形状記憶
ある日、イオはカリストを前にして絶句していた。
カリストといえば、歩くたびに肩の上で落ち着きなく揺れる、毛先が外側に大きく跳ねたブロンドが外見上の特徴のひとつだ。カリストの前髪や頭頂部を見る限り、基本的に地毛はストレートらしいのだが。
カリストが言うには、特に何もしていないらしい。パーマはもちろんのこと、カーラーを巻いたり、ヘアアイロンを使うこともないようだ。それどころか、ドライヤーすら髪を乾かすときにしか使わないし、そもそもヘアスプレーやムースの類も持っていない。身支度するときは適当にブラッシングするだけなのだ。どういう理屈で何が作用しているのかイオには理解できなかったが、どうやらヘアバンドが何らかの働きをしているようなのだが、とにかくカリストはそういう頭髪の持ち主であるらしい。
そんなカリストの髪が、髪型が、しんなりと完全なストレートになっているではないか!?
「ああああああんた!? そっ、それっ!?」
イオは思わずカリストを指さし、戦慄く。
「かっ! 髪っ!?」
「ふぇ? あはは~♪ これ~?」
カリストは嬉しそうに真っ直ぐになった毛先を摘む。
「えへへ~♪ どっかな~? カワイイ~?」
「うーん……」
ウキウキと恥ずかしそうな嬉しそうな顔をしているカリストに対して、イオの表情はいまひとつ冴えない。なにをどうやったものか、カリストはトレードマークとも言えるヘアバンドもせず、真っ直ぐになった髪を中分けにしていた。こうして見ると意外と髪が長いことが判る。
「んう~? あんまし似合ってないかなっ? カワイくないかなっ?」
「うーん……カワイイって言えばカワイイけど……うーん」
翌朝、カリストの髪は何事もなかったかのように、いつも通りに戻っていた。
「あ、髪。戻したの?」
「うん♪」
カリスト自身はケロリとした様子であったが、イオは内心で申し訳ないことをしたような気がしていた。きっとカリストなりに思うところがあって髪型を変えたのだろうに、意を汲んでやれなかったような気がしたからだ。
だが、カリストはいつものように朗らかな笑顔を見せる。
「えへへ~♪ だって、イオってば、こっちの髪型のが好きなんだもねぇ♪」
「う……」