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disappear  作者: 黒土 計
12/71

chapter1 思い出はトイレなり

「大丈夫じゃない・・・」


夏美がトイレに連れて行き、水を用意してくれた。


「コレ飲んで、何回も吐けば楽になるから。

え・・・?みんな?勝手に盛り上がってるけど?」


私がこんなに苦しんでるのに。


扉1枚挟んで目の前の座敷から怒涛のような笑い声が聞こえる。


新たに知った常識はトイレの中。


所詮、初めて会う人だし、世の中そんな物だとも知った。


「もう1杯もらってこようか?」


そう言って夏美の手が離れた瞬間


扉が開いてトイレの空気が動いた。


夏美が誰かに説明をしている。


扉が閉まったのか夏美の声が遠くに感じた瞬間、誰かが私の背中を擦った。


「ほら水持って来たぞ」


この声はYUIちゃん。


とっさに便器の水を流した。


「気にするなって!大丈夫だから吐けよ。ほら飲め!」


便器の前で無理やり抱き寄せられ、なすがままに水を飲まされる。


私が今してるのは汚い事で、すごく恥ずかしい事。


「もう少しだから全部吐け」


少しの時間が何時間にも感じる。


全部吐き終えて、落ち着いても


恥ずかしくって頷き続ける事しかできなかった。


どれぐらい時間が経っていたのだろう。


YUIちゃんが背筋を伸ばしながら立ち上がった。


「もう大丈夫だろ。ほら」


差し出された手に導かれ、ゆっくり立ち上がろうとした瞬間。


最初何が起こったのか判らなかった。


ただ、私が今いるのはYUIちゃんの腕の中。


離れようと思った時、更に強く抱き寄せられた。


「お前さあ。心配させんなよ」


予想もしていなかった展開に思わず胸がキュンとする。


優しく抱いたYUIちゃんの心臓の音。


頭上に感じるYUIちゃんの頬。


私の髪を撫でる手。


服に染み付いたタバコの匂いの奥にあるYUIちゃんの薄い汗の香りが私の心に入り込んでいく。


温かくって心地良くってこのまま眠ってしまいたい。


彼女がいるひとだって判ってるけど


今だけ・・・


もう少しだけでイイからこのままでいたいって思った。




「ねえ大丈夫?ちょっと開けてよ!」


夏美がドアの外で扉を叩きまくる。


たった1枚の薄い扉の裏で抱き合う2人。


心配してるって思ったけど安心させなきゃって判ってるけど


このままYUIちゃんの腕の中にいたい。


このままずっと・・・


「やっちゃってんじゃないの?声聞こえる?」


「ん〜聞こえない・・・お前ら静かにしろよ!」


「相手ってゲロってんじゃねえの?さすがYUI鬼畜だね〜」


メンバー達の大爆笑に、このままではいけないと思ったけど


動けない。


動きたくない。


「大丈夫だよ。鍵閉まってるし、もう少しこのままでいたい」


私と同じ事を思ってたの?


そう思ったら泣きそうだった。


彼女がいてもイイ。


今だけでもイイそう思った。


「ゴメンネ」


「何が?」


彼女と今2人がしている事で後で喧嘩になったりしないかにじゃなく。


彼女にゴメンでもなく。


本当に彼女なのか。


YUIちゃんに、遠まわしに彼女がいるのか確かめたかった。


「あ〜もしかしてアイツの事?違うよ。何か勘違いしてない?」


「でも、叩いてた棒投げた」


何で彼女に投げたのか。


投げる相手の意味が聞きたい。


「棒じゃねえよスティック。

じゃあ、今度はお前に投げてやろうか。

でもドン臭そうだから顔に刺さったりして」


「避けるもん。絶対に取らない。」


じゃあって所がイヤだった。


投げるはっきりした意味が知りたい。


「何か怒ってる?」


「誰でも良いみたいだもん」


「別に誰でも良いんですけど?」


人に寄ってはあるかもしれないけど


YUIちゃんにとっては別に大した意味はないらしい。


ただ全然違う所に投げて避けられたりするよりも、


ファンと言われる子達の方に投げて


キャーキャー取り合ったり喜ばれる方が気分的に良いのが理由。


浅見君は自分のファンの子をわざわざ指差しで指名して何個も投げるけど、


YUIちゃんは毎回去り際に自分の名前を叫んでる方に2本だけ投げる。


「アイツが偶然その1本を獲っただけで・・・何か気になる?」


「私も叫んだんだよ?」


私だって判ってくれたら、


あの時私に向かって投げてくれたのかな。


「マジ?聞こえなかった。

あ〜そう言えば聞きなれない変な声もしたっけ?そんな事で怒ってたの」


「怒ってないです・・・・


ヤキモチです」


きっと耳も真っ赤になってたと思う。


火照りまくって赤くなった顔を隠すのに、YUIちゃんの胸に深く埋めた。


「可愛いよ」


YUIちゃんの声に目を閉じる。


唇に軽く触れ、


唇から吸い出された私の舌がYUIちゃんを受け入れた時


「あっれ〜?まだキスかよ。臭ッい場所でクサイ事言うね〜」


「ヤッテない!?何だよ〜!!!!俺の負けジャン!」


鍵が閉まっていたはずの扉は開き、変わりに男3人の扉が出来ている事に気が付いた。


「何!開けてんだよ!」


「YUI〜!明日の朝飯めし代!お前に賭けてたんだぜ〜!!何やってんだよお前!」


「ちょっと!お客さん困りますよ!こんな所で!!」


「あっ!大丈夫!コイツ等まだ何もしてないから」


「まだじゃないですよ!!!」


焦る店員をよそに大爆笑するメンバー。


「出るぞ」と笑いながら差し出したYUIちゃん手を握り出た瞬間


開かれた扉の前に立つアノ彼女ヒトの鋭い視線に恐怖を感じた。

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