悲惨な戦い
ある日、カリストは寮の自室でアタマを抱えて真剣に悩んでいた。ヒザの上には先だって学園で行われた健康診断の通知がある。カリストは通知を見ては溜め息を吐き、アタマを抱えては通知を見るを繰り返して、すでに数時間経っていた。
そんなカリストをイオが訪ねてきた。
「あんた、どうかしたの? あ、それ、こないだの健康診断?」
「んう……うん……」
イオは浮かないカリストの様子に即座に気付き、神妙な様子だ。
「ん……どうしたの? もしかしてなんか問題でもあったの……?」
「んう……これ見て~」
カリストは泣きそうな顔をして、健康診断の通知をイオに差し出す。いくらカリストのであっても、他人の健康診断の結果を見るなんて気が引けたが、本人が見ろと言うのだから見ないことにはハナシが進まない。カリストの身体に何か深刻な病気や問題でもあったのだろうか? イオは少しばかり緊張しながら通知に目を通した。
「……って、超が付くほどの健康優良体じゃないのよっ!? 虫歯ひとつ無いっ! あと、意外とおシリが大きい!」
カリストの心身は、病気どころか、昨日産まれたばかりの赤ちゃんかと思うくらい健康的で若々しいものだった。まったく一点の懸念もない。イオは腰砕けだ(いつものことだ)。
「両視力が3.5とか、どこの未開人よっ!? ……私なんて0.5とかなのに」
「ふぇ? イオってば視力が悪かったんだ~?」
「え? 知らなかったの? 私、コンタクトなんだけど……ってさ、あんた、なんで鬱いでたのよ? 健康診断の結果、ぱっと見ぜんぜん問題ないじゃない? ……思ってたよりもおシリが大きかったのが意外だったけど」
イオに問われると、カリストは再び鬱々とした表情で萎びる。
「えとねぇ……えと……わたしってばねぇ……去年の健康診断の時より、おムネ、ちっちゃくなっちゃったんだよっ……」
「……ああ、そう。そういうこと……ああん」
イオが呆れながらも通知に併記されている去年の数値を見れば、確かに今年の方が5mmばかり小さくなっていることが見て取れた。
「いやさぁ、同情はするけど、でもまぁ、呼吸のタイミングとかで多少は誤差も出るでしょ、きっと」
「そっかなぁ……じゃあ、おムネちっちゃくなったわけじゃないのかなっ?」
「成長期なんだし、小さくはならないと思う。気にするようなことじゃないわよ。代わりに意外とおシリが大きいし」
「えへへ~。イオがそういうなら気にしない~♪ えへへ」
途端にてれてれと笑顔を見せるカリスト。しかし、確かに小さくなったわけではないにしても、まったく大きくもなっていないのだから決して喜ぶべきことではないのだが。