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死化粧に雪  作者: 天猫紅楼
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クリスマスイブイブ

 クリスマスが近づいていた。

 私はパートの仕事終わりに、近所の大型ショッピングセンターに寄った。彼が欲しがっていたマフラーを買うためだ。本当は有名なブランド品をプレゼントしてあげたいのだが、龍樹はそういう高級品を好まない。

「そこらへんにある安いやつ――百均でもいい」

と言うような人だ。もし渡しても、心から喜んでくれるとは思えない。かと言って、手編みのセーターや手ぶくろをと思っても、私は編むことができない。と言うわけで、手頃な値段で、かつ、肌触りの良さそうなマフラーを探しにきたのだ。

 数軒あるテナントを何度も出入りして、やっと決めた時にはすっかり夕方になっていた。慌てて家に帰ると、お母さんが夕食の準備をしてくれていた。

「す、すみません、お母さん〜〜!」

 謝りながら急いでエプロンをする私に、にっこりと微笑んだお母さんは、

「いいプレゼントは見つかった?」

と尋ねた。

「は、はい。でもこんな時間になっちゃって……」

「いいのいいの!もしかして、焦らせてしまったかしら?」

と逆に心配されるので、私は慌てて大きく両手を振った。


 二人で台所に並び、一緒に食事を作る。もう何回もしてきているのに、どこかまだ緊張する。そして同時に、温かい気分にもなるのだ。こんなに幸せな時間を、ずっと過ごしたい。そう思っていた。




「明日、二人で外食しようか」

 夜、龍樹が耳元で囁いた。私は龍樹の腕まくらで夢心地だったが、その言葉に目が覚めた。

「二人で?お母さんたちは〜〜?」

「ん?なんで?」

「なんでって〜〜……」

 龍樹がキョトンとした顔で言うので、私は少し頭を浮かせて彼を見下ろすように身体を起こした。

「だって〜〜お母さんたち置いて私たちだけで食事なんて、いいのかなぁ〜〜?」

 そう言う私の両頬を、龍樹は両手でギュッと挟んだ。

「ん〜〜くるひぃよ〜〜」

 おちょぼ口で訴える私に、龍樹は口を尖らせて言った。

「もう、母さんには言ってあるよ。て言うか、明日は何の日かわかってる?」

「ん〜〜……あぁっ!」

「おい……」

「クリフマフ〜〜」

「イブ、な」

「うん、それ〜〜」

「忘れてたのかよ?」

 すっかり忘れていた。プレゼントを買うだけ買っておいて満足していたのね、私ったら。

 やっと龍樹の両手が離れ、頬の火照りに苦笑しながら、私はにんまりとした。龍樹はそんな私にあきれたように笑い、頭を引き寄せるとギュッと抱きしめた。

 それが意外に強く、長い間だったので、私はもがくように彼の腕を叩いた。やっと力を緩めた龍樹に一言申してやろうと顔を上げると、心なしか彼の瞳が潤んでいるように見えて、思わず言葉をなくしてしまった。

「どうしたの〜〜?」

 私の問いに、龍樹はただ優しく頭を撫でてくれながら、微笑むだけだった。

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