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死化粧に雪  作者: 天猫紅楼
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眠れる聖夜のお姫様

「なぁ、こいつ、なんでこんなに気持ち良さそうなの?」

 龍樹があぐらをかいて覗き込むその顔は、泣き腫らして真っ赤な瞳をしていた。そばに膝をつく女性が、同じように泣き腫らして腫れぼったい瞼をしながらも、少し頬を緩ませた。

「そうね……この子は、いつも不思議なコだったから」

 そして、鼻をすすってハンカチを目尻に当て、滲み出る涙を押さえた。

「龍樹くん、これ、受け取ってくれるわよね?」

 龍樹の前に差し出されたのは、赤と黒の模様が踊る、マフラーだった。

「この子、コレをギュッと抱き締めていたんだって。もちろん、あなたに贈るものだったと思うの。あなたは、麻里の大事な人だものね」

 龍樹は、差し出されたマフラーを震える手で受け取り、ジッと見つめた後、視線を流した。その先には、白装束に身を包んでいる麻里が、冷たく横たわっていた。

「バカ……なんでお母さんからなんだよ?お前から受け取りたかったぞ」

 そう言ってまた涙を流す龍樹。歪む口元を必死で堪える彼の後ろで、玄関のチャイムの音がした。

 開かれた玄関先で、男性が土下座をし言葉にならない言葉を叫ぶ声を背中に、龍樹は体を丸めて嗚咽をこぼしていた。

「自分の分はお母さんに任せて、俺のプレゼントを受け取らないってのは、どう言うことだよ?答えろよ、麻里!」

 懐から取り出した小さな箱を静かに開け、そこに鎮座する指輪を、龍樹は麻里の左手薬指にはめた。冷たい感触が、龍樹の背筋を駆け抜ける。

 顔にのせられた白い布を取り、何度も白い頬を、そして頭を撫でる。髪の毛だけは、柔らかく龍樹の指に絡み、流れ落ちる。そして、体を乗り出して麻里の顔に近づくと、くちづけをした。

 冷たい麻里の唇は、龍樹の体温までも奪いそうなほどだった。それでも良かった。麻里が暖まるなら。そう願いながら唇を重ねる龍樹。

 冷気で支配される外では、パサリパサリと大粒の雪が舞い降り、辺りを白く包み込んでいた。

 クリスマスの夜が更けようとしていた。

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