利口な生き物
ある日、イオはカリストを捜していた。どうにも近頃のカリストは様子がおかしいところがあって、毎日、昼休みや放課後になるといつの間にかフイっと姿を消し、しばらくすると戻ってきているという寸法である。どこに行っているのか訊いても、テレテレと笑うばかりではぐらかされる。どう考えても何か隠し事をしているとしか思えないのだ。
イオは取り敢えずカリストが事ある毎に「問題行動」を起こしている学園の裏庭へ向かってみた。と、意外とあっけなくカリストの姿は確認できた……手に何かの紙袋を持って、森の奥へとフニャフニャと歩いていくのが見えたのだ。
「……まさか……あのバカ……隠れて変な薬物を吸引してるとかじゃ……」
とは呟いてみたものの、とてもではないがそんなカリストを想像できない。イオは得も言われぬ一抹の不安を感じながら、カリストの後を密かに追跡する。
ややして、森の奥から何か得体の知れない不気味な叫び声が聞こえ始める……人間の声とは思えない異様な叫び声だ。
「!?……いったい何を……?」
イオが恐る恐る立木の影から覗くと、カリストは雑木林の少し拓けた場所に跪いて、しきりに何かに話し掛けているようだった。
「……あのコ、誰かと話ししてる……? でも誰と……?」
バタバタという音と共に、先程と同様に奇妙な叫び声……カーカー言っている。
「あ、カラス」
イオは気が抜けた。カリストは叫び声、もとい鳴き声を上げているカラスに向かって「くわ~くわ~」と必死に話し掛けながら、エサを与えているのだった。どのような経緯なのかは判らないが、とにかくカリストはカラスの餌付けをしているらしい。
イオは苦笑いして、そっと踵を返した。
「……ま、あのバカのことだから、ケガしたカラスの世話でもしてやってるってとこかしらね……心配して損した……帰ろ」
ただ、実際のところ、別にカラスはケガなどしていたわけではない。恐るべき事にカリストは野生のカラスを巧い具合に餌付けしただけなのだ……その理由?
理由はカラス語(?)を教えてもらうためだったことが事後に判明するが、カリストが言うには利口なカラスは要領よく餌だけをせしめて、まったくカラス語は教えてくれなかったとか……。