お姫様のキス
師走に入った頃、彼が死んだ。
発見された時、道路に倒れた彼を覆い隠すように、雪が積もっていたそうだ。
私は泣き腫らした目で、座り込んでいた。
目の前には、白装束に包まれた彼が、敷かれた布団の上に横たわっている。
フワリと置かれた布に手を掛けて、真っ白な顔を、何度も見た。
もしかしたら、ふっと目を覚ましてくれるんじゃないか、そんな期待がずっと止まなかった。
それほど、彼の顔は安らかで、まるでただ眠っているだけのようだったから。
「麻里ちゃん、少し眠ったら?身体に触るわよ」
彼のお母さんが、私の肩にそっと手を置いてそう言った。その手も、見上げた彼女の顔もすっかりやつれ、その笑顔は力ないものだった。私は小さく頷いて、お母さんの手を握った。
「ありがとうございます。でも、あともう少しだけ……」
泣きすぎて、声もかすれていた。私はそれでも、ニコリと微笑んでみせた。
たった一人の息子を失った痛みは、きっと私よりも強いはず。私は、こんなに弱くて気丈なお母さんの娘になるはずだったのだ。強くありたい。支えてあげたい。そう、思っていた。
「龍樹は、幸せものよ。こんなに優しいコと一緒に――」
言葉は続かなかった。それはもう、願っても叶えられない事だったからだ。丸い背中をもっと屈めて、お母さんは肩で大きく息を吸った。
「本当に、バカなコ……」
私はお母さんの背中をさすって、再び布に隠れたままの彼の顔を見つめた。
非常にも葬式の準備に追われる彼の家族を後ろに感じながら、私は彼の傍についていた。そして、結局一睡もできないまま、朝を迎えていた。
換気を、と思ってカーテンを開けると、窓ガラスが白く曇っていた。水滴を拭うように這わせる手の向こう側に、白い景色が眩しく広がっていた。南天の枝葉や、その向こうに停めてある車、道も屋根もみんな、真っ白な雪で覆われていた。
やがて部屋の中も慌ただしくなり、彼を運ぶ準備を始めた。私は、お棺の中に横たわる彼を見下ろした。
『狭いな……』
それほど太っていないのに、お棺はピッタリと彼を包み込んでいた。
周りを花で囲まれ、彩りに映えるように、彼の顔は真っ白だった。私はふっと笑った。
『なんだかすごく――』
「龍樹〜〜、綺麗だよぉ〜〜」
そう言いながら、身を乗り出して、くちづけをした。
…………
冷たくて固いはずの彼の唇が、柔らかく温かく感じた。
「え?」
顔を離した私の目前
彼の瞳が
開いていた。