってるぐらいで


「はい!夏美先生より、色っぽく仕上げてみました」


私が知りたい感じの事は他に知ってる事はなかった。


「元々って言うか私はREI君のファンだからさ。

軌道は外れたけど篤君の携帯番号ゲットできたし!」


一仕事後のタバコを美味しそうに吸い終えた智子が


「何か女としてさ乗ってきた感じ!!」


突然、奇声を発して智子が嬉しそうにベッドの上を飛び跳ねた。


「ねえ!優奈ちゃんも一緒に飛ぼうよ!」


第一印象は色っぽくって落ち着いた雰囲気で二十歳以上に見えたけど


やっぱり16歳の女の子って行動に自ずと私も飛び跳ねてみたら


何故だか気分がどんどん高鳴って行く。


「この〜幸せ者〜!!」


「そっちこそ!」


枕を投げあって大笑いしながら飛び跳ねまくった。


飛び跳ねる毎に


好きになった男に会える喜びも


初めて会ったばかりの智子との仲も


何もかも深く増して行く気がして


笑いながら飛び跳ね続けた。



「あ〜疲れた〜!もう準備OK?」


「OK牧場!」


「そんなのツマンナイよ・・・じゃ電話するね?」


本気で疲れてた。


時計はもう3時前。


飛び疲れて、このまま眠ってしまいそうな意識は


YUIちゃんと篤君の到着で一気に吹き飛んだ。


「もう下に来てるって!え?何?」


「あ・・一瞬だから待って!」


上手に笑えるかな・・・


YUIちゃんに可愛いと思われたくて。


鏡の前で最後のチェックをして部屋を出た。

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