龍樹の告白
空気は冷たかったが、ぴったりと感じる龍樹の温もりが、いくらか寒さを和らげてくれていた。
近くの小さな公園に着くと、人気のないしんとした雰囲気に包まれた。大通りから一歩中に入っただけで、イルミネーションに浮かれるカップルや家族連れたちの喧騒も消えていた。きっといつも通りの静かな場所なのだろう。小さな子供用の、低い鉄棒に座った私たちは、白い息を吐きながら微笑みあった。なんだか、こんな時でも温かく感じることが、とても嬉しかった。
龍樹は、一層私の肩を抱き寄せ、空を仰いだ。夜空には、星のひとつも見えなかった。ただ、月だけがぼんやりと雲の向こうから緩い光を届けてくれていた。
「母さんたちを、頼むな」
「ん?今、なんて〜〜?」
独り言にも聞こえるような小さな呟きに、私は思わず聞き返していた。龍樹は二度とは言わず、私に微笑むと、頬を私の額に落とした。冷たい龍樹の頬が離れると、彼はそっと私にくちづけた。
とても優しい、触れるだけの唇が愛おしくなって、私は龍樹の袖の裾を握った。すると今度は、激しく吸い付くように唇を重ねられ、私は息をするのが苦しくなった。
「ん……っ」
やっと離してくれた瞬間、私は大きく息を吸いこんだ。冷たい空気が喉を駆け抜ける。それを見て、龍樹はクスッと笑って、またギュッと私を抱きしめた。
「たつ……き?」
不意に不安が押し寄せて来て、私は彼の背中に手を回した。何かがおかしい。龍樹はいつもと同じようでいて、違う。体を離した龍樹に尋ねようと口を開けた時
「俺、約束を果たせそうにないんだ」
と、龍樹がいつになく重い口調で言った。
「えっ?どういうこと〜〜?」
龍樹はしばらく私の顔を見つめ、小さく息を吐いた。
「麻里にずっと嘘ついてた」
「嘘って……?」
私の胸がひときわ大きく波打った。龍樹は、眉をしかめて苦しそうな表情をして、数回瞬いた。
「龍樹、どうしたの?最近、おかしいよ〜〜?」
首を傾げる私の頭を撫でて、龍樹はふうっと息を吐いた。そして体を離すと、数歩歩いた。
その背中がとてもさみし気で、思わず追いかけようと鉄棒から降りたとき、龍樹が言った。
「実は俺、死んでるんだ」
「えっ?」
私の胸がきしみ、龍樹に近づけなくなった。動かない背中。それをジッと見つめて、彼の次の言葉を待つしかなかった。私の脳裏に、龍樹の白装束に包まれた姿が浮かび上がり、キリキリと胃を締め付けた。龍樹は、ふっと夜空を見上げた。
「どうしても、叶えたかったんだ。あのまま、麻里と別れるなんて、出来なかった……でも……」
振り返った龍樹の顔が、崩れ落ちそうに震えていた。
「一番、叶えてやりたい夢は、もう……叶えて――」
龍樹の言葉を遮るように、私は龍樹に駆け寄ってその頬を両手で包み込んだ。そうしないと、龍樹の瞳から涙が溢れそうだったから。
「龍樹は、今嘘をついてる!だってほら!頬がこんなに温かいよ!ほら!死んでるなんて、嘘!」
たまらず溢れ出してしまった涙が私の手のひらの淵を伝った時、やはりそれも温かかった。龍樹が死んでるだなんて、信じられるわけがない。必死で説得しようとする私を見つめる龍樹は、ただただ涙を流しながら口をつぐみ、何かを堪えていた。
「ごめんな……」
震える声で言いながら、私の手に触れてゆっくりと頬から離した。