魔法が解ける時
「去年のクリスマスに、約束したのを覚えてる?」
「去年の?」
「『来年のクリスマスも、一緒にいよう』って」
憂いを帯びた、とても優しい声に聞き惚れながら、私はしっかりと頷いた。
「覚えてるよ。ちゃんと、覚えてる」
「だから俺、頼んだんだ。どうしても今死ぬわけにはいかないんだって」
「……誰に?」
「神様」
「嘘……」
龍樹のドッキリだと思おうとしていた。けれど、龍樹が何かを話すたびに、胸の中のモヤモヤが濃く厚く私を包む感覚に恐怖さえ覚えていた。
「やだ……」
「イブまでが限界だって言われた」
「嘘……だよね……」
「俺、ほんの少しだったけど、麻里のそばで長く生きていられて、本当に幸せだった」
「龍樹、嘘だって……」
彼の指先が私の頬に触れた。いつの間にか流れ落ちていた涙を拭う指先が、氷のように冷たかった。私は慌てて彼の手を取って、両手で包み込んだ。
『もう、あの冷たさを思い出したくない!』
私の脳裏に再び、龍樹が冷たく横になって、白装束に身を包んでいる姿が浮かんだ。
『また、あの繰り返しをするの?嫌だ!怖い!離れるのは嫌!龍樹はあの時、生き返ったのに!』
「我儘だよな、俺はホントに……」
私は、自分に呆れたように声を落とす龍樹を見上げた。
「違うよ……我儘なのは……」
龍樹が生き返ればと必死で願って、引き戻した――
「私の方!」
それが、私にしてあげられる、精一杯の擁護だった。龍樹はおどろいたように少し目を見開いたが、すぐにニッコリと微笑んだ。
「ありがとな」
そう言う龍樹の顔が、少しずつ夜に溶けていくように色あせてきた。
「龍樹!体が……」
「うん、時間っぽい」
「い……っ!」
受け止めなきゃ。嫌だなんて言ったらきっと、また龍樹は胸を痛めるに違いない。
『龍樹を、送ってあげなきゃ……』
気付くと、雪が降りだしていた。パサパサと舞い降りてくる雪の粒に、月の光が反射して、実体が薄くなっていく龍樹の体を通り抜けていく。両手で包む龍樹の手も、軽くなってきた。
「龍樹……」
見上げる私を心配げに見下ろす龍樹に、そっと微笑んだ。
「龍樹〜〜、綺麗だよぉ〜〜」
雪の乱反射に彩られて、龍樹の体がキラキラと輝いていた。彼は、安心したように笑った。私のよく知る、鼻すじにしわの寄った、いつもの笑顔だった。