風に叫ぶ
ある日、イオは野球部の部室にいた。野球部の部室はソフトボール場の脇にあるソフトボール部の部室の裏に位置しているのだが、部室というよりも用具置き場のような小屋である。実質イオとカリストの2名しかいない野球部の立場は極めて弱く、ほとんどソフト部のオマケのように扱われていた。実際、グラウンドは「ソフトボール場」であるし、そのように造成されているのだ(なので土を盛ったマウンドはないし、塁間や外野も狭い)。イオとカリストは野球の練習をするときにはソフト部の邪魔にならないよう、隅っこの方でキャッチボールや素振りなんかをしているしかないのだ。
そういう経緯はあったが、野球部とソフト部は表だっては仲は良かった。イオはソフト部の選手の誰よりも球技への適正が高い上に身体能力にも優れていたため、ほぼ常にソフトの公式試合の助っ人をしてやっているし、カリストも野手として何度か試合に出たことがあった。カリストがピッチャーをできなかったのは、ソフトのボールが大きすぎて手に馴染まず、まったくコントロールが付かなかったからだ。
それはともかく、イオは野球部の部室の窓に木の板を取り付けていた。何かというと、今日の夜半頃には大型の台風が来るらしいからだ。先月の台風の時には、どこからともなく飛んできた木の枝で窓ガラスが割れてしまい、後片付けで大変な思いをしたためである。
「よし……っと。これで大丈夫よね、たぶん」
元からアテにはしていなかったが、それにしてもカリストは手伝いに来なかった。いちおう声は掛けておいたのだが。イオが頼み事をすれば、なんだかんだ言いながらも付き合ってくれることが多いのだが、今日はまったく放課後から音信不通だ。
「まぁ、いっか。台風が過ぎた後、後片付けをやってもらおう」
その頃、いよいよ風の勢いも増してくる中、カリストは校舎の屋上で凧を揚げていた。カリストが言うには200メートルの凧糸を4つ使ったとのことなので、かなりの高度まで凧は揚がったらしい。
「えへへ~♪ そいでねぇ、執行部がわたしに出頭するようにって♪ 何かゴホウビ貰えるのかなぁ♪」
「……さあ? そうだとイイわね……」