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死化粧に雪  作者: 天猫紅楼
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よみがえった王子様

 それからしばらくの記憶はあまり無い。

 力任せにお棺の蓋を割り投げ、彼に抱きつきながら、遠く周りの喧騒を聞きながら、気を失うように眠ってしまったようだった。

 目が覚めてまず最初にしたのは、頬をつねることだった。もしや夢かもしれない。そう思ったからだ。

 頬をつねった痛みは、ちゃんと現実であることを教えてくれた。

 ゆっくりと身体を起こすと、あたりを伺った。どうやら私は、彼の部屋に寝かされていたようだ。見慣れたポスターが、目に映る。

『一緒にライブへ行ったっけ……』

 そんな風にぼんやりと思い出に浸っていたが、はたと我に帰った。

「そうだ!龍樹は?」

 彼の姿が見えないことに気づき、慌ててベッドから飛び降り、階下へと階段を駆け下りて行った。

 もしかしたら、やっぱり夢だったのかもしれない。お葬式の最中に気を失って、そのままここへ連れて来られたのかもしれない。そんな不安や疑念が私の頭の中を支配する。そして握り絞られそうにきしむ胃を押さえながら、階段を下りきったとき、ちょうど目の前にある玄関の扉が開いた。

「きゃっ!」

 勢い余ってつまづきそうになった私を、力強い腕と胸が受け止めた。

「あ!た……龍樹!」

 見上げるとそこには、私のよく知る龍樹がいた。

「龍樹~~!夢じゃなかった!龍樹は生き返ったんだ!」

「なんだ、随分と元気だな、お前は」

 笑いながら私の頭を撫でる龍樹。私は、力一杯彼を抱きしめた。

 夢じゃない!

 ちゃんと温かいし、柔らかいし、優しい声も聞こえる。龍樹が帰ってきた!

 そう実感するほどに、私は後から後から涙が溢れた。龍樹はそんな私を抱きしめ返して、呆れたように自分の袖で涙を拭ってくれた。



 龍樹は医者から帰ってきたところで、私は気を失ってから、八時間くらい、それこそ死んだように眠り続けていたらしい。

「お前、俺に圧し掛かったままで、どれだけ揺らしても起きねーから、マジで死んだのかと思ったぞ」

 死んでいたのは龍樹の方なのに、まるで何もなかったかのように笑っていた。

「ねぇ、本当にどこも悪く無いの?」

「ああ。医者が言うには、頭も身体のどこも悪くないってさ。むしろ、長いこと眠っていたから、健康体になってるって」

 肩をすくめる龍樹の頬や腕、足、肩、お腹、至る所を揉んだりさすったりして、私が納得するまでにはしばらくの時間がかかった。

「なぁ、もういいだろー?」

 あきれたようにそう言って私の両肩をがしっと掴んだ龍樹は、私を真正面からじっと見つめ、

「俺はこうして生きてる。信じなさい!」

と笑った。その鼻すじにしわが寄るところも、龍樹だ。私は大きく頷いて、もうひと泣きをした。


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